第194話 三人目の恋人
目を覚ました瞬間、ユークは息をのんだ。
すぐ隣に、すやすやと眠るヴィヴィアンの姿があったからだ。
ピンク色の髪がシーツに広がり、柔らかな寝息が彼の胸に触れてくる。
昨夜の記憶が胸の奥から鮮やかによみがえり、思わず鼓動が早まった。
(……夢じゃない。俺は、本当にヴィヴィアンと……)
熱を帯びた記憶と共に、彼女の愛おしげな表情、甘えた声が脳裏に浮かぶ。
目の前の寝顔を見つめるだけで、胸がいっぱいになった。
「……ユーク君?」
やがて、彼の視線に気づいたのか、ヴィヴィアンがゆっくりとまぶたを開いた。
瞬間、彼女の頬にぱっと赤みがさす。昨夜の出来事を思い出したのだろう。
寝起きのとろんとした目で、それでも必死に視線を逸らす姿がたまらなく可愛かった。
「おはよう、ヴィヴィアン」
「……おはようユーク君。あの……昨日のことは……」
言いかけて、さらに顔を赤く染める。
ユークは微笑んで、そっと彼女の髪を撫でた。
「忘れるわけないよ。昨日のことも……君の気持ちも」
ヴィヴィアンはしばし黙り、やがて安堵したように微笑む。
その後、二人は照れ合いながら服を身にまとった。
――が、すぐに気づく。
「なんか匂うかも……」
ユークが服の匂いを嗅ぎながら顔をしかめて呟く。
「……やっぱり、お風呂に行かないと」
「うん、このままだとちょっとね……」
ヴィヴィアンが小さく呟き、ユークも苦笑する。
二人で廊下に出ると、一階のリビングからは朝食を準備する音が聞こえてくる。
リビングに行くと、アウリンがエプロン姿でテーブルを整えていた。
「あっ……」
「アウリンちゃん……」
ユークとヴィヴィアンは同時に固まる。
振り返ったアウリンは、二人のぎこちない表情を一目見ただけで察したのか、腰に手を当てて大げさにため息をついた。
「ちょっと、まったく……! 何よその空気は! ああもう、アンタたち、ちゃんと汗流したの? ちょっと匂うわよ! ほら、さっさとシャワーを浴びてきなさい!」
「う゛っ……」
「分かった、後で説明するよ……」
ヴィヴィアンはびくりと肩を震わせ、ユークも観念したようにため息をついた。
――風呂場。
桶は空だったため、ユークは両手を掲げ、小さく呪文を唱える。
「《ウォータークリエイション》」
透明な水が勢いよく満ちていき、やがて小さな風呂桶が満杯になった。
二人は並んでその水で汗を流すように体を洗った。互いに背を流し合い、無防備な姿をさらけ出す。昨夜の熱情を冷ますように、桶いっぱいの水をかけあっては、無邪気な笑い声をあげた。
互いに視線を合わせるたび、まだ気恥ずかしさが消えなかった。けれど、笑顔を交わし合うだけで、昨夜とは違う新しい絆を確かに感じられる。
――やがて着替えを済ませ、再びリビングに戻ると。
そこにはアウリンに加え、セリスとテルルも揃っていた。
全員の視線が一斉に注がれ、ユークは一瞬居心地の悪さを覚える。
ここで黙ってやり過ごすこともできただろう。だが――。
「みんな、聞いてほしいことがある」
ユークは深く息を吸い込み、真剣な眼差しでまっすぐに皆を見据えた。
「昨日、ヴィヴィアンに告白された。そして俺は、その想いをまっすぐに受け止めたいと思ったんだ。だから……ヴィヴィアンを、俺の恋人に迎えさせてほしい」
ユークはそう告げ、アウリンとセリスに向かって深く頭を下げた。
静まり返る空気。
最初に破ったのは、テルルだった。
「よかったのうヴィヴィアン! ワシも人肌脱いだかいがあったというものじゃ!」
彼女は嬉しそうに笑い、大きく手を叩いた。
次に口を開いたのはアウリン。
「良かったじゃない、ヴィヴィアン。……いつかこうなるって思ってたわ」
柔らかい笑みを浮かべて頷く。
「むー……ユークのことは私のほうが先に好きだったんだからね!」
そう言って頬を膨らませたセリスは、一度深く息を吐き出す。
「……仕方がないから認めてあげる。ヴィヴィアンは友達だから」
彼女の瞳はまっすぐに二人を見つめていた。
「……ありがとう、みんな……」
ヴィヴィアンは顔を赤くしながら、何度も小さく頷いた。
「はいはい、話はまとまったわね」
アウリンが手を叩いて場を仕切る。
「冷めちゃう前に、朝ごはん食べちゃいましょう?」
初めはぎこちなかった食卓の空気は、時間が経つにつれ、徐々に和らいでいった。
誰かの言葉をきっかけに、少しずつ会話が弾み始め、いつしか笑い声が満ちていく。皆で食事を囲む、いつもの温かい時間が戻ってきた。
――食後。
「今日はどうする?」
ユークが問いかけると、アウリンが答えた。
「エウレさんに挨拶に行きましょう。私たち、もうすぐ街を離れるんだし」
全員がうなずき、準備を終えて家を出る。
やがて辿り着いたのは、豪奢な屋敷だった。
迎えに出たメイドに案内され、奥の部屋へ入ると、そこにはいつものように椅子に座ったエウレがいた。
「おお、ユーク君! 無事に助けられたそうじゃないか!」
彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべ、手を叩いた。
「私も色々と協力したかいがあるというものだよ!」
その間にメイドがユークたちを椅子へと導き、紅茶を配っていく。
「はい。本当に色々とお世話になりました」
ユークは笑顔でお礼を述べ、頭を下げた。
「うんうん」
気分よく頷くエウレ。
「ただ……俺たちはこの街を離れて、王国に行くつもりなんです。お礼といっても、これを渡すくらいしか出来ないんですけど」
そう言ってユークはヴィヴィアンに目配せをした。
「うん?」
エウレは目を丸くする。
「これ、前に話していた魔道具です」
ヴィヴィアンがルチルから渡された“転移封じの天蓋”を差し出す。
「えぇ……? なんでそんなことに……」
エウレは受け取って困惑の表情を浮かべた。
「……実は渡されたことは秘密にしておけと言われていて……」
ユークは申し訳なさそうに説明する。
「いや、そっちじゃないよ!? 街を出るって!? なんで!?」
エウレは立ち上がり、驚きの声を上げた。
「最近、“塔”の様子がおかしいでしょう? 面倒ごとに巻き込まれる前に離れようと決めたんです」
アウリンが代わりに説明する。
「いやいや、待ってよ。そんな簡単に決めないで! もっと落ち着いて考えようよ!?」
「俺たちも考えたうえでの結論なんです」
ユークの言葉に、エウレは必死に引き止めようとしたが、その決意が揺るがないと悟ると、やがて腕を組み、深いため息をついた。
「……まったく、仕方ないな。わかったよ。じゃあ私も王国に行けばいいだけの話だ」
「えっ、私たちと一緒に?」
アウリンが驚くと、エウレは肩をすくめて笑った。
「いやいや、君たちと一緒じゃない。私には私の準備がある。ただ……王国で拠点が決まったら、必ず連絡してくれよ」
そう言い残し、彼女は軽く手を振った。
エウレの屋敷を後にしたユークたちは、次なる目的地――探索者ギルドへと歩みを進めていった。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:ヴィヴィアンの想いを受け止め、三人目の恋人を迎え入れた。仲間たちに正直に伝えることで、改めて信頼を得ることができた。
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セリス(LV.42)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:内心複雑ながらも、ヴィヴィアンを友として認めることでパーティーの絆を優先した。
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アウリン(LV.43)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:朝食の準備中に二人の様子を察し、わざと大げさに注意して場を和ませた。姉のように振る舞いながらも、内心は少し複雑。
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:ついにユークへの想いが結ばれ、晴れて恋人となった。仲間に受け入れられ、照れながらも心から安堵していた。
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テルル(LV.34)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:エウレとはこの場が初対面であり、終始気まずさを感じていた。
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エウレ(LV.??)
性別:女
ジョブ:??
スキル:??
備考:最近彼女もきな臭さを感じていたから、実際いい機会ではあった。
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