第191話 ヴィヴィアンの告白
ヴィヴィアンの頬を伝う涙に、ユークは言葉を失った。
いつも毅然とした態度で仲間を守る彼女が、こんなふうに泣き顔を見せるのは初めてだったからだ。
「ヴィヴィアン……どうしたんだ? 何があった?」
ユークはそっと肩に触れる。しかし彼女は首を振り、涙を拭おうともしない。
「……なんでもないわ。私は……」
震える声。言葉はそこで途切れ、喉に詰まってしまう。
(だめ……ユーク君には、アウリンちゃんとセリスちゃんがいる。私なんか……そんな資格ないのに……!)
自分に言い聞かせるように心で叫ぶ。けれど、目の前でテルルがユークに身を寄せた光景が、どうしても頭から離れない。胸の奥が焼け付くように痛む。
「ヴィヴィアン」
ユークが優しく呼びかける。その声に縋りたくてたまらないのに、彼女は必死に背筋を伸ばし、騎士らしい凛とした表情を作ろうとした。
「……ごめんなさい。ちょっと……驚いただけ」
それだけを言い残し、背を向けようとする。
「ふむ……ユーク。少し席を外してはくれぬかの」
その瞬間、テルルが軽くため息をついた。
「え? でもヴィヴィアンが――」
「いいから。今はワシに任せておいてくれ」
テルルの声音には、普段の飄々とした調子ではなく、妙に真剣な響きがあった。
「……わかった。彼女を頼む」
ユークは迷ったが、やがて静かに頷き、部屋を出ていく。
残されたのは、テルルとヴィヴィアン。沈黙が数秒続き、やがて先に口を開いたのはテルルだった。
「……ヴィヴィアン。お前は、自分の気持ちから目を逸らし続けるつもりか?」
「えっ……」
射抜くように鋭い眼差し。しかしその奥には、孫を思う優しさが宿っていた。
「ユークに抱きついたワシの姿を見て、心が痛んだのじゃろう?」
「そ、そんな……!」
ヴィヴィアンは慌てて否定するが、声は裏返り、説得力に欠けていた。
「ワシはお主の祖父じゃが……女の姿になって、初めて分かったこともある。人を好きになる気持ちは、年齢も立場も越えて芽生えるものじゃとな」
テルルは微笑みながら言う。
「……お主もまた、ユークを好きなんじゃ。認めてしまえば楽になる」
「違う! だって……ユーク君には、もう恋人が……! アウリンちゃんもセリスちゃんもいるのよ! そんな人を好きになるなんて……私なんかが……」
言葉と同時に涙が零れ落ちる。ヴィヴィアンは拳を握りしめ、必死に抗っていた。
「“私なんか”などと……そんな卑屈な顔、ワシの可愛い孫娘には似合わんぞ?」
テルルはそっとヴィヴィアンに触れる。
「ユークのことを想って苦しいなら、それは恋じゃ。どれだけ否定しても、心は決して嘘をつかん」
ヴィヴィアンは震える瞳でテルルを見返す。
「でも……伝えたら、私とユーク君の関係が壊れてしまうかも……」
「壊れるかどうかは分からぬ。だが、伝えなければ一生後悔するじゃろう」
テルルは静かに言い切った。
「ワシが今日、ああしたのは……お主がその気持ちに気づくようにするためじゃ。孫娘が自分の想いから逃げ続ける姿など、見とうなかったからな」
ヴィヴィアンは息を呑んだ。
――祖父がわざと、自分を揺さぶるためにユークに抱きついた?
胸が締め付けられるような怒りと、同時に感謝のような感情が押し寄せてくる。
「……おじいちゃん」
小さな声で呟く。
「私、どうすればいいの……?」
テルルは優しく微笑んだ。
「答えは簡単じゃ。自分の心に正直になること。それだけでいい」
ヴィヴィアンはしばらく俯き、涙を拭った。そして静かに息を整える。
(私……ユーク君が、好きなんだ……)
ようやく自分の心を認めた瞬間、胸の痛みが少しだけ和らいだ。
――扉の外で待つユークの存在を思い、ヴィヴィアンはそっと胸に手を当てる。
「ありがとう、おじいちゃん……! 私頑張ってみるね」
ヴィヴィアンは吹っ切れたような笑みをテルルに見せた。
「良い顔になった。ユークと楽しそうにしている二人を見て、お前が悲しんでいる姿を見るのは忍びなかったからのう」
テルルは安心したように目を細めた。
「私ってそんなに分かりやすかったかしら……?」
ヴィヴィアンが恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「うむ。バレバレじゃったぞ!」
テルルが笑う。
「ふふふっ、そんなに?」
つられてヴィヴィアンも笑う。
二人はしばらくの間、楽しそうに笑い合っていた。
――その時、扉を叩く音が響き、ユークの声が届く。
「ヴィヴィアン、テルル……大丈夫?」
ヴィヴィアンは深呼吸をし、涙を拭った。
「ええ、大丈夫。もう落ち着いたわ!」
扉が開き、ユークが心配そうに顔を覗かせる。
彼の視線と交わった瞬間、ヴィヴィアンの胸に、関係が壊れてしまうかもしれないという不安と、拒絶されるかもしれないという恐怖が再び込み上げてきた。
手のひらにじんわりと汗が滲む
(今、言わなければ、きっと一生後悔する)
目の前の彼の、心配そうに自分を見つめる瞳が、彼女の背中を強く押した。
彼女は拳を握りしめ、勇気を振り絞る。
「ユーク君、私は……あなたのことが、好きです」
ヴィヴィアンはユークの目を正面から見据え、震える声で告げるのだった。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:仲間の想いを正面から受け止める時が来た。自分の答えを出すことを迫られている。
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:ユークへの恋心を自覚し、勇気を振り絞って想いを告げた。
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テルル(LV.34)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:孫娘を後押しし、自分の役目を果たせたことに安堵している。
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