第18話 カルミアの災難
カルミアたちは、新たな仲間を探すため、探索ギルドのパーティーマッチングを利用することにした。
ユークに付いていったセリスが抜けた穴は大きく、そのままでは戦力不足が否めない。ギルドの紹介でやってきたのは、カルミアたちよりも一回り年上の青年だった。
「よ、よろしくお願いします! 俺、モナズっていいます。剣士です!」
どこか頼りなさげではあったが、まともそうな男にカルミアたちは内心で安堵していた。
パーティーマッチングには、まともな探索者はめったに居ないと聞いていたからだ。
「お、普通のやつが来たな……」
「カルミアだ。よろしく頼む」
お互いに探索者カードを見せ合い、能力を確認した後、彼らは早速《賢者の塔》へと向かった。
この日の探索場所は昨日と同じ九階。出現するのは動きの遅いゴーレムたちだ。
一人増えたとはいえ、連携がすぐに上手くいくわけではない。
モナズは動きに慣れず、攻撃のタイミングがずれる場面もあった。
結果として、昨日とほとんど変わらない成果しか得られなかった。
探索を終え、ギルドで報酬の清算を済ませると、総額は257ルーン。
「一人46ルーン、ペリドは73ルーンだな」
カルミアが分配を終えると、ベリルが納得した様子で頷いた。
「まあ、昨日より減ったか。人数が増えた分、しょうがないな」
だが、ジルは少し不満そうに小声で漏らす。
「……ペリドがまた俺たちより多いのかよ」
カルミアの顔を立ててそれ以上は言わなかったが、どうにも納得はいっていないようだった。
そんな中、モナズだけは無邪気に声を上げた。
「うっひょー! こんなにもらえるんスか! いやぁ、いいパーティーに入っちゃったなー!」
一方で、ペリドは冷めた目をして報酬の袋を受け取ると、ぼそりと呟いた。
「……何だい、これは?」
「ん? あんたの取り分だろ? ちゃんと俺たちの1.5倍になってるはずだぜ?」
カルミアが怪訝そうに言うと、ペリドは鼻で笑った。
「足りないな……僕の分は最低でも昨日と同じ80ルーンだ」
「っ! 待てよ! 今日の探索を見てたんだろ? あれで昨日と同じは無理だ! それで我慢してくれ!」
カルミアの言葉は至極真っ当だった。しかし、ペリドは肩をすくめ、あっさりと言い放つ。
「はぁ、分かった。じゃあこれで終わりだね。今まで世話になったよ」
そう言って、ペリドはパーティーから抜けようとする。
「ま、待ってくれ! 分かった! これでいいだろ!?」
カルミアは焦りながら自分の報酬から銅貨を七枚取り出し、ペリドに手渡した。
「ふん。まあいいだろう」
ペリドは満足げに鼻を鳴らすと、そのままギルドを出て行った。
「おい! カルミア!」
「どうしてそこまで!」
ベリルとジルが非難の声を上げる。
「……十階のボスを倒すまでの辛抱だ。そこまでいけば、もっといい条件で強い強化術士を仲間にできる」
カルミアは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
「やっぱりユークを追い出したのは間違いだったんじゃねえかな……」
「そうだな。攻撃の隙を埋めてくれたり、逆に隙を作ってくれたり……あの野郎とは大違いだ」
二人が今さらなことを言い出す。
(あの時はお前らも賛成してたじゃねぇか……!)
カルミアは内心で毒づきながらも、なんとか二人をなだめようとする。
「まあ待てって。もう少しの辛抱だから、頼むからもうちょっと我慢してくれ」
二人は不満げな表情を見せながらも、しぶしぶ頷いた。
そのやり取りを横で聞いていたモナズは、ペリドが他のメンバーよりも多い分け前を手にし、颯爽とギルドを後にする姿をじっと見つめていた。
「……そっか。もっと活躍すれば、もっともらえるのか」
ぼそっと漏らしたその言葉は、カルミアたちの誰の耳にも届くことはなかった。
そして翌日。
午前中の探索は相変わらずだった。モナズは徐々に動きに慣れてきているものの、劇的な成長は見られず、討伐数も昨日と大差ない。
問題が起こったのは午後の事だった。
ゴーレムの巨体が地に崩れ落ちる。戦場に静寂が訪れ、舞い上がった砂塵がゆっくりと落ちていく。
「……やった! これで俺も報酬が増える!」
場違いな歓声を上げたのは、新入りのモナズだった。
彼の剣は確かに、ゴーレムの動力核を貫いていた。最後の一撃を決めたのは彼だった。
しかし――
「……お前、自分が何をしたか分かってんのか!?」
カルミアは怒りを抑えきれず、拳を握りしめながらモナズに詰め寄った。
ジルは腕を押さえたまま動かない。モナズを避けるため、大剣の軌道を無理に変えたせいで、筋を痛めてしまったのだ。
ベリルは片膝をつき、彼の盾だったものは無惨にも砕け散っている。それはカルミアを庇った結果だった。
だというのに、モナズは呑気に笑っていた。
「え? 何言ってんすか?」
「……お前のせいで、ベリルの盾はぶっ壊れた。ジルも腕をやられた。どうしてくれるんだ!」
「えー、勝手に怪我しただけじゃないっすか。俺になんか関係あるんすか?」
カルミアの額に青筋が浮かぶ。
「関係あるに決まってるだろ!」
怒鳴りつけても、モナズは「はあ?」と首を傾げるばかりだった。
「それより、活躍したんだから分け前増やしてくださいよ〜」
その一言で、カルミアの怒りは頂点に達した。
拳を振るおうとする――が。
「待て! カルミア!」
ベリルが体を張って止める。
「ベリル! なんで止める! アイツはお前の盾を……」
「見ろ! アイツの顔を!!」
ベリルが怒鳴る。そしてカルミアはモナズの顔を見た。
――何も分かっていないようなアホ面。
「っ……!」
カルミアは絶句する。
「分かるか? 怒るだけ無駄だ」
ベリルはカルミアの目を真っ直ぐに見て、冷静に言った。
「クソッ!」
「……あっ、終わりました?」
「っ!」
「よせっ!」
再び怒りが燃え上がるが、ベリルが止める。
結局、この日は普段よりもだいぶ早く探索を切り上げることとなった。
ギルドで清算を済ませるが、午後はほとんど狩れていないため、稼ぎはたったの160ルーン。
「じゃあ、俺の取り分を……」
モナズがウキウキしながら金を受け取ろうとする。
だが――
「お前の分があると思うか? あ゛あ゛!?」
青筋を浮かべたカルミアが怒鳴りつける。
「いやっ! 活躍したじゃないすか!」
モナズが抗議しようと詰め寄るが。
「うるせえ!! 今すぐ俺の前から消えろ!!」
カルミアが剣に手をかけると、モナズは青ざめて逃げ出した。
「ひいいいいい!」
「おい!」
「まずいぞ、カルミア」
ベリルとジルが慌ててなだめる。ギルドガードに通報されれば、最悪の事態になりかねない。
「分かってる! 分かってるよ!」
しかし、カルミアの怒りは収まりそうになかった。
そんな彼のもとに、一人の男が歩み寄る。
「では、ボクの取り分を貰おうか」
ペリドが手を差し出した。
「……今の状況分かって言ってんのか?」
カルミアがギロリと睨みつける。
「まあ、災難だったね。ベリル君の盾は壊れて、ジル君も腕を痛めて、剣も満足に振れないんだろう?」
まるで哀れむような目で三人を見るペリド。
「だったら!!」
「だけど、それは君たちの事情だ。僕には関係ないな」
それを、一言で切り捨てる。
「っ!」
怒りに震えるカルミア。それでも、彼は震える手で銀貨を数え、ペリドに渡す。
「うん、確かに。じゃあ悪いけど、これでパーティーは抜けさせてもらうよ」
そう言い放つと、ペリドは踵を返し、ギルドを出て行った。
「てめっ! ふざけんじゃねぇ! 何言ってやがんだ! おい!!」
とうとうカルミアがブチ切れるが、聞く耳を持たず、ペリドはそのまま去っていく。
ベリルとジルは必死にカルミアが剣を抜くのを防いでいた。
こんなところで剣を抜けば、確実にギルドガードのお世話になる。
そうなれば、とんでもない罰を食らうことは確実だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
カルミアは発狂したように叫ぶ。
その哀れな姿を見て、ベリルもジルも、何も言えなかった。
残りの金を三人で分けるが、その金額は宿代一泊分にも満たない。
貯金があるため、すぐに困窮することはない。しかし、ベリルの盾を買い直すには金がかかる。ジルの腕が治るまでは戦力にならない。それが痛手だった。
「じゃ、じゃあ俺たちは先に帰ってるわ」
八つ当たりされたらたまらないと、二人は早々《そうそう》に宿へ帰る。
しかし、カルミアは素面ではいられず、少ない取り分を酒に変えてギルドを出た。
酒を飲みながら、だらだらと道を歩いていると、目の前に見知った顔が現れる。
「お前、まだこの街にいたのか……」
ユーク。かつての仲間だ。
彼がPTにいた頃は順調だった。それが、今ではこのザマだ。
「てめぇがいるってことは、セリスも一緒だよなぁ?」
セリスの離脱は痛手だった。しかし、それ以上に、ユークが役に立っていたことをカルミアは認めたくなかった。
「そうだ! おい、ユーク。お前がセリスを連れ戻してくるっていうなら、お前をパーティーに戻してやってもいいぜ? 悪くない話だろ?」
まるで全てを許してやるかのような態度だった。自分が追放した相手に、戻る機会を与えてやる——その傲慢さが滲み出ている。
だが、ユークの目は冷ややかだった。
「もう俺もセリスも、お前のパーティーじゃない! お前が追い出したんだろ!!」
怒りに震えるカルミアは、ユークに自分の立場をわからせてやる為に拳を握った。
カルミアは結局最後まで、自分の愚かさに気づかなかった。
それが、彼自身の破滅につながっているとも知らずに。
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カルミア(LV.13)
性別:男
ジョブ:上級剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能を向上させる)
備考:ユークに頭を下げるのはプライドが許さない。
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ベリル(LV.12)
性別:男
ジョブ:盾剣士
スキル:盾の才(盾の基本技術を習得し、盾の才能をわずかに向上させる)
備考:盾を買い替えるには500ルーン必要。
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ジル(LV.12)
性別:男
ジョブ:大剣士
スキル:大剣の才(大剣の基本技術を習得し、大剣の才能をわずかに向上させる)
備考:一週間は安静にしてないといけない。
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ペリド(LV.30)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:ブーストアップ(パーティーメンバー全員の物理攻撃の威力を30%アップ)
備考:期待はずれでガッカリしてる。
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モナズ(LV.10)
性別:男
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能をわずかに向上させる)
備考:クズ。
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