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第17話 新たな決意


「まだやるのか?」


 ユークはカルミアに杖を突きつけたまま、いつでも魔法を発動できる状態を維持していた。


 視界がにじみ、頭がひどく重い。失血のせいだろう。だが、それでも杖の先は絶対にブレさせなかった。


 対するカルミアは、怒りのこもった目でユークを睨みつけながら立ち尽くしていた。


 剣は離れた場所に転がり、すぐには取り戻せそうにない。だが、まだ何か策があるのか、その表情には余裕が見え隠れしている。


 周囲では野次馬たちが息を呑み、固唾かたずを飲んで成り行きを見守っていた。


 その時——


「動くな! 双方、武器を捨てろ!」


 鋭い声が割って入った。


 野次馬をかき分けて、揃いの制服を着た集団が姿を現す。彼らは一糸乱れぬ動きでユークとカルミアを包囲した。先頭に立つのは、腰に長剣を携えた金髪の女性。


「ギルドガードだ!」

 誰かが叫ぶと、周囲がざわめいた。


 ギルドガード——。この街には法律がない。どこの国にも所属しない独立した都市であるがゆえ、秩序を維持するのは探索者ギルドの役目だった。


 ギルドは様々なルールを定め、それを守らせるために、高レベル探索者たちをスカウトしてギルドガードを組織したのだ。


「お前たち、探索者同士の街中での戦闘は禁止だ。今すぐ武器を捨て、両手を上げろ」


 ギルドガードのリーダーらしき女性が鋭く命じる。


 彼女はくすんだ金髪をショートカットに整え、鍛えられた体のラインが浮かぶ革鎧を身にまとっていた。その鎧は他のメンバーと同じデザインだが、彼女だけが放つ威圧感は格段に違う。


 ユークはすぐに杖を地面に置き、両手を上げた。

 カルミアも苦虫を噛み潰したような表情で、しぶしぶ両手を挙げる。


 ——その瞬間。


 ユークの意識がふっと遠のいた。


 急なめまいに襲われ、世界がぐらりと傾ぐ。

「……っ!」


 身体が崩れ落ちる、その直前。

 誰かの腕がユークの体を支えた。


「おいっ! どうした!?」

 女性の声が耳元で響く。それを最後に——ユークの意識は闇に沈んだ。



「……ここは?」

 ユークが目を覚ますと、白い天井が目に入った。


 自分はベッドの上に横たわっている。


「気が付いたか」

 声の方を見ると、白衣を着た中年の男が腕を組んで立っていた。不愛想な表情でこちらを見下ろしている。


「あの……」


「安心しろ。ただの魔力欠乏症(けつぼうしょう)だ。休んでいれば治る」

 男はそれだけ言うと、ベッドから離れようとする。


「待ってください! カルミアは!?」

 ユークは街中での戦闘を思い出し、勢いよく身を起こそうとした。


 ——が、体が言うことを聞かない。


「こらっ!! 安静にしてろと言っただろうが!!」

 男が怒鳴りながら駆け寄り、ユークをベッドに押さえつける。


「ちょっ……! 離して……!」

 もみ合いになりかけたその時、部屋の扉が開いた。


「失礼する。意識は戻ったようだな。話を聞きたい」

 低く、冷静な声。


 入ってきたのは、ギルドガードのリーダーの女性だった。


「アズリア! 後にしろと言ったはずだ!!」

 白衣の男が怒鳴る。


「いつまでも待っていられん」

 アズリアと呼ばれた女性は、冷たく言い放つ。


 ユークは迷うことなく口を開いた。

「待ってください! 話します! 話しますから!」


 今はとにかく情報が必要だった。


「ほら、患者もそう言ってるが?」

 アズリアが男を見下ろす。


「チッ……10分だけだ。それ以上は叩き出す!」


「10分あれば十分じゅうぶんだ」


 アズリアは微かに口角こうかくを上げると、鋭い視線をユークに向けた。


「さて、少年。話してもらおうか」

 鋭く低い声が響く。


 ユークはうなずくと、聞かれるがままにこれまでの経緯けいいを話し始めた。


 アズリアは真剣な表情でユークの話に耳を傾けていたが、時折、同じ質問を繰り返してきた。確認のためなのだろうが、正直、何度も聞かれるのは少し鬱陶うっとうしい。


 しかし、ユークは嫌な顔を見せないように気をつけながら、根気こんきよく説明を続けた。


「ふむ……野次馬どもの話とほぼ一致しているな」

 アズリアは手元のメモをじっと見つめ、何度か頷く。


「分かった。災難だったな。もういいぞ」

 そう言うと、アズリアはくるりと背を向け、そのまま帰ろうとする。


 だが、ユークは咄嗟とっさに声を上げた。

「待ってください! カルミアはどうなるんですか!?」


 言葉にしてしまってから、ユークは自分の気持ちが分からなくなった。

 カルミアに罰を受けてほしいのか、それとも、あまりひどい目には遭ってほしくないのか——どちらの感情なのか、自分でも整理がつかなかったのだ。


 アズリアは足を止め、少し思案するように沈黙した後、淡々と告げた。


「……まあいいか。罰は受けることになる。お前と同じ、ギルドでパーティーマッチングを受けられなくなるのに加えて、半年の探索免許剥奪(はくだつ)だ」


「——っ!」

 ユークは絶句した。


 マッチングの禁止だけならまだしも、半年間ダンジョンに潜れないというのは致命的だった。


 ギルドの依頼は十階層以上を攻略したパーティーにしか受けられない。つまり、カルミアは街で金を稼ぐ手段を失う。これは実質的な追放処分と変わらない。


「そんな……」

 ユークが呆然としていると、アズリアは興味なさげに肩をすくめた。


「何をショック受けてるのか知らんが……ああ、同じ街の出身だったな。まあ、諦めろ。奴の場合は自業自得だ」

 そう言い残し、アズリアは去っていった。


 だが、ユークも他人事ではなかった。

「ギルドでパーティーマッチングを受けられなくなる……二人になんて謝ればいいんだ」


「……話は終わったな?」

 不意に、そばにいた男が低く言った。


 ユークが顔を向けるよりも早く、男の手が肩を押し、強引にベッドへと横たえさせる。


(どうすればいい……)

 暗闇の中、ユークは一人、答えの出ない悩みに囚われ続けた。



 それから一時間ほど経ったころ、男がユークの荷物を抱えてやってきた。

「もういいぞ。今すぐ荷物を持って出ていけ」


 乱暴な口調だったが、男の手つきは意外と丁寧ていねいだった。


 ユークは荷物を受け取り、手早く中を確認する。


「……あっ!」

 思わず声がれた。


「プレゼント!」

 ここにきて、ようやく二人へのプレゼントのことを思い出した。


 慌てて荷物を漁ると、そこにあった服は無残に切り裂かれていた。しかし、幸いなことに、プレゼントは無事だった。


 どうやら使わなかった銀貨の袋が、カルミアの攻撃から守ってくれたらしい。袋はもちろん、中の銀貨まで傷だらけになっていたが——


「よかった……」

 心底ホッとし、ユークは小さく息を吐いた。




 白い入院着からボロボロの服に着替え、ギルド横に併設へいせつされた医院をとぼとぼと出る。


「——ユーク!!」

 突然、二人の少女の声が重なった。


 息を切らせながら駆け寄ってきたのは、アウリンとセリスだった。


「や、やあ」

 ユークは苦笑しながら手を挙げたが、二人の表情を見て、胸が罪悪感でいっぱいになった。




 三人はギルドの個室に集まり、扉を閉めた瞬間、重い沈黙が降りた。


 次に響いたのは、鋭い怒声だった。


「……あんた、自分が何をやらかしたか、わかってるの!?」

 アウリンが椅子から立ち上がり、勢いよくテーブルを叩く。


「どうして戦闘したのよ! ルールはルールでしょ! 私たちまで巻き込まれることになるって、考えなかったの!?」

 怒りを隠さず、アウリンが詰め寄る。


「待って! 悪いのはカルミアでしょ!? ユークは巻き込まれたんだよ!」

 セリスが必死にユークを庇う。


 だが、ユークは何も言い返せなかった。自分のせいで、仲間まで罰を受ける羽目になったのだから——

「……ごめん」


「謝って済むなら罰なんてないのよ!」

 アウリンは腕を組み、ため息をつく。


 しばしの沈黙のあと、彼女はじっとユークの顔を見つめ——ふっと口元に笑みを浮かべた。


「……でも」

 不意に、アウリンがユークの頭を軽く叩く。


「よくやったわ!」


「え……?」


「だって、暴漢相手に黙って殴られるだけなんて、つまらない男じゃない? 男ならきちんとやり返さないと」

 いたずらっぽく微笑むアウリン。


「まあ、チームの連帯責任がなければ、もっと褒めてあげたんだけど」


「……ありがとう」


「いいのよ。仲間でしょ?」


「ちょっと! アウリンだけずるい!!」

 セリスがユークを後ろから羽交い絞めにするように抱きしめる。


「ちょっ! セリス!」


「……あっ! そうだ、二人に渡すものがあったんだ!」


 ユークはわざとらしく言いながら、セリスの腕から逃れ、荷物を漁る。そして、二人にプレゼントを手渡した。


 セリスには、槍を象ったペンダント。

 アウリンには、炎をイメージした赤い宝石の髪留め。


「「……!!」」


 二人は驚きの表情で、プレゼントを見つめる。


「どう、かな? 二人に似合うと思って買ったんだけど……」


「すごい嬉しい! ずっと大切にするね!」

 セリスがペンダントをぎゅっと握りしめ、満面の笑みを浮かべる。


「ありがとう、大切にするわね」

 アウリンも髪留めを見つめ、嬉しそうに微笑んだ。


「……どう?」

 アウリンが髪留めをつけ、ユークに見せる。


「あっ! ほら、私も!」

 それを見て、セリスも慌ててペンダントを首にかけ、胸を張る。


「二人とも、すごくよく似合ってるよ……」


 ユークは、二人の笑顔を見つめながら、張り詰めていた心が癒されていくのを感じた。


「これからもよろしくね!」

「ユーク、ずっと一緒だからね!」

「……ありがとう、二人とも。これからもよろしく!」


 ——彼らの冒険は、まだ始まったばかりだった。


 ◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.11)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:二人に会えて本当によかった。

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セリス(LV.12)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:寝る前に貰ったペンダントを見つめて、にやけるのが日課になった。

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アウリン(LV.15)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:帰ったら相方に自慢するつもり。

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アズリア(LV.??)

性別:女

ジョブ:??

スキル:??

備考:既婚者で子供が二人いる。

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