第155話 暴かれた過去
「テルル?」
ユークが振り向くと、そこには呆然と立ち尽くすテルルの姿があった。
その表情には驚きと戸惑いが浮かび、まるで“いるはずのない人物”に出会ってしまったかのような様子だった。
(どうしたんだろ? すごく驚いてるみたいだけど……)
いつもと様子の違うテルルに、ユークは不思議そうに首を傾げる。
「え? テルル? それって……」
ヴィヴィアンがその名前に何かを思い出したように声を漏らす。
「一体何の騒ぎだ?」
しかし彼女が何か言うよりも早く、ギルドガードの隊長の一人、ダイアスが現れた。
「あっ、ダイアスさん!」
ユークが気づいて声を上げる。
「ん? ユーク君か……! 無事に救出されたんだな。よかった、本当に」
ダイアスは険しかった表情を緩め、安心したように微笑んだ。
「それより、博士の部下の一人を捕まえました!」
ユークはそう言いながら、ルーダの方へと視線を向ける。
「なにっ!? 本当か!?」
ダイアスの目が見開かれる。
「はい。悪魔のモンスターに変身するやつでしたが、一度倒したので、もう変身はできないはずです」
「悪魔……なるほど、監獄を襲撃した犯人か。お手柄だぞユーク君! ギルドからも懸賞金が出るはずだ」
そう言いながらダイアスは、テルルの大鎌で脅されているルーダの姿を確認し、満足げに頷く。そして部下に、拘束用の枷を持ってくるよう指示を出した。
待っている間、ユークはラピスたちのパーティーに紛れているミモルを見つける。
ミモルは笑顔でひらひらと手を振ってきたが、ダイアスはどこか気まずそうに目を逸らした。
やがてギルドガードの隊員が手枷を持って戻り、ルーダの両手にそれをはめた。
「それと、彼らのこともお願いします」
ユークが、博士に囚われていた人たちを指して言う。
「彼らは?」
ダイアスが問い返す。
「俺と一緒に博士に捕まっていた人たちです」
ユークは簡潔に説明する。
「そうか……! わかった、彼らのことは任せてくれ。あとは我々が引き受けよう」
その言葉にユークはようやく安堵の息をつく。重荷がひとつ、降りた瞬間だった。
囚われていた人たちは名残惜しそうにユークたちに別れを告げ、ギルドガードに連れられて去っていった。
そしてルーダもまた、複数のギルドガードに拘束され、ダイアスと共にその場を後にする。
人々を見送った後、ユークはまわりからの視線に気がついた。どうやら注目の的になっているようだった。
「とりあえず、ここは入り口だから。場所を移動しない?」
アウリンの提案に、ユークは素直に頷いた。
移動した先は、救出された者や一部の高ランク探索者にだけ特別に用意される専用の休憩用テントだった。
そこで、先ほど中断された話が再開される。
「そういえば、さっきテルルの名前に反応してたけど……どうしたの?」
ユークがヴィヴィアンに問いかける。
「ユーク君が言った“テルル”って名前に、聞き覚えがあったのよ」
ヴィヴィアンは言葉を切り、隣のアウリンに視線を送る。
「ええ。たしか、師匠が昔飼ってたペットの名前よね?」
アウリンが頷きながら続ける。
「え? ペット?」
ユークが思わず聞き返す。
「えーっと、たしか……コモドドラゴンだったかしら……?」
記憶を手繰るようにアウリンが言う。
「いやだから、アレはコモドドラゴンじゃなくて“コドモドラゴン”だと何度言ったら……!」
突然、テルルが身を乗り出して必死に訂正した。
「え?」
「えっ!?」
「……あっ」
アウリンとヴィヴィアンは怪訝そうな顔で見つめ、テルルはしまったと言わんばかりの顔で口を押える。
「……師匠?」
アウリンがおそるおそる問いかけた。
「いや……ち、違うぞ? ワ、ワシはヴォルフなんて男、知らんからな?」
テルルは汗をだらだら流しながら目を逸らす。
「なんでおじいちゃんの名前を知ってるのかしら〜?」
ヴィヴィアンが目を細めて詰め寄る。
「いや!? ヴォルフの名は有名じゃろうが!? だから、その……!」
テルルの声は震えていた。
「たしかに師匠は有名だけど、私の師匠だってことまでは知られてないはずよ?」
アウリンの声がだんだんと冷えていく。
「えーっと、だな……」
返答に詰まり、目線を彷徨わせるテルル。
「……そういえば、テルルって若返って青春をやり直したいって言ってたような……」
ユークはふと思い出し、ぽつりと呟いた。
「ばっ! 何で今それを言うんじゃユーク!」
テルルは慌てて口に指を当てて、軽率な発言をしたユークに抗議する。
「青春って……」
「えっ……まさか、本当におじいちゃんなの……?」
アウリンとヴィヴィアンは目を見開き、引き始めていた。
「もう、正直に話したほうがいいと思うけど?」
ユークは静かに、しかし優しく、テルルの頭にそっと手を置いて言った。
「むぅ……」
観念したように、テルルが小さく唸る。
「その……なんじゃ、二人とも。すまん」
そして、真剣な表情で二人に向き直ると、深く頭を下げた。
「嘘……でしょ?」
ヴィヴィアンは両手を口元に当て、驚きのあまり目を見開く。
「マジ……?」
アウリンもまた、顔色を失いながら、片手でこめかみを押さえていた。
二人の表情には、“信じたくないけど、認めざるを得ない”といった複雑な感情がにじんでいる。
――その場に、奇妙な静寂が流れていた。
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ユーク(LV.33)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:アウリンたちの反応からうすうす気が付いていた。
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セリス(LV.33)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:ユークの為に食事をとりに行っている。
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アウリン(LV.34)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:こんな形で師匠と再会することになるなんて……
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ヴィヴィアン(LV.33)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:ちょっと……信じたくないわね……
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テルル(LV.??)
性別:男(女)
ジョブ:??
スキル:??
備考:体は女だが、中身は男。精神が肉体に影響を受けているようで、言動などが幼くなることがある。
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ダイアス(LV.33)
性別:男
ジョブ:斧士
スキル:斧の才(斧の基本技術を習得し、斧の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ブレイクスラッシュ≫
備考:また仕事が増えた……
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