第154話 地上への帰還と再会の喜び
『ぐあああああああっっ!!』
ルーダの絶叫とともに、彼の手にあった黒い大弓が霧のようにほどけて消えていく。
左肩を貫いた石の弾丸は、そのまま背後の翼にも深い穴を開けた。
激しい痛みと衝撃にバランスを失い、ルーダは空中で身をよじるようにもがきながら落下していく。
だが、その顔には絶望の色はない。
むしろ、常軌を逸した執念が、本来以上の力を彼に引き出させていた。
(私は……私は博士の夢を、どうしても叶えなければ……!)
必死に羽ばたき、なんとか体勢を立て直す。その瞳には、なお消えぬ闘志が燃えていた。
そして、叫ぶ。
「《ブラックアームズ》!」
新たな武器を呼び出し、再び戦おうとした――その瞬間だった。
「させん!」
目前に迫ったのは、大鎌を振りかぶったテルル。
彼女は、砕けた『ストーンウォール』の根本を足場にし、跳び石のように空中を跳ねてここまで飛んできたのだ。落下したルーダの高度だからこそ届いた奇襲だった。
『ま、待…!』
「待たんっ!」
冷たく言い放ち、テルルは大鎌を容赦なく振り抜いた。
ルーダは咄嗟に防ごうとしたが、間に合わない。
鋭い刃が彼の身体を無慈悲に断ち切る。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!』
真っ二つにされたルーダの身体は、そのまま地面へと落下していく。
(博士……申し訳ありません……)
その想いを最後に、ルーダは大地に叩きつけられ、動かなくなった。
着地したテルルはストンと足を下ろすと、ユークのもとへ駆け寄る。
「やったな、ユーク! 勝ったぞ、ワシら!」
その表情には、子どものような喜びがあふれていた。
「うん! テルルのおかげだよ!」
二人は満面の笑顔で、勝利の余韻を分かち合った。
その足元では、デーモンの姿だったルーダの身体が、細かい光の粒子へと変わり、空中に散っていく。光の粒子の一部は集まり始め、もう一度人型を形作っていくものと、外側に流れて消えていくものとに分かれていた。
テルルは、その消えていく粒子を、無言で自身に吸収していく。
「《ブラックアームズ》!」
テルルが声を上げると、空間に黒い靄が立ちのぼる。それはまるで煙のように揺らめき、彼女の手元で武器の形を取ろうとしていた。
だが――
「……便利そうな能力だったんじゃが、いかんせん量が少なすぎるのう」
手の中に現れたのは、どうにか形になった程度の真っ黒なナイフだった。
それをしげしげと見つめたテルルは、大きく肩を落とし、心底がっかりした様子でため息をついた。
やがて、再び姿をとった人型の光が、悪魔に変身する前のルーダ――水色の髪の青年の姿へと戻る。
テルルは、躊躇なく彼に大鎌を向けた。
「……降参しろ」
冷たい声に、ルーダは鋭い視線を返した。
抵抗しようかと逡巡するが、ユークがこちらに向けて魔法陣を構えているのが見える。
その光景に、ルーダは力なく肩を落とした。
(無理……か、今の私ではあの魔法の速度に対応できない……)
「……わかりました。従いましょう」
静かに両手を上げると、テルルによってロープで拘束され、無力化された。
テルルが扉を開けると、待機していた囚人たちが雪崩れ込むように中へ入ってくる。
「ユークさん! ご無事で!」
「ああ、みんなも無事でよかった」
ユークの無事を確認した囚人たちは、涙を浮かべながら彼に抱きつき、再会の喜びを全身で表現する。
その後、ルーダを連れた一行は、テルルの大鎌に脅されながら歩かされる彼とともに、地下通路を進んでいった。
道中、テルルは銀の虫を使って周囲の気配を探り――
「……止まれ。敵が接近しとる」
テルルが足を止める。
その声に、ユークが魔法の詠唱を始めた。
現れたのは、巨大な猿型の魔物――マーダーエイプ。
ユークは叫ぶ。
「《ストーンレーザー改》!」
放たれた魔法が、魔物の頭部を撃ち抜き、一撃で沈めた。
「すごい……前より威力が段違いだ」
自分の魔法に驚くユークに、テルルが鼻を鳴らす。
「ふふん、すごかろう」
「テルル、この魔法……なんでこんなに威力が上がったの?」
「うむ、教えてやろう」
少し得意げな顔をしながら、テルルが説明を始める。
「石弾の密度を上げてみたのじゃ。元の強度ではお主の魔法の速度に耐えられなかったようじゃからの。その結果、強度も破壊力も跳ね上がったというわけじゃ」
「なるほど……密度を上げる……」
その理屈にユークは感心し、再び歩き出した。
地上を目指して歩く中、遠くから名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「ユークさーーん! どこですかー?」
「……その声は、ラピスさん!?」
ユークが大声で返すと、足音が近づき、ついに姿が現れる。
現れたのは、かつて霊樹事件の探索で共闘した上級探索者パーティーのメンバーたちだった。
「ユークさん! ご無事でよかったです!」
ラピスが安堵の笑顔を見せる。
しかし、ユークがもっと驚いたのは、その後だった。
その中に、思いがけない人物がいたのだ。
「やー。お久しぶりッスねー」
気さくに頭をかいたのは、水色の髪を後ろでまとめた女性――ミモルだった。
以前の誘拐犯アジト攻略作戦で共に戦った、ギルドガードの隊長である。
彼女はギルドカードの制服ではなくなっていたが、相変わらず露出度の高い服装をしていた。
「実はギルドガード辞めて、探索者になったんスよ。それで、ラピスさんのパーティーに拾われて……最初の仕事がユークさんの救出って聞いて、ビックリしたっス」
「そうだったんですね……」
驚きながらも、ユークは嬉しそうに頷く。
「アウリンさんたちも来てますよ。一緒に合流しましょう!」
ラピスがにっこりと笑いながら言う。
その言葉を聞いたユークの胸に、さらに温かい感情が湧き上がる。
ユークは、地下での出来事や囚人たちのこと、そしてテルルの存在をラピスたちに説明し、ミモルだけが先行してアウリンたちにユーク発見の連絡を伝えることになった。
ユークたちは地上を目指し、テルルの案内でモンスターを避けつつ進んでいく。
そして――ついに、地上の光が差し込んだ。
まばゆい光に目を細めるユーク。
「ユークっ!」
駆け寄ってきて、勢いよく飛びついてきたのはセリスだった。
その瞳には涙が浮かび、頬はすでに濡れている。その姿を見て、ユークの目にも自然と涙がにじんだ。
「本当に……心配したんだから!」
「ごめん、セリス……無事に戻れてよかったよ」
ユークは優しく彼女の頭を撫でながら、そっと謝る。
「ちょっと早いって、セリ……。えっ? ユーク、なの……?」
セリスを追って走ってきたのは、アウリンとヴィヴィアンの二人だった。
二人はユークの姿を目にした瞬間、まるで時間が止まったかのように動きを止め、そして――
「もうっ、心配したのよ!」
「ユーク君……無事で何よりだわ~」
涙を浮かべながら、一斉にユークに抱きついてきた。
三人の少女たちに囲まれながら、ユークはしっかりと彼女たちを抱きしめ、再会の喜びをかみしめる。
「うん……俺も、ずっと会いたかった。本当に……また会えてよかった……!」
もみくちゃにされながらも、ユークは泣き笑いのまま、心の底から安堵の息をついた。
今まで張りつめていた緊張の糸が、ようやくふわりと解けていく。
――やっと、帰ってこられたのだ。
「……そうだ、皆に紹介したい人が……」
その温もりに包まれながら、ユークはふとテルルのほうへ視線を向けた。
「テルル……?」
だが、そこにいたのは、どこか呆然とした様子で立ち尽くしているテルルの姿だった。
彼女の顔には、今まで見せたことのないような、驚きと戸惑いが入り混じった表情が浮かんでいた――
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ユーク(LV.33)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:ようやく帰ってこれたんだ……みんなの元へ……!
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セリス(LV.33)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:良かった……本当に無事で……! もう、二度と会えないかと思ったんだよ!?
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アウリン(LV.34)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:本当は、もっとたくさん言いたいことがあったのに……言葉が出てこないわ……!
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ヴィヴィアン(LV.33)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:やっと……やっと会えた……! 私、お話したいことがいっぱいあるのよ?
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テルル(LV.??)
性別:??
ジョブ:??
スキル:??
備考:何で、あ奴らが……ここに……?
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ラピス(LV.30)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪テラーバースト≫
備考:皆さん……再会できて、本当に良かった……
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ミモル(LV.30)
性別:女
ジョブ:双剣士
スキル:双剣の才(双剣の基本技術を習得し、双剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪クロスエッジ≫
備考:いやー、思ったより早く仕事が終わって良かったっス。
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ルーダ(LV.??)
性別:男
ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ
スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)
モンスター固有スキル:《ブラックアームズ》
備考:このロープ、きちんと金属糸が編み込んでありますね。外すのは無理か……
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