第153話 貫く弾丸と反撃の狼煙
止めを刺そうとしたテルルの追撃を逃れ、ルーダは天井付近で羽ばたきながら、肩を押さえてユークたちを睨みつけていた。
「片腕が無くて辛そうじゃな? 一度人間の姿に戻って腕を回復すればいいじゃないかの!」
テルルが大声で挑発するように叫ぶ。
『ははは、ご心配には及びませんよ!』
ルーダは悪魔の顔で口角を吊り上げ、余裕の笑みを浮かべて応じた。
(ダメか……さすがに幹部クラスには、ワシの能力が知られておるようじゃな……)
目論見が外れたテルルは、小さく舌打ちをする。
(その手には乗りませんよ、あなたの能力は博士から聞いています)
『《ブラックアームズ》!』
ルーダが荒々しくスキル名を叫ぶ。
黒い靄がルーダの失われた右腕に集まり、やがて黒く異形の義手が形成される。
「なっ……!?」
「そんなこともできるのか……!」
驚きの声を上げるユークとテルル。
『……ふぅ、問題はなさそうですね。だが――』
肩で息をしながら、新たに得た黒の義手を動かし、使い勝手を確かめるルーダ。
(ちっ、再生能力に加え、あの忌々しい大鎌の攻撃力……無策に近接戦を挑むのは危険ですね……)
不安を飲み込みながらも、ルーダは空中をゆっくりと旋回する。
(……なら、危険は冒さず遠距離から削り殺す!)
そう結論づけると、ルーダは再びスキルを発動した。
『《ブラックアームズ》』
黒い靄が集まり、大弓が形を成していく。
『……行きます』
ルーダは空中で大弓を構え、黒い大矢を生成。そのまま弦を引き絞って、解き放った。
「来るぞ!」
テルルがユークを庇うように前に出る。
ユークも即座に詠唱を始めた。
「ふんっ!」
テルルは迫る大矢を大鎌で弾き飛ばす。
『なるほど、やりますねぇ……では、これはどうですか?』
そう言って、今度は二本の大矢を弓につがえる。
「ぐっ……!」
テルルの額に一筋の汗が浮かぶ。
『行きなさい!』
二本の黒い大矢が勢いよく放たれた。
「《ストーンウォール》!」
ユークが石壁を召喚し、射線を塞ぐ。
だが、大矢は石壁を粉砕し、勢いを保ったまま二人に迫る。
「おおおおおおっ!!」
テルルは無理やり大矢を弾くが――
『お見事、次はどうです?』
「っ! 二射目じゃと……!」
すでにルーダは、次の二本の大矢を引き絞っていた。
『行け!』
弦が解き放たれ、二本の大矢が疾走する。
「はあああああっ!!」
テルルは黒い大矢を二本とも弾き返した。
「ぐあっ!」
だが、勢いを殺しきれず肩を抉られてしまう。
「ちぃっ! じゃが矢はもう……!」
すぐさま肩の傷を再生するテルル。
『《ブラックアームズ》』
地面に落ちた黒い大矢が靄となって天井のルーダのもとに戻り、再び四本の矢が形成された。
「くっ!」
テルルが悔しそうに歯噛みする。
『ふふふ、いつまで耐えきれますかね?』
嘲笑うような声とともに、再び二本の大矢がルーダの弓から放たれた。
「《ストーンウォール》!」
ユークが即座に詠唱し、矢の射線上に石の壁を出現させる。
だが――その壁を嘲笑うかのように、大矢は弧を描いて飛行軌道を変え、石壁の脇をすり抜けた。
「なっ……!」
テルルが矢の一つを弾いたが、もう一方が彼女の足に命中する。
『次は、無傷では済まないでしょう?』
冷ややかな声に、テルルが歯を食いしばる。
「ちぃっ……!」
テルルが避けるために動こうとするが、足の再生が追いつかずに片膝をつく。
『くらいなさい!』
再び、二本の大矢が放たれた。
「《フレイムボルト》!」
しかし、ユークの魔法がルーダの矢にぶつかり、黒い靄へと変えて消し去る。
『ほう……! 私の矢を迎撃するとは!』
意外そうに目を見開き、そして楽しげに笑うルーダ。
その裏で、ユークはすでに次の手を打っていた。
(今だ……《ストーンウォール》)
無詠唱の魔法によって、空中に石壁が現れる。
(……ここでストーンウォール? 矢を防ぐためではない……まさか、目的は――)
ルーダが目を細め、ユークの意図に気づく。
『そこですか!』
放たれた矢が石壁を貫き、粉々に砕け散る。
『なるほど……私のもとまでの“階段”を作る気でしたね?』
ルーダが得意げに笑みを浮かべる。
(くそっ!)
詠唱を続けながら心のなかで悔しがるユーク。
ルーダの反応は、想像以上に早かった。
『それと、そこっ!』
次の矢が、ルーダの足元で展開されかけていた魔法陣を撃ち抜く。
術式は完成を待たずして、霧のように掻き消えた。
「そんなっ……!」
思わずユークの口から驚きの声が漏れる。
(危なかった……気づかずに足場を作られていたら、ユーク様の魔法との連携次第では私が斬られていたかもしれなかったですね……)
余裕の笑みを取り繕っていたルーダの顔に一筋の汗が垂れる。実際今のルーダにはテルルに接近された場合の防御手段が無い、近づかれたら詰みなのだ。
「……ユーク」
険しい表情を浮かべたまま、テルルが静かに言った。
「このままでは、ワシらは――負ける」
「……っ!」
魔法の詠唱をしていたユークが、思わず息を呑む。
「ワシの再生能力は、自分の魔力を使っておる。このまま攻撃が続けば、先に魔力が尽きるのはワシの方じゃろうな」
テルルが大矢を弾きつつ、苦しげに語る。
(……カルミアと遭遇した時のために温存したかったけど、EXスキルを使うしかないか……?)
ユークの脳裏に、最後の手段が浮かぶ。
「ワシを助けた時に使った魔法、覚えておるか?」
迷うユークに、テルルがぽつりと語りかける。
(……ストーンレーザーのことか?)
ユークは、牢屋でテルルの腕を撃ち抜いた魔法を思い出す。
「《フレイムボルト》!」
「えいやっ!」
ユークが大矢の一本を迎撃し、テルルは大きく迂回して放たれた大矢を、かろうじて防ぐ。
「あの魔法の呪文を一部改造して威力を強化した。ワシが――うぐっ! 詠唱して見せるから、その魔法を奴にぶちかますのじゃ!」
大矢を弾き切れず、脇腹を抉られながらも、テルルは指示を続ける。
(あの魔法で、アイツに通じるとは思えないけど……)
「いいから、やってみい!」
その言葉に、ユークは不安を抱えながらも、テルルの詠唱に合わせて唱え始めた。
だがユークの魔法が使えない今、テルルへの攻撃を軽減する手段は無い。
「ぐううっ!」
テルルはルーダの攻撃を受けながらも、詠唱を止めなかった。
一方、ユークは彼女の詠唱に合わせて、タイミングを測る。
(テルル……きっと痛いはずなのに……!)
ユークはそんな彼女の姿に焦りを覚える。
「ユーク、焦るな。ワシは大丈夫じゃ。今は、奴を倒すことだけを考えろ」
振り返ったテルルが、脂汗をかきながら笑ってみせる。
(テルル……!)
ユークはその覚悟に応えるように、真剣な眼差しでうなずいた。
そして――
テルルが伝えてくれた詠唱を終え、ユークの前に魔法陣が展開される。
「《ストーンレーザー改》!」
放たれた魔法は、一直線にルーダへと向かっていった。
(速い!? しかし、彼の魔法で私にダメージを与えられるものなど……)
ルーダは余裕を崩さなかった。詠唱の長さからして、せいぜい中級魔法だと侮っていたからだ。
しかし、大弓を構えようとしたその瞬間――
『ぐあああああああっっ!!』
悪魔の鋼鉄の表皮が裂ける。
信じられない速さで放たれた石の弾丸が、ルーダの左肩を貫通し、肉と骨を砕いたのだ。
空中で体勢を崩した彼の絶叫が、地下全体に響き渡った。
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ユーク(LV.33)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:信じられない……ストーンレーザーであんな威力を出せるなんて……
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テルル(LV.??)
性別:??
ジョブ:??
スキル:??
備考:ふふふ、痛いのを我慢したかいがあったわ!
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ルーダ(LV.??)
性別:男
ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ
スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)
モンスター固有スキル:《ブラックアームズ》
備考:何がおこった!? 何故私の鋼鉄の肌が傷ついている!?
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