第151話 待ち受ける罠と灰色の悪魔
博士のアジト、上層にほど近い場所。
ズシン、ズシンと鈍い音が繰り返し響き、無機質なアジトの廊下の壁からパラパラと細かな破片がこぼれ落ちる。
そして──
「ふんっ!」
テルルの掛け声と共に、廊下の壁が四角くくり抜かれるように吹き飛び、床へと叩きつけられて土煙が舞い上がった。
「ゲホッ、ゴホッ……! て、敵は……?」
咳き込みながら、ユークが周囲を見渡す。
「ひとまず、姿は見えんようじゃな」
テルルがそう答える。
「みんな、出てきていいよ!」
ユークが後ろを振り返り、声を張った。
しばらくして、壁に空いた穴からおずおずと囚われていた人々が姿を現す。
「よし、行くぞ!」
テルルの一声で、一同は再び前進を始めた。
アジトの通路を駆け抜けていくユークたち。
「前方に敵じゃ!」
テルルの叫びに、ユークも顔を上げる。
その先に現れたのは、見覚えのあるモンスター――マーダーエイプ。
「っ、あいつは……!」
ユークが警戒を強める。
「邪魔じゃっ!」
テルルはユークをよそに一気に距離を詰め、瞬時に大鎌を作り出すと、体を回転させて振り抜いた。
長い銀髪がなびき、白いワンピースがふわりと舞う。
「ギャッ!?」
マーダーエイプはなすすべもなく両断され、そのまま消滅した。
「どうじゃ……?」
ユークのもとへ戻って並走しながら、テルルはちらちらと顔をうかがう。
「うん、ありがとう、テルル」
素直にそう返すユーク。
「う、うむ……」
なぜか不満そうな様子を見せるテルル。
(あれ……この反応、どこかで見たような……)
その仕草に、ユークはアズリアの家でリマちゃんと遊んだときのことを思い出す。
「……ありがとう、テルル。助かったよ」
そう言って笑いかけながら、彼女の頭をそっと撫でた。
(……これで合ってるか? 子ども扱いするなって怒られたりしないよな……)
さらさらとした銀髪が指に絡みつく感触を感じながら、内心不安を抱く。
「そ、そうか……? うむ。えへへ……」
テルルは気持ちよさそうに目を細め、もじもじと照れたように笑みを浮かべた。
(よかった、合ってたみたいだ……)
ユークはホッと胸を撫で下ろす。
その後もしばらく、テルルの指示のもとで廊下を進む一行。
途中、何度か敵に遭遇するが、そのすべてをテルルの大鎌が瞬時に斬り伏せていった。
「むっ、この先……なんか嫌な感じがするのじゃ」
立ち止まったテルルが警戒を強める。
「変な感じって?」
ユークが問い返す。
「広い空間がある。これまでは道を変えて敵を避けられたが、今度はすべての通路がその部屋に集まっておる」
「ってことは……」
ユークがハッとしたように表情を強張らせる。
「そう、待ち伏せにピッタリなんじゃ。にもかかわらず、人の気配がまったくない」
「罠、か……」
「罠じゃろうな……」
二人の言葉が重なる。
ユークは背後を振り返り、ついてきた人々に目をやる。
「俺たちだけで、部屋に入ろう」
「うむ……そうじゃな」
テルルがうなずいた。
やがて一行は、広間の入り口にたどり着く。
「みんなは、ここで待っててくれ」
振り返ってユークが告げる。
「わ、わかりました……お気をつけて」
不安そうに見送る人々に、ユークは片手を挙げて笑みを見せると、テルルと共に部屋の中へと足を踏み入れた。
「ふむ、不意打ちはないようじゃな……」
テルルが先に入り、周囲を警戒しながら呟く。
「ここって……」
ユークは室内を見回し、言葉を詰まらせた。
広い空間の中央には、異様な静けさが漂っていた。
壁には爆発の痕跡、床には黒く焦げた血の跡が残っている。
「ここは戦闘実験用の大部屋です。元は魔鉱石の採掘跡だったようですね」
思いがけない方向から声がした。
次の瞬間、天井のスリットから凄まじい音を立てて分厚い鉄扉が落下し、退路を完全に塞がれてしまう。
「っ!? 閉じ込められた!?」
「やはり罠だったか!」
振り返る二人の前に、ゆっくりと姿を現す影があった。
闇の中から歩み出たのは、肩まで伸びる水色の髪を持つ長身の男。
整った顔立ちに、青いスーツを身にまとい、眼鏡越しに冷ややかな目を光らせている。
「ユーク様、お迎えに参りました。どうか私と共にお戻りください」
ルーダは恭しく頭を下げた。
要するに、牢屋へ戻れということだ。
ユークはその言葉に拳を握りしめ、鋭い眼差しで男を睨みつけた。
「断る!」
「させると思うか?」
テルルも大鎌を構えて身構える。
「……では、無理にでもお連れしましょう」
ルーダの姿が変化し始める。
青かったスーツは灰色に染まり、筋肉が不自然に盛り上がっていく。肌の色も同じく灰色に変わり、頭部からはねじれた角が二本、ゆっくりと突き出す。
背中では肉が裂け、そこから黒くて大きな翼が生えた。羽ばたくたびに空気がうねり、辺りの空気が重たく感じられる。さらに、腰からは鋭い鉤爪のような尻尾が伸び、地面を叩くたびに不吉な音を響かせる。
やがて変化が完了した時、そこに立っていたのは、もはや人間ではなかった。
灰色の肌、屈強な体格、黒い翼と尾を備えた異形の怪物――まさに、悪魔のようなモンスター、デーモンだった。
『お覚悟はよろしいですか? 私は“あの男”が現れるまで、博士の配下の中で最強の存在でした。あの男相手に何もできなかった貴方に、私を倒せるとは思えませんが……』
眼鏡を失った顔で鼻先を押し上げるような仕草をしながら、ルーダ――いや、デーモンは裂けたような笑みを浮かべる。
ギザギザの歯が、不気味に光を反射していた。
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ユーク(LV.33)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:EXスキルは出来ればとっておきたい。
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テルル(LV.??)
性別:??
ジョブ:??
スキル:??
備考:もしアイツの能力を奪えたとしても、肌が灰色になるのは嫌だなぁと思っている。
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ルーダ(LV.??)
性別:男
ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ
スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)
備考:きっとこの場所を通ると思って、ずっと一人で待っていた。
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