第150話 襲い来る咆哮
「どうだ? 使えそうか?」
ルチルは、敵が逃げる際に使った転移魔法陣を調べている部下に声をかけた。
彼女はオライトの軍勢に同行し、二人の部下を連れてこの博士のアジト攻略に参加している。
ただし、その目的はオライトとは異なっていた。――国の利益のため、博士を抹殺すること。それが彼女に与えられた任務だった。
「ダメですね。どうやら、特定のマーキングされた人間にしか起動できないようです」
調査を終えた兵士が首を振る。
「そうか……となれば、次は殺さずに生け捕りにした方が良さそうだな」
ルチルがそう呟いた瞬間だった。
「下がれっ!」
ルチルの鋭い声が響き、彼女の警告に兵士たちは即座に反応する。魔法陣から距離を取り、身構えた。
直後、転移魔法陣が激しく光を放ち、巨大な猿のようなモンスターが現れる。
「マーダーエイプ……! 気をつけろ、報告によれば人間が変身した個体の可能性もある!」
ルチルの声に、兵士たちの表情が引き締まった。
「ガアアアアアア!!」
咆哮とともに、マーダーエイプが襲いかかってくる。
「来るぞ!」
ルチルを先頭に、兵士たちは即座に迎撃体勢を整えた。
――そして数分後。
倒れたマーダーエイプは光の粒子となって霧散していく。一方のルチルたちは、誰ひとりとして傷を負っておらず、疲れすら見せていなかった。
「大したことはなかったな。ただのモンスターか」
ルチルがつまらなそうに息を吐いた、そのとき。
「隊長! あれを!」
部下のひとりが叫ぶ。視線の先、転移魔法陣が再び光を放ち、二体目のマーダーエイプが召喚される。
「……なるほど、質ではなく量で押すつもりか」
ぼそりと呟きながら、ルチルは周囲の兵士たちに視線を走らせる。
「ずいぶんと舐められたものだな!」
その言葉とともに剣を構え、再び戦いに身を投じるのだった。
博士のアジト各地では、召喚されたマーダーエイプとの激しい戦闘が始まっていた。
「まったく、いちいち鬱陶しいのである」
黒い重装鎧に身を包んだ帝国の騎士・オライトが苛立たしげに呟く。構えすら見せずに一歩踏み込み、大剣を振るった。
次の瞬間、マーダーエイプの巨体が斜めに崩れ落ちる。
「この程度の獣など、相手にもならん……」
大剣を軽く払ったオライトは、疲労の気配すら見せずに次の敵へと向かう。
一方、別の区画では、帝国兵たちが連携してマーダーエイプと戦っていた。
「臆するな! 数でかかれば恐れることはない!」
指揮官の号令で、四人の兵士が円陣を組み、素早く動いて斜めから同時に斬りかかる。
ひとりが盾で注意を引き、他の三人が背後から斬撃を浴びせる。マーダーエイプは力任せに腕を振るうが、兵たちは的確に間合いを取り、刃が次々と命中していく。
重たい咆哮を最後に、マーダーエイプは膝をつき、喉元を斬り裂かれて絶命した。
「よし、次に備えろ! まだ奴らは出てくる!」
息を整えながらも、兵士たちは緊張を崩さずに進軍を続ける。
そして――。
「はあっ!」
鋭い気合とともに、セリスの魔槍が閃いた。滑るように地を駆け、瞬時に間合いを詰めると、マーダーエイプの胴体を縦一文字に貫いた。
槍が抜けると同時に、マーダーエイプの巨体が二つに割れて地面に崩れ落ちる。
「セリスちゃんが強すぎて、わたしの出番がなくなっちゃうわ〜」
冗談めかした声とともに、ヴィヴィアンが盾を叩きつけ、体勢を崩した敵を足で踏みつける。そして、足下から鋼鉄の杭を射出して止めを刺した。
「えっと、もっと下の方! ユークの反応がある……動いてるわ!」
マナトレーサーを覗き込んでいたアウリンが、真剣な表情で声を上げた。
「うん、わかった。急ごう!」
セリスが頷き、血に染まった槍を軽く振って振り払う。
「こんなに私たちを心配させるなんて……ユークくんったら、あとでお説教よ?」
ヴィヴィアンも反応を確認しながら、わずかに口元を緩めた。
「きっと自力で脱出したんだわ!」
アウリンの声には、確信と信頼の光がこもっていた。
三人の胸には、ユークとの再会を信じる強い想いがあった。その想いに背を押されるように、一行はさらに地下深くへと進んでいく。
ユークが待つ、その場所へ――。
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セリス(LV.33)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:前に戦った奴よりも弱い。中に人が入ってないから?
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アウリン(LV.34)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:大丈夫。ユークはきっと無事よ。
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ヴィヴィアン(LV.33)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:これくらいなら、私一人でもなんとかなるわ。
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ルチル(LV.??)
性別:女
ジョブ:上級剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能を向上させる)
EXスキル:《ブレイブハート》
備考:転移封じの魔道具はちゃんと用意してある。
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オライト(LV.??)
性別:男
ジョブ:上級大剣士
スキル:大剣の才(大剣の才能を向上させる)
EXスキル:??
備考:いつの間にか、部下たちが迷子になっていたのである。まったく、困った連中であるな。
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