第149話 集結する者たち
テルルとの会話のあと、どれほどの距離を歩いただろうか。
湿った空気が肌にまとわりつき、天井から滴る冷たい雫が首筋を伝う。疲労の色が濃くなった一行は、無言のまま重い足取りで進み続けていた。
「そろそろ、休憩にするか……」
ユークが周囲を見回しながらつぶやく。
「そうじゃな。寝ずの番は任せておけ。この体は、あまり眠らずとも問題ないのでな」
テルルが穏やかに応じた。
一行は岩陰に身を寄せ、しばしの休息を取る。眠れぬ者は不安げに目を閉じ、眠れる者はわずかな安らぎに身を委ねた。
そして翌朝。ユークはリュックから、看守の部屋で手に入れた水とパンを取り出し、皆に配る。
量は決して多くはなかったが、牢での粗末な食事と比べれば、ずっとましだった。
再び歩き始めて間もなく、テルルがぴたりと足を止める。
「……? 突然どうしたんだ?」
ユークが立ち止まり、彼女の顔を覗き込む。
「隠れながら進めるのは、ここまでじゃ。ここから先は……博士の追手がうろつく場所を通らねば、地上へは出られん」
険しい顔で、テルルがそう告げる。
ユークは振り返り、仲間たちの疲れきった表情に目を向けた。彼らを守りながらこの先を進むのは、想像以上に厳しい道になるだろう。
けれど、ここで止まるわけにはいかない。ユークは静かに覚悟を決めた。
「……わかった。みんなで行こう。俺が先頭を行く」
次の瞬間――
「待て。何か、おかしい……」
テルルが眉をひそめ、指先に乗せた銀色の虫に意識を集中させる。閉じた瞼の奥で、何かを探るような気配が漂った。
「何者かが、この場所を攻めてきているようじゃ」
その言葉に、ユークの胸に小さな希望の火が灯る。
「まさか……みんな、来てくれたのか……?」
思い浮かぶのは、アウリンの真剣なまなざし。セリスの明るい笑顔。ヴィヴィアンの優しい声。
ユークは拳を握りしめ、まっすぐ前を見据えた。
◆ ◆ ◆
――地上。博士のアジトの真上。
青空の下、荒野の一角にひっそりと口を開けた階段。偽装が外され、地下へと続くその入り口が露わになっていた。
重厚な黒い鎧を身にまとった帝国の騎士・オライトは、腕を組みながら階段を見下ろしている。
「まさか……街の外に拠点を構えていたとはな。これでは見つからぬはずである」
苦々しげに呟いた彼の周囲には、規律正しく整列した兵たちが控えていた。
さらにその外側には、今回の突入作戦に参加する者たちが顔をそろえている。
真紅の鎧をまとう王国騎士・ルチル。ギルドガードの隊長・ダイアス。トレント狩りの探索者・ラピス。そして――
「待っててね、ユーク。絶対に助け出すから!」
アウリンの金色の瞳が、静かに階段の奥を見つめていた。
その横には、槍を背負ったセリス。全身鎧をまとい、剣と盾を構えたヴィヴィアンの姿もある。
「誰が相手でも、もう絶対に負けない!」
「ユークくんを攫った罪、しっかり償ってもらうわ!」
彼女たちの目には、揺るがぬ決意が宿っていた。
◆ ◆ ◆
――博士の地下アジト。
「いたか!?」
「ダメだっ、どこにもいねぇ!」
博士の配下たちは、血眼になってユークの姿を探し回っていた。
「くそっ! ……いっそ、上から探したほうが早いんじゃねぇのか?」
苛立ちを募らせた男がそう言い放ち、転移魔法陣を使って上層へと移動する。
このアジトには、いくつもの転移魔法陣が張り巡らされていた。ただし、使えるのはあらかじめ登録された者だけだ。ユークたちには使えない。
上層に転移した男たちの前に、奥の通路から血相を変えた仲間が駆けてくる。
「どうした? あのガキでも見つけたのか?」
一人が気楽そうに声をかけた。
「侵入者だ! ギルドカードが攻めてきやがった!」
叫ぶように告げたその男の背後から、突然兵士が現れ、仲間の背に剣を叩き込む。
「ギャアァァァァァッ!!」
男は悲鳴をあげて前に倒れ込んだ。
「ヤバい! 戻れ! 早く魔法陣に戻るんだ!」
「どけ! 逃げるぞ! 急げ!」
配下たちは慌てて転移魔法陣に飛び込み、元の階層へと逃げ戻っていく。
「博士! 大変です!」
二人のごろつきが転がるように博士の作業室へ駆け込んだ。
「ギルドガードが……! ギルドが攻めてきました!」
報告を受けた博士は一瞬だけ驚いた表情を浮かべるが、すぐに顎に手を当てて考え込む。
「……ふむ。せっかく来てくれたんだ。彼らには実戦テストに協力してもらうか……?」
口元に、不気味な笑みが浮かぶ。
「弱すぎては試験にならないし、少しは選別しておくとしよう」
博士が魔道具を操作すると、アジト各地の転移魔法陣が輝き、巨大な猿型モンスター“マーダーエイプ”が次々と姿を現す。
「これでよし。あとは適度にふるい落としてくれるだろう」
そう呟いた後、博士の目が未完成の魔法陣と、山のように積まれた魔道具へと向く。
「とはいえ、準備が整う前に邪魔されるのは困るな……」
博士は一人の部下に向かって言った。
「君、カルミアくんを呼んできてくれ」
静かに命じ、続ける。
「彼には、準備が整うまで、突破してきた侵入者たちの足止めをしてもらおう」
そう言い残すと、博士は再び作業机へ向かい、まるで騒ぎなどなかったかのように、淡々と魔道具の調整を始めるのだった。
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ユーク(LV.33)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:追っ手を覚悟していたが、結局ここに来るまで見つかることは無かった。
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テルル(LV.??)
性別:??
ジョブ:??
スキル:??
備考:食事も睡眠も肉体の再構成で代用している。
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セリス(LV.33)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:あの日、無理やりにでもユークについていけばよかったと、ずっと後悔していた。
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アウリン(LV.34)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:もちろん、中でユークを探すためのマナトレーサーは、確保してある。
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ヴィヴィアン(LV.33)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:転移封じの魔道具は、自分の荷物の中にいれた。
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ヘリオ(LV.??)
性別:男
ジョブ:召喚師
スキル:??
備考:何か良からぬことを企んでいるようだ。
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