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第148話 手のひらの温もりと揺れる心


 博士のもとにユークたちがいなくなったとの報告が届き、ルーダの怒声が響き渡っていた頃。


 ユークとテルル、そして解放された人たちは、長く続く暗いトンネルを歩いていた。ユークが設置した魔法の明かりが、彼らの通ってきた道をぽつぽつと照らしている。


「随分とボロボロだな」

 ユークが、トンネルの壁を(おお)う湿った岩肌や、()びついたレールを見ながらぼそりとつぶやいた。


「ずっと使われておらんかったようじゃからの」

 テルルが答える。彼女は人々の前に立ち、時折後ろを振り返って彼らの様子を確かめていた。


 彼らは酷く疲労している様子だったが、誰もが明るい表情をしており、文句も言わず黙々とついて来ている。


「ここって、何だったのかな……?」

 トンネルの天井を見上げながらユークが問いかけると、テルルは首を傾げた。


「さあな。ただ、足元を見るとトロッコの痕があるじゃろ? 昔は何かの資源を掘っていたのかもしれん」

 そう言ってテルルは、床に敷かれた錆びた線路を軽く足で蹴った。


 ユークは、彼女の横顔に視線を向ける。さっきの戦闘では、まるで玩具を振り回す子供のように無邪気だったが、今はどこか落ち着いた雰囲気をまとっている。


 彼女の銀色の長い髪が、魔法の明かりに照らされ、静かに揺らめいていた。


 しばらく進むと、トンネルの天井が少し低くなり、足元もでこぼこと不安定になってくる。不運にもその凹凸につまずきかけたテルルに対し、ユークがとっさに手をだした。


「っと!」

 ユークの手が素早く伸び、彼女の腕をしっかりと掴む。そして、倒れそうになった体を自然に受け止めるように支えた。


「おお、すまんな、ユーク」

 テルルはケロッとした様子で礼を言うが、そんな彼女の声は、どこかぎこちない。


(何じゃ!? 心臓がドキドキしておる。それに、何だか顔が熱くてあ奴の顔を見てられん……!)

 そんな取り繕った笑みの奥では、彼女の心臓が微かに、しかし確かに脈打っていた。なんとも妙な、こそばゆい感覚が胸の奥に広がる。


「なんか、顔赤いけど大丈夫か?」

 ユークは、何だか様子のおかしなテルルの顔を、のぞき込むようにしながら尋ねる。


「だ、大丈夫じゃ! 問題ない、行くぞ!」

 そう言って、テルルは急に足早に歩き出した。


「あ、ちょっと待って。後ろの人たちを置いてっちゃうからー!」

 ユークが慌てて呼び止める。


(今の体になってから……なんだか変な感じじゃ……ちょっと抱きしめられただけなのに……)

 テルルは自分の内に芽生えた妙な感情に戸惑いながらも、その違和感を心の奥に押し込めた。


 トンネルはさらに奥へと続いており、やがて緩やかな上り坂になっていく。


「今どの辺り?」

 ユークが尋ねる。


「まだまだ先じゃな。ワシらは、かなり地下深くに連れてこられていたようじゃ」

 テルルはそう言いながら、指先に乗せた銀色の虫に意識を向けていた。


「そっか……。じゃあ、ここらで一旦休憩しよう。おーい、休憩にするぞー!」

 ユークが後ろに向かって声をかける。



「……やっぱり、あんまり美味しくないなこのパン」

 看守の部屋から持ち出してきた食料を口に運びながら、ユークがぼやいた。


「贅沢言うでないわ。食べられるだけありがたいと思わんか」

 テルルが肩をすくめて返す。


「まあ、そうなんだけどさ……」

 ユークは納得したように相づちを打った。


「ところで、テルルって食べられないわけじゃないよね?」


「ん? まあの、必要がないだけで、食べようと思えば食べられるぞ?」

 目を閉じて虫の視界に集中しながら、テルルが答える。


「だったらさ、ここを出られたら食事に連れていくよ。今までのお礼ってことで」

 ユークはふっと笑いながら言った。


「なっ……!?」

 テルルの目が見開かれ、顔が一気に赤くなる。


「ふ、二人っきりでか!?」

 ユークを問い詰めるように言う。


「え? いや、俺の仲間たちも一緒にって思ったんだけど……?」

 ユークは首をかしげた。


「そ、そうか。それはちょっと残――いや、何でもない! そういえばユークの仲間の名前を聞いておらんかったな!」

 テルルはあわてて話題を変える。


「あれ? そうだったっけ? えっと、まず槍を使う前衛のセリスでしょ? それから――」

 ユークが話し始めたその時、


「ユークさん、テルルさん、全員食事が終わりました!」

 タイミング悪く、助けた人たちが声をかけてきた。


「よし! じゃあ休憩終わり。もう少し先へ進もうか!」

 ユークが立ち上がり、皆を促す。


「う、うむ。ここがいつ見つかるか分からん。進めるうちに進んでおいた方がいいからの!」

 テルルも、どこか恥ずかしさを隠すような、照れた笑顔をユークに向ける。


 こうして、ユークたちは脱出を目指して再び歩き出したのだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.33)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫

備考:無事に脱出できたら、テルルをどこに連れていこうかな……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

テルル(LV.??)

性別:??

ジョブ:??

スキル:??

備考:もっとユークと話をしていたかったが、仕方が無いか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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