第147話 魔族の能力
テルルは牢屋が並ぶ廊下をためらいなく進んでいく。ユークは、そんな彼女の背中を黙って追いかけた。
「ここじゃ」
そう言って、テルルは迷うことなく人の入った牢の鍵穴に鍵を差し込み、次々と扉を開け放っていく。
最初、囚われていた人々は看守の目を恐れて牢から出てこなかった。だが、外が安全だとわかると、次々に我先にと牢から飛び出してきた。
「助かった!」
「ありがとう!」
「一体、何が起こったんだ!?」
解放された人たちは、ユークとテルルを取り囲み、感謝と戸惑いの言葉を口々に投げかけた。彼らの多くは、恐怖と疲労で顔色が悪く、衰弱しきっている者も少なくない。
「俺たちはここを脱出しようとしているんだ、逃げたい人は一緒についてきてくれ」
ユークが落ち着いた声で促すと、囚人たちは顔を見合わせ、やがて安堵の表情を浮かべて頷いた。
「さてと、次は食料じゃな」
テルルは来た道を戻り、看守のいた部屋を指差す。ここに来たのは、食料や武器が置かれている可能性があったからだ。
ユークが頷くと、テルルは扉を開ける。
「なっ!」
「誰だ!!」
中にいたのは、看守の部下らしき二人のごろつきだった。彼らは突然の侵入者に驚き、腰の剣に手をかけようとする。
「……っ!」
だが、ユークが魔法を唱えるよりも早く、テルルの姿がかすんだ。次の瞬間、ごろつきたちは床に崩れ落ちる。一人は首を、もう一人は胴体を切り裂かれて絶命していた。
「やはり、武器があると楽じゃな!」
テルルは涼しい顔で、大鎌を消す。
「……なんか、子供がおもちゃ振り回してるみたいだな……」
彼女の戦いぶりに技術らしいものは見られず、ただ圧倒的な力で武器を振るっているだけ。ユークは思わずため息をついた。
「仕方なかろう? ワシは元々魔法使いじゃ。武器の扱いなど、さっぱり分からんわ」
テルルはむくれたように唇を尖らせ、ユークに反論する。
「はいはい、分かったから」
ユークは不満げなテルルの頭を軽くポンポンと叩きながら、何かを探すようにキョロキョロと室内を見回す。
「……あった」
すると、見覚えのある背嚢と装備一式。探索者としての道具が、棚の上に無造作に押し込まれているの見つけるのだった。
ユークは手早く中身を確認しながら、戦闘用の上下、ベルトポーチや、紺色のローブを順に身につけていく。
「ようやく揃ったか……これで、まともに戦える」
「ふむ、取り戻せたのか。そりゃあよかった」
テルルは腕を組んで満足そうに頷く。
「さて、あの人たちを呼んでこよう」
ユークは着替えた装備に問題が無いか、きちんと確認すると、解放された囚人たちのもとへ向かった。
やがて、囚われていた人々は待機部屋に集まり、ユークたちが配った食料に歓喜の声を上げる。
「うまい、うますぎる……!」
「何週間ぶりのまともな飯だ……!」
「こいつは……肉か? 本物の肉なのか!?」
監獄生活にやつれきった彼らにとって、保存用の固い肉ですらごちそうだった。
ユークも簡素なパンを手に取り、喉を潤すために水を飲んだ。テルルは食べる必要がないのか、一人、部屋の外で手のひらを上に向けて何かしている。
彼女の手のひらには、複雑な魔法陣が浮かび上がり、そこから銀色の光の粒子が次々と生まれ出ていた。
光の粒子は変化し、小さな銀色の虫へと姿を変えていく。
「テルル、それは……?」
ユークが尋ねると、テルルは振り返り、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「これがワシの魔族としての能力じゃ」
「能力?」
ユークが首を傾げる。
「うむ。ワシはな、自身の魂を切り分けて、こうしてモンスターを生み出すことができるのじゃよ」
そう言うと、テルルは再び銀色の虫を手のひらから生み出してみせた。
「モンスターの見た目や能力は自由に設定できる。魂を多く使うほど、強いモンスターを作れるが……」
テルルは一度言葉を切る。
「生み出したモンスターが死んでしまえば、使用した魂は消えてしまう。だから、本当はあまりやりたくないのじゃが。まあ、今は仕方ない」
少し顔を曇らせながら小さく笑う。
「それに、こうして回収すれば、使った魂も戻ってくるしの……」
テルルは一匹の銀色の虫を捕まえ、それを光の粒子に戻すと、その光の粒子が彼女の体へと吸収されていく。
「なるほど……。でも、何で虫なんか作ってるんだ?」
ユークが虫の一匹を手に取り、問いかける。
「この施設の構造を探るためじゃ。こやつらは戦闘力はないが、本体と視界を共有できる。大まかな指示も出せるから、偵察にはもってこいなんじゃよ」
テルルは、通気口や壁の隙間から這い出ていく銀の虫たちを満足そうに見つめていた。
◆ ◆ ◆
その頃、施設の地下深くにある研究室では、白衣を着た金髪の男、ヘリオ博士が眉間に皺を寄せていた。
「ん? 今なにか聞こえたような?」
博士は、広い部屋の中央で、大型の魔道具を弄っていた手を止め、首を傾げた。微かな音だったが、この施設で爆発したような音を感じることは珍しい。
「ルーダ」
博士が呼びかけると、壁際で待機していた男が歩み寄ってくる。水色の髪に青いスーツを着た男、ルーダだった。
「お呼びでしょうか、博士」
「念のため、下の様子を見てきてくれないか。特に、あの実験体たちの牢が気になる」
「かしこまりました」
ルーダは静かに一礼し、足早にその場を後にした。彼の足音が遠ざかる中、博士は再び魔道具を触りだした。
──しかし、数分後。
「博士! 大変です! 地下の牢が……看守が死んでいます! 実験体たちも全員いなくなっています!」
ルーダの怒声が研究室に響き渡った。その表情は怒りに歪み、瞳には殺意が宿っている。
「何だって! 早く探すんだ! 特に彼、ユーク君はせっかく見つかったタイタンの召喚石の適合者なんだぞ!」
博士は、慌てて立ち上がり、顔色を変えてルーダの方を向いた。
彼の研究の根幹を揺るがす事態が、今、まさに起こり始めていた。
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ユーク(LV.33)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:テルルのモンスターを見ていると、なぜかラルヴァを思い出す……。見た目も強さもまったく違うのに、どうしてだろう……?
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テルル(LV.??)
性別:??
ジョブ:??
スキル:??
備考:ふむ……隠し通路があるようだな。ここを進めば、見つからずに脱出できるかもしれん。
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ヘリオ(LV.??)
性別:男
ジョブ:召喚師
スキル:??
備考:まずい……ユーク君に逃げられてしまったら、今進めている準備がすべて水の泡だ。
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ルーダ(LV.??)
性別:男
ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ
スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)
備考:必ず見つけ出せ! 生きてさえいればいい!
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