第15話 パーティー結成
いつもより早めに探索を切り上げた結果、今回は予定より二時間ほど早くギルドへ戻ることができた。
ギルドで本日の稼ぎを精算すると、合計で476ルーン。三人で均等に分ければ、一人約158ルーンの収入になる。
今日のダンジョンはなかなかの苦戦だったが、それに見合うだけの稼ぎにはなったようだ。
精算を終えた後、アウリンがギルドの個室を借り、三人で部屋に入る。
「それで、話って?」
ユークが代表して尋ねると、アウリンは少し緊張した様子で頷いた。
「さっきの話、覚えてる?」
「さっき?」
ユークは首をひねる。何のことだろうか。
「前衛が必要って話よ」
「ああ、あのことか!」
ユークが思い出したように声を上げると、アウリンは真剣な表情で続ける。
「実はね、前衛の心当たりがあるの」
「本当!?」
セリスがぱっと表情を輝かせ、勢いよく前のめりになる。
「それで、相談なんだけど……」
アウリンは少し言いにくそうに言葉を切った後、意を決したように続けた。
「その心当たりっていうのが、私の相方なのよ」
その言葉に、ユークとセリスの表情が変わる。
「あの、病気だっていう……?」
ユークが慎重に言葉を選びながら尋ねると、アウリンは小さく頷いた。
「そう。それで……私と、私たちと正式にパーティーを組んでくれないかしら?」
アウリンは焦っていた。もし今、ユークが別の前衛を二人も入れてしまったら、自分たちが入り込む余地がなくなってしまう。
どうなるかは分からないが、最悪の事態を避けるためにも、今のうちに二人分の枠を確保しておきたかったのだ。
「正直、都合のいい話だとは思ってる。相方が治るまで、前衛を一人しか入れられなくなるわけだから……」
それでも、アウリンには譲れない理由があった。彼女はまっすぐユークを見つめ、言葉を続ける。
「それでも、どうか……私たちとパーティーを組んでくれないかしら?」
そう言うと、アウリンは深々と頭を下げた。
「待って、頭を上げてくれ、アウリン」
ユークが慌てて声をかけると、アウリンは驚いたように顔を上げた。
「俺としては、いいと思う。アウリンが信頼してる人なら、俺も信じられるから」
「私も賛成!」
セリスが力強く頷く。
「……ありがとう、二人とも……」
アウリンの瞳に、じわりと涙が滲んでいた。そんな彼女を見て、ユークは優しく微笑むと、袋の中から銀貨を一枚取り出し、そっとアウリンに差し出す。
「正式にパーティーになったんなら、こうするべきだと思う」
「そういうことなら、私も!」
セリスも同じように銀貨を取り出し、アウリンに手渡す。
「……これは?」
戸惑うアウリンに、ユークは穏やかに微笑む。
「薬代だよ。三十ルーン必要なんだろ?」
「え、でも……いいの?」
「正式なパーティーになったんだから、仲間のために必要なことをするのは当然だろ?」
その言葉に、アウリンは唇を震わせながら銀貨を見つめた。やがてそっと涙を拭い、眩しい笑顔を浮かべる。
「……本当に、ありがとう!」
その笑顔を見て、ユークとセリスも満足そうに頷いた。
「本来なら、私の相方とも顔合わせするべきだと思うんだけど……彼女、病気で。そんな姿は見せたくないって言ってて、顔合わせは元気になってからでもいいかしら?」
アウリンが申し訳なさそうに言葉を選びながら尋ねる。
「大丈夫。それでいいよ」
ユークも、女性ならそんな姿を見せたくないという気持ちは理解できた。
「私も大丈夫」
セリスも優しく微笑みながら同意する。
二人の返答を聞いて、アウリンは安堵の息をついた。
「助かるわ、ありがとう」
ふっと肩の力を抜いた彼女の表情に、どこかホッとした色が見える。
「じゃあ、話はまとまったし、今日は解散しようか」
ユークが締めくくると、アウリンは軽く手を振った。
「じゃあ、私は行くわね」
そう言って、彼女は軽やかに部屋を後にした。
「俺たちも帰ろうか」
ユークがセリスに声をかけると、彼女は少し申し訳なさそうな顔をする。
「ごめん、今日は槍を酷使しちゃったから、鍛冶屋に見せに行こうと思って」
「そっか。じゃあ先に帰ってるよ」
「わかった、またね!」
二人はギルドの出口で別れ、セリスは鍛冶屋へ向かい、ユークはそのまま宿への道を歩き出した。
ギルドの前の大通りは、昼間とは打って変わって静かだった。ほとんどの探索者はまだ《賢者の塔》で探索を続けているのだろう。
ユークは胸元に重みを感じた。ギルドで預けていたお金を下ろしてきたのだ。
(……昔なら考えられなかったな)
カルミアのパーティーにいた頃は、金が貯まることなんてなかった。それが今では、たったの三日で200ルーン──金貨二枚分の貯蓄ができるようになっていた。
(セリスにはずっと世話になってるし、アウリンにも魔法のことを教えて貰った……そのお礼に二人に何かプレゼントでも買おうと思って全額おろしてきたけどこれで足りるよな?)
少しの不安を抱えながらも、ユークは大通りをぶらぶら歩きながら店を物色した。
いくつかの店を覗いた末に見つけたのは、女性向けのアクセサリーショップ。
悩んだ末、セリスには槍を象ったペンダントを、アウリンには炎をイメージした赤い宝石の髪留めを選んだ。二つ合わせて100ルーンほどの出費だったが、ユークは満足して店を出た。
「さて、帰るか」
プレゼントを包んでもらい、上機嫌で宿へ向かおうとしたその時。
道の向こうから、一人の男が歩いてくるのが見えた。
ユークの表情が険しくなる。
(……カルミア)
数日前まで一緒にいたパーティーのリーダー。そして、ユークを追放した張本人だった。
カルミアの顔には疲労の色が浮かび、目は荒んでいた。
「お前、まだこの街に居たのか……」
イラついた声で吐き捨てるカルミア。
だが、何かを思いついたのか、不快な笑みを浮かべた。
「てめぇがいるってことは、セリスも一緒だよなぁ?」
ユークは無言でカルミアを見つめる。
それを勝手に肯定と受け取ったのか、カルミアはさらにニヤついた。
「そうだ! おい、ユーク。お前がセリスを連れ戻してくるっていうなら、お前をパーティーに戻してやってもいいぜ? 悪くない話だろ?」
まるで名案を思いついたとでも言わんばかりの口ぶりに、ユークの視線は冷え切っていく。
「……」
だが、カルミアはユークの反応を気にする様子もなく、一方的にまくし立てる。
「まったく、自分勝手に動きやがって、怪我をさせても謝らねぇ剣士! ろくに働きもしねぇくせに報酬だけは求めてくる強化術士!」
苛立ちをぶつけるように、カルミアの声が荒くなる。
「もううんざりなんだよ! ちゃんと働くだけ、てめぇの方がマシだ!」
怒りにまかせて叫ぶカルミアを見ながら、ユークはふっと小さく息を吐いた。
(……マシ、ね)
そんな言葉をかけられる日が来るとは、思ってもみなかった。
──だが今更そんな事を言われてももう遅いのだ、なにせユークにはもう新しい仲間が居るのだから。
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ユーク(LV.11)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:今更会いたくなんて無かった。
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セリス(LV.12)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:嫌な予感がする。
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アウリン(LV.15)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:元気になった彼女を二人に会わせるのが楽しみ。
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カルミア(LV.13)
性別:男
ジョブ:上級剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能を向上させる)
備考:少し酒が入っているようだ。
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