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第145話 脱出決行、人と魔族の脱獄コンビ


『ずいぶんと波乱万丈な人生を送ってるんだなコイツ……』

 突っ込む気力もなく、ユークはため息を吐いた。ここまでくると、もはや同情すらわいてくる。


 しばし沈黙ののち、ユークはふとテルルの腕を見つめる。そして空中に魔力で文字を描いた。


『つまり今なら、お前の腕を切り落とせば脱出できるってことか?』


 遠慮も気遣いもまるでないその問いに、テルルは一瞬まばたきをした後、冷静に返す。


『いや、まだ重要な条件がある』

『……は?』


『誘導呪文なしで、正確にワシの腕に魔法を当てる必要があるのだ』


『それだけ? 俺、誘導呪文なんか最初から使ってないけど』


 その一文を読んだ瞬間、テルルの目が驚愕に見開かれた。


『な、なんだと!? 無誘導で魔法を扱えるのか!? お主、本当に人間か!?』


『見せた方が早いか』

 ユークはそう答えると、魔力を練って空中に二つの魔法陣を描きはじめた。


 一つ目は威力を極限まで落とした『ストーンボルト』の時限式。二つ目は同じ魔法で即発動。


 タイミングを見計らって放たれた二発の石の矢は、見事にテルルの両手首をかすめて落ちた。


 魔法の残滓が光の粒となって消える頃、テルルは口をあんぐりと開けていた。


『すごすぎる……。まさかここまでとは……』


『じゃあ、実行は今でいいのか?』

 尋ねると、テルルは少し考えるそぶりを見せ、ゆっくりとうなずいた。


『いや、明日の朝にしよう。脱出するには活動できる時間が長いほうが都合がいい』


『了解。じゃあ明日』



 そして翌朝。ユークは牢の隅で目を覚まし、深く息を吸い込んだ。


(さて……やるか)

 時間をかけて『ストーンレーザー』の魔法陣を描き、魔力の流れを整える。


(ここでミスったら洒落にならないからな……)


 魔法が起動し、鋭い石の矢がテルルの手首を一閃。


「ぐううっ!」

 テルルは短くうめいて倒れ込み、手首から先が切断された。


 しかし次の瞬間、テルルの両手首に光が集まり、失われた手が再生する。


「くくっ……これでようやく、自由になれたわ」

 再生された手を握りしめ、テルルはにやりと笑う。


 そのとき、遠くから足音が響いた。


「来たか……!」

 テルルはすぐさま鉄格子を両手で曲げ、ユークの牢に入り込むと、首輪を掴んで力任せに引きちぎる。


「っく……よし、喋れるようになった!」

 ユークが嬉しそうに叫ぶ。


「長かったのう、相棒」

「誰が相棒だ……」

 そうぼやきながらも、ユークは笑っていた。


 看守とその手下たちが駆け込んでくる。


「≪リーンフォース≫!」

 ユークのスキルが発動し、青白い魔法陣が彼の足元に広がった――が、テルルには何の反応もない。


「……しまった、こいつに強化は効かないのか!」

「ワシの体は人間ではないからな、仕方ない!」

 咄嗟にスキルを解除し、ユークは魔法の詠唱を始める。


 その瞬間だった。


『完全変化』

 看守の男の姿が変貌し、灰色のローブを(まと)った死神のモンスターへと変わる。骸骨の目は(うつ)ろに輝き、手には異様な光を放つ大鎌。


『次に騒げば、二度と騒げなくすると言ったはずだ……』


「なんじゃその見た目はっ……!」

 テルルが殴りかかるが、拳は死神の体をすり抜け、地面に転んでしまう。


『フハハハハッ! 無駄だ、物理攻撃など霊体である俺には通用しない!』

 勝ち誇ったように笑う死神。


(うわぁ、めんどくさい奴だ……)

 ユークは、魔法の詠唱を続けながら眉をひそめる。


『魔法か……ならばお前の詠唱ごと止めてやろう!』

 死神が大鎌を振り上げ、ユークへと突っ込んでくる。


 大振りに振り下ろす死神の鎌を避けて、ユークは詠唱の終わった魔法を唱えた。


「≪フレイムボルト≫!」

 ユークが放った炎の矢が、一直線に死神へ向かって飛び──


 ──だが、直前で黒い(もや)に包まれ、威力が半減したかのように消えた。


『ふん、魔法なら効くと思ったか? バカめ!!』

 死神は不気味に笑い、ゆらりと宙を(ただよ)う。


(くっ!……想像以上に手強い)

 ユークは舌打ちしながらも、冷静に間合いを取る。


「そやつは任せた! ワシは手下どもを蹴散らす!」

 そう叫ぶテルルは、すでに牢番の一人を殴り飛ばしていた。


『詠唱などさせるものか!』

 死神の大鎌が軌跡を描きながら迫る。しかしユークは、足元の床に身を滑らせるようにしてかわす。


(焦るな……こいつの動きは直線的。速度はあるが読みやすい)


『なに……なぜ避けられる!?』


(この程度、セリスと鍛錬したときのほうがよほど危険だったさ!)

 皮肉げに笑うと同時に詠唱を終え、無詠唱の魔力操作によって空中に《《二つ目の》》魔法陣を描き終える。


「≪フレイムボルト≫!」

 背後から炎の矢が死神に発射されるが、やはり黒い(もや)に包まれ、魔法がかき消されてしまう。


『ふん! 何度やっても無駄……』


(今だっ!)

 続いて空中に描いた二つ目の魔法陣から炎の矢が発射される。


 爆炎が死神を包み、今度こそ死神の苦悶の叫びが響いた。


『ぐあああああっ!』

 黒い(もや)が散り、ローブの内側から骨のような腕が露出する。


「さあ、反撃開始だ」

 ユークの目が鋭く光る。種が割れた以上彼にはもう恐れはなかった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.33)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫

備考:少し前までの俺なら苦戦したかもしれない――だが今は違う!!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

テルル(LV.??)

性別:??

ジョブ:??

スキル:??

備考:やはり、素手で殴るのは効率が悪いな……ふむ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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