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第137話 監獄襲撃


 ユークが襲撃を受けたまさにその頃、街から離れた荒野の要塞──。


 探索者ギルドが極秘裏に運営する、特別監獄の奥深くで事件が起きていた。

 この監獄は、尋問や拷問の対象となる危険人物を、本部や街から完全に隔離するために設けられた施設である。


「……チッ。よくもまあ黙っていられるもんだな」


 鉄格子の向こうから、ギルドガードが呆れたように呟く。

 その視線の先で、ユークに倒された火傷痕の男が、度重なる拷問で傷だらけとなった顔を上げる。


 ──そのときだった。

 監獄全体を震わせるような轟音が響く。


「な、何だ!?」


 天井が崩れ落ち、煙と破片が舞う中、巨大な黒い影が姿を現した。

 灰色の肌、ねじれた角、異様なまでに発達した筋肉──。

 レベル四十相当の高位モンスター、“デーモン”が、監獄の壁をぶち破って現れたのだ。


「なぜ接近を許した!? 非常警報を──ぐっ……!」


 ギルドガードが叫ぶ間もなく、悪魔の拳が振り下ろされる。

 一撃で壁ごと人間を叩き潰すその破壊力は、もはや質量兵器と呼ぶべきものだった。


『さて、ヤツはどこにいるのでしょうね』

 悪魔が低くつぶやく。


 続いて、突入してくる五体の獣──。

 全身を毛で覆い、異常な筋肉を備えた獰猛な猿のモンスター、“マーダーエイプ”だ。


『ルーダさま、ご命令を……』

 マーダーエイプたちが悪魔に跪き、命を待つ。


「ディアンを探して下さい。ユーク様に手足を砕かれたあの無能を!」

 悪魔──ルーダが命じる。


『はっ!』

 マーダーエイプたちは返事とともに散開し、監獄の中を探索し始める。


 監獄は一瞬にして戦場と化した。


 だが、ギルドガードも黙ってやられてはいない。


 配置されていた精鋭たちが応戦し、激しい接近戦が繰り広げられる。


「うおおおおおっ! 行かせるかぁッ!!」

 剣を振るった隊長格のギルドガードが、マーダーエイプの一体を胴から両断する。さらに続けて、もう一体を叩き斬った。


 少し離れた場所では、他のギルドガードたちが連携し、別のマーダーエイプに止めを刺している。


 だが──残る二体が、同時に隊長へと襲いかかってきた。


「おおおおおおお!!」

 二体のマーダーエイプを相手に、優勢に立ち回る隊長。


『やれやれ、二体がかりでそれとは……情けないですね』

 その様子を見ていたルーダがため息をつきながら、隊長を挟み込む形で攻撃していたマーダーエイプの側に、加勢する。


「ぐわああああああああっ!!」

 三体からの容赦ない攻撃に、隊長はなすすべもなく絶叫を上げた。体は無惨に引き裂かれ、瞬く間に壁一面が鮮血で染まる。


 邪魔者を排除し終えたマーダーエイプたちは、監獄内を探し回り──。

 ついに、火傷痕の男・ディアンが閉じ込められている牢を見つけ出す。


「無様な姿ですねぇ、ディアン」

 人間の姿へと戻ったルーダが、鉄格子越しにディアンを見下ろしながら歩み寄る。


「……ルーダじゃねぇか……てめぇ、博士の犬がどうしてここに?」

 拘束されたままのディアンが、獣のような目で睨みつける。


「黙りなさい、狂犬」

 冷えた声とともに、ルーダは視線を落とす。


 青いスーツに身を包み、水色の髪がぼんやりと監獄の明かりを反射していた。

 知的な印象の男だが、その目には情け容赦という言葉が存在しない。


「貴方の飼い主から、有用な情報の提供がありました。今回のことはその対価ですよ」

 心底嫌そうに吐き捨てるルーダ。


「……有用な情報ぉ?」

 怪訝(けげん)な表情を浮かべるディアン。


「貴方を倒した少年──ユーク様の“EXスキル”に関する情報ですよ」


 ディアンの目が見開かれる。


「っ……あのガキの……!? まさか……ババア……! 俺のこと、最初から監視してやがったのか……!」

 教主が最近連れてきた、魔族を名乗る女の顔が脳裏に浮かび、怒りと恐怖が混じった声が喉から漏れる。


「ですから、正直申し上げて、あなたを助けたいという気持ちはこれっぽっちもありません。ですが──対価をいただいた以上、こちらも動かないわけにはいきませんので」

 ルーダは、相手の反応を(たの)しむように微笑んだ。


「チッ……気に食わねぇ口の利き方しやがって」

 四肢を砕かれ、動くことの出来ないディアンが、せめてもの抵抗とばかりにルーダを睨みつける。


「それは結構。あなたはただ、運ばれていればいい」

 そう言ってルーダが指を鳴らすと、マーダーエイプたちが檻をこじ開け、拘束を解いたディアンを荷物のように肩に担ぎ上げた。


「帰りますよ。援軍が来たら面倒ですから」

 ルーダは眼鏡をくいっと持ち上げながら言った。


 砕けたままの腕と脚。まともには動けないはずだった。

 しかし、マーダーエイプに担がれたディアンの目には、不気味な光が宿っていた。


「あのガキ……ぶっ殺す……。俺の肉を砕いた代償、何倍にもして返してやる……!」


「それは困りますね。彼のEXスキルは、博士の悲願に必要なものですから」

 ルーダは冷たい目で、ディアンを見据える。


「ちっ!」

 ディアンが舌打ちし、黙り込んだ。


 ルーダは興味がないというように肩をすくめ、部下とともに闇の中へと消えていった。


 こうして監獄の崩壊と脱獄事件は、探索者ギルドの中枢に大きな衝撃を与えることになる。


 ──そして数時間後。


「……何ですって!? ユークがさらわれた!?」


 ユーク誘拐の報せは、アウリンたちの元へと届くのだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ディアン(LV.??)

性別:男

ジョブ:??

スキル:??

備考:ユークに倒された信奉者の男。顔の右側に大きな火傷の痕がある。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ルーダ(LV.??)

性別:男

ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ

スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)

備考:ヘリオ博士の配下で、最近仲間になったカルミアのことを快く思っていない。

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