表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/161

第136話 夜の街の危機


 夜の街を、ユークとボルダーが歩いていた。


「──あーもう! しっかりしてくださいよ!」

 ユークが、千鳥足(ちどりあし)のボルダーに怒鳴る。


「いやー、わりぃ、わりぃ」

 赤ら顔で笑いながら、ボルダーはふらふらと前へ進む。


(はぁ……ほっとけばよかったかな)

 ユークは心の中でため息をつく。


 本当なら置いて帰るべきだった。だが、酒場を出る際、ボルダーが盛大に転んだのを見て、心配になって付き()ってしまったのだ。


 そして今、すでにその判断を後悔し始めていた。


 大通りは人通りもなく、街を照らすのは星明かりだけ。


「お、こっちの方が近道なんだ」

 ボルダーが大通りを外れ、脇道を指さす。


「……はぁ、じゃあ、そっち行きましょうか」

 ユークは肩を落としながら、彼と一緒に細い道へと入っていった。


 その背後。離れた屋根の上から、その様子をじっと見つめる影があるとも知らずに。


「いやー、すまねぇな兄ちゃん。迷惑かけちまってよ」

 陽気に笑いながら謝るボルダー。


「もういいですって。それより宿はまだなんですか?」

 ウンザリした表情で、ユークが聞く。


「あぁ? あー、宿ね、宿……宿は──」

 酔った頭で思い出そうとするその瞬間。


「よっ!」 

 唐突(とうとつ)に、ボルダーがユークの背中を思い切り突き飛ばした。


「……えっ?」

 何が起きたのかも分からぬまま、ユークの体は前方へ吹き飛ばされる。バランスを崩し、石畳(いしだたみ)に倒れ込んだ。


 次の瞬間――。


 ゴッ!


 (にぶ)い衝突音とともに、ユークのすぐ背後にいたボルダーの姿がかき消えた。


「っ……ボルダーさん!?」


 ボルダーがユークを突き飛ばした直後、ユークたちがいた場所を狙うように、 黒く巨大な鱗の生えた腕が、とんでもない勢いで横から伸びてきたのだ。


 避けきれなかったボルダーは、そのまま石壁に激突し、瓦礫の山に埋もれていて動かなくなる。


「いったい誰……っ、けほっ、ごほっ!」

 声を上げようとしたユークに異変が起こる。砂利(じゃり)(のど)に張り付いたような感覚で、声がうまく出せなくなっていたのだ。


(な……!? 声が……出ない!?)

 動揺するユークの前に、影の中からひとりの男が現れる。


「よお。久しぶりだな、ユーク」

 黒いローブに身を包み、仮面をつけたその男──ユークの元パーティーのリーダー、カルミアだった。口元は布で(おお)われ、声はこもっていて聞き取りづらい。


「お……っ……」

(お前は……カルミア……!)


 声にならない叫びを飲み込みながら、ユークは彼を(にら)んだ。


「無駄だって。もう声は出せねぇよ」

 カルミアは手をひらひらさせるように振り、鼻で笑う。


「吸っちまったろ? それは博士特製の粉でな。喉に入り込むと、しばらく声が出なくなるんだ」


 言われて気づく。きらきらと微細(びさい)な粉のようなものが宙を(ただよ)っていることに。


 それはまるで光を反射する(きり)のように、静かに路地を満たしている。


「お前のEXスキルも、これじゃ発動できねぇよなぁ?」

 勝ち誇った顔で、カルミアが言った。


(っ……なんでカルミアが俺のスキルのことを……! まさか……!)


「リミッ……っ、ごほっ!」

 声を振り絞ってEXスキルを発動しようとするが、途中で咳き込んでしまい、失敗する。


「くっ……はははは! 無様(ぶざま)だな、ユーク!」 

 カルミアが笑う。そこにはただ憎悪と勝利の快感だけがあった。


(なら……!)

 ユークは咄嗟(とっさ)にポーチへ手を伸ばし、武器──鉄球を取り出そうとする。


 だが。


 ガンッ!


 背後から一撃。視界がぐにゃりと揺れて、意識が闇に沈んだ。


「喋りすぎですよ、カルミア様。あの酔っ払いが“偶然突き飛ばして”くれたから良かったものの……もしユーク様を殺していたらどうするつもりでした?」

 路地に低い声が響く。


 そこにいたのは、黒髪を短く切りそろえた女性だった。

 眼鏡をかけ、紺色(こんいろ)のスーツを身にまとい、片腕だけ緑色の巨大な腕に変化させている。


 冷たい視線でカルミアを(にら)みつけ、緑色に変化した巨大な右腕とは反対側の指で、眼鏡をクイッと押し上げた。


「ちっ、わかってるよ……手加減ぐらいしたさ……」

 まったく反省の色もなく、カルミアが吐き捨てる。


「……手加減、ね」

 女性は瓦礫に目をやる。血の(にじ)んだ瓦礫の山。ボルダーはその下でピクリとも動かない。


「なんだよ?」

 カルミアが女性を(にら)む。


「……いえ。ユーク様は私が運びます。よろしいですね?」

 冷えきった口調で言い放つ女性。


「……ちっ、勝手にしろよ。俺はもう帰るぜ」

 不機嫌そうに舌打ちし、道にツバを吐いて去っていくカルミア。


「……まったく。博士も、どうしてあんな男を……」

 女性はぼやきながら、緑の腕でユークを軽々と(かつ)ぐと、そのまま夜の闇へと消えていった。



 静寂が戻った路地の一角で、瓦礫がガラリと動く。


「…………やっと行ったか……」

 血まみれの顔をしかめながら、ボルダーが上体を起こした。


「いてて……こりゃあ、どっか折れてるな……。あー……酔いもすっかり()めちまった」

 ボルダーは傷だらけの身体をさすりながら、壁に手をついてゆっくりと立ち上がる。


「兄ちゃんの宿までは……わかんねえしな。ラピスの嬢ちゃんが知ってりゃいいが……」

 片足を引きずりながら、壁に手をついてゆっくりと歩き出す。


 ──こうして、ユークが何者かに(さら)われたという事実は、闇に埋もれることなく、アウリンたちのもとへ届けられることとなるのだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.33)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫

備考:後衛職ゆえに、カルミアの不意打ちに事前に気付くことが出来なかった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ボルダー(LV.??)

性別:男

ジョブ:??

スキル:??

備考:ユークよりもレベルは低いが、カルミアの殺気に気付き、酔った自分では避けきれないと判断して、咄嗟(とっさ)にユークを突き飛ばした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

カルミア(LV.13)

性別:男

ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ

スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)

備考:ボルダーの「死んだふり」にも、その実力にも気づけなかった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ