表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

138/161

第135話 楽しいひと時


「……そうだ。せっかく来たんだから、子供たちにも会ってくれないか? あの日から、ずっと君に会いたいって言っていたんだ」

 アズリアが、どこか申し訳なさそうな表情でユークに問いかける。


「もちろん。俺も、あの子たちに会いたかったので、ちょうどよかったです」

 ユークが笑顔で頷くと、アズリアはほっとしたように息を吐いた。


「そうか……ありがとう。じゃあ、入ってくれ」

 家の扉を開けて、彼女はユークに手招きする。


 二人はそのまま家の中へと入っていった。


「ただいま」

 玄関から声をかけると、奥からぱたぱたと小さな足音が近づいてくる。


「母ちゃんが帰ってきたーっ!」

「ほんと!? 本当に!?」

 ペクトとリマが勢いよく家の奥から飛び出して来た。


 子供たちは、玄関でユークと顔を合わせた瞬間、さらに目を輝かせる。


「あっ! ユーク兄ちゃんもいる!」

 ペクトが驚きの声をあげた。


「ええ!? やだっ! わたし、かわいい服に着替えてくるー!」

 ユークを見たリマが顔を赤くして、勢いよく奥の部屋に駆けていく。


「お、俺も剣持ってくる!」

 ペクトも負けじと後を追うように、家の奥へと走り去っていった。


「……すまんな、慌ただしくて」

 二人きりになった玄関で、アズリアが呆れたように笑いながらユークに謝罪する。


「いえ、賑やかでいいじゃないですか」

 ユークは柔らかな笑みを浮かべた。


「ほらっ! この剣、母ちゃんに買ってもらったんだぜ!」

 木剣を両手で抱えて、ペクトが得意げに見せびらかしてくる。


「あ……お兄さん……その……」

 少し遅れてリマも現れる。ふわりとした白いワンピースに着替え、恥ずかしそうにもじもじとユークの前に立った。


「可愛いお洋服だね」

 ユークが優しく声をかける。


「えへへ……はいっ!」

 リマはぱぁっと笑顔を咲かせ、ワンピースの裾を持ってくるりと回った。


「兄ちゃん! 見てって! ほら!」

 今度はペクトが木剣を振りながらユークの注意を引こうとする。


「うんうん。見てる見てる」

 ユークは抱きついてきたリマの頭を撫でながら、ペクトの方へ視線を向けた。


「本当にすまない。子供たちの相手をさせてしまって……」

 アズリアがお菓子の入った皿を手に戻ってくる。


「いえ、こういうのも好きですから」

 そう答えるユークの表情は、どこか柔らかかった。


「お前たち! ユークに助けてもらったお礼は、もう言ったのか?」

 アズリアが子供たちにむけて大きく声を張る。


「あっ!」

「まだ!」

 二人ははっとして、慌ててユークの前に並び立つ。


「「せーの……」」


「「あの時はありがとうございました!!」」

二人が揃って大きな声で頭を下げた。


「俺、ぜったい最強の剣士になって、ユーク兄ちゃんのパーティーに入るからな!」


「わたしもっ! 魔法の練習、毎日してるんだから! すっごい魔法使いになって、絶対仲間になるの!」

 元気いっぱいの二人の言葉に、ユークは苦笑する。


「ははっ……大きくなってからね」

 そしてユークは笑ってごまかした。


 すると、リマがそっとユークの首に抱きついて、耳元で(ささや)く。


「それとね……わたし、おっきくなったら……ユークお兄さんの恋人になってあげる……!」

 (ささや)いたあとのリマは、そっとユークの頬にキスをして、にこりと笑う。


(セリスが一緒だったら……間違いなく対抗意識燃やして大変だったろうな)

 ユークはふとセリスの顔を思い浮かべ、小さく笑った。


 そんなふうに、楽しく賑やかな時間はあっという間に過ぎていった。


 やがて日が傾き、ユークが帰る時間になる。


「また絶対に来てね!」

「ばいばーい! あのこと、本気だからねー!」

 小さな手を目いっぱい振る二人を、ユークは目を細めて見送り、そっと手を振り返す。


 そして、その後ろに立つアズリアが深く頭を下げる姿を見ながら、ユークはその家を後にした。


「まだ一人目だっていうのに……けっこう時間かかっちゃったな」

 街の大通りを歩きながら、ユークは小さくつぶやいた。空はすでに赤く染まり始めている。


(まあ、そのために一週間あるんだし……多少時間がかかっても大丈夫、かな)

 そう思いながら歩いていたそのとき、横から突然大きな声が飛んできた。


「おっ! 兄ちゃんじゃねえか!」


「っ!……あなたは!」


 思わず顔を向けたユークの目に飛び込んできたのは、以前ラピスと共ににトレント狩りに参加していたパーティのリーダー、ボルダーの姿だった。


「確か……ボルダーさん!」

 驚きの声をあげるユークに、ボルダーは豪快に笑いながら肩を組む。


「よぉ、兄ちゃん。暇ならちょっと付き合えや!」


「わっ、ちょ、ちょっと待っ……!」

 そのままユークは、強引に酒場へと連れ込まれていった。


 酒場は塔から戻った探索者たちで賑わい、どこもかしこも活気に満ちている。


「それでよぉ、行ってみたらよ! 封鎖されてて、ぜーんぜん通れなかったわけだ!」

 ボルダーが酒を飲みながら、酔っ払った勢いで愚痴をこぼす。


「あー、それは……大変でしたね」

 ユークは果実水を口にしながら、適度に相槌(あいずち)を打って受け流していた。


 話を聞けば、彼らは二十一階に挑もうとしたが、ギルドガードに封鎖されていて通れなかったらしい。


(ルチルさんが霊樹の件で封鎖してるのか……。セリスが回復したあと、精霊にお礼をもらいに行くなら、ルチルさんに一言通してからの方が良さそうだな……)

 ボルダーの話を聞きながら、ユークは内心で今後の段取りを考えていた。

 

「でよお! ……聞いてんのか!?」

 突然、ボルダーが絡んでくる。


「うん、うん。ちゃんと聞いてますって」

 軽くあしらいながら、果実水をもう一口。


(やってることはペクト君と変わらないのに……それがおっさんだと、全然可愛くないな……)


 そんな当たり前のことを思いながら、ユークは果実水の冷たさを楽しみつつ、ボルダーの話を聞き流すのだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.33)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫

備考:子供の相手をするのが意外と得意で、嫌いではない。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アズリア(LV.30)

性別:女

ジョブ:剣士

スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ストライクエッジ≫

備考:ユークに子供たちが迷惑をかけていないか、内心ひやひやしながら見守っていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ボルダー(LV.??)

性別:男

ジョブ:??

スキル:??

備考: 粗野な性格と見た目のせいで、酔っているととても高レベルの探索者には見えない。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ