第132話 会議の報告と、揺れる決断
探索者ギルド内の休憩スペース。
「ただいま……」
ユークが職員に案内され、アウリンのもとへと歩いてきた。
「あら、早かったじゃない!」
本を読んでいたアウリンがパタンと本を閉じ、笑顔で彼を迎える。
「いやあ、疲れたよ……あんなに大勢の前で話すの、初めてだったからさ」
ユークはアウリンと同じテーブルの椅子に腰を下ろし、苦笑しながら頭をかいた。
「それで、どうだったの?」
アウリンが身を乗り出して尋ねる。
「うん……ここじゃ何だし、家に帰ってから話すよ」
ユークは表情を引き締め、静かにそう答えた。
「……? わかったわ」
少し不思議そうな顔をしながらも、アウリンは頷き、ユークと一緒にギルドを後にするのだった。
自宅。
「ただいまー」
ユークがドアを開けた瞬間。
「ユークっ!」
「うわっ!」
セリスが勢いよく抱きつき、ユークはたじろいだ。
「ちょっと、セリス! 安静にしてなきゃダメでしょ!」
すぐさまアウリンが叱る。
「えー、でもー……」
セリスは不満げに唇を尖らせた。
「いいじゃない。セリスちゃん、ずっとユークくんのこと待ってたのよ」
ヴィヴィアンが柔らかく微笑みながらフォローする。
「もう……病み上がりってことを、もっと自覚しなきゃダメよ?」
アウリンはため息をつき、首を小さく横に振った。
「分かってるってばー!」
そう言いながら、セリスはユークにしがみついたまま体重を預け、彼を困らせている。
四人はリビングのテーブルに集まった。
ユークの正面にはアウリン、隣にヴィヴィアン。セリスは背後から抱きついたまま、動こうとしない。
「それで? 会議はどうだったの?」
アウリンが切り出す。
「うん……会議では、記録した映像を皆で確認して、その後に巨大ラルヴァと、それを守っていた男を倒したことを説明したんだ」
ユークは少し静かな声で答えた。
「家で何度も練習してたものね……」
ヴィヴィアンが、アウリンと共に説明の練習をしていたことを思い出し、微笑む。
「それで、ラルヴァが出始めたのが、誘拐事件を起こしたヘリオ博士が魔族を復活させた時期と重なっていて……ギルドマスターは、魔族も博士もまだ見つかってないし、信奉者も一人じゃ済まないかもしれないって考えててさ。この事件はまだ終わってないって判断してた」
ユークは天井を見上げながら、言葉を続けた。
「ブロモラ所長は、当初責任を取って辞任する予定だったけど……ギルドマスターが『事件が続いてる以上、陣頭指揮を執ってもらう』って押し切って、結局そのまま続投することになったよ」
苦笑まじりに言うユーク。
「すごいわね、あの人……普通なら、あれだけのことをしておいて、所長を続けるなんて無理だと思うけど……」
アウリンが目を丸くした。
「それから、今回の事件で戦った男が、レベル40を超えている可能性があるって俺が話したら、『現在の戦力では対応できない』って結論になって……最終的に、ギルドマスターが周辺の三国に増援を要請するって方針を通してた」
ユークは淡々と報告を終える。
「でも……そうなるなら、ギルドに預けてあるお金は、早めに全部引き出しておいた方がいいかもしれないわね」
アウリンが腕を組み、考え込むように言った。
「アウリンちゃん?」
ヴィヴィアンが顔を覗き込む。
「前にも言ったでしょ? 多くのダンジョンは国の管理下にあるけど、《賢者の塔》はギルドの管理だから、誰でも入れる。でも、もし“危険だから”って理由で国が管理に乗り出したら――自由に使わせてもらえなくなるわ」
アウリンは真剣な表情で告げる。
「ええ!?」
ユークが驚いた声を上げ、ヴィヴィアンは静かに頷いた。セリスはあまり興味なさそうに聞いている。
「だって、もし霊樹の精霊の言っていたことが本当なら、《賢者の塔》はこの街だけじゃなくて、世界の命運を握ってることになるのよ? そんな場所を、言い方は悪いけど、素性もわからないゴロツキに任せておけると思う?」
アウリンの問いかけに、ユークは言葉を失う。
「じゃあ……どうするつもり?」
ユークが小さく問いかける。
「この街を出ましょう。できれば、周りの国が動く前に」
アウリンはきっぱりと言い切った。
「でも……出たとして、どこに?」
ヴィヴィアンが問う。
「現実的には、周辺の三国のどれかに拾ってもらうしかないわね」
アウリンが口を引き結ぶ。
「三国っていうと、ゴルド王国、ルナライト帝国、アラゴナ商国の三つか……」
ユークが指を折りながら数えた。
「行くとしたら、ゴルド王国かな」
ジオードの言葉を思い出しながら、ユークはつぶやく。
「うーん……でも私の件があるから、ゴルド王国はちょっと……」
アウリンが頬に手を当て、思案に沈んだ。
「あー……」
「そうね……」
事情を知る二人が口をつぐむ中、何のことかわからないセリスだけが首をかしげている。
「まあ、リーダーなんだからユークに決めてもらいましょう!」
アウリンが明るく言い放つ。
「えっ、俺!?」
ユークが目を丸くした。
「でも俺、名前くらいしか知らないんだけど!?」
困ったように言うと、アウリンはにっこりと笑う。
「だから、今から説明してあげる!」
片目をつぶって指を立てるアウリンは、どこか得意げだった。
こうしてユークたちは、この街を離れるという大きな決断について、真剣に話し合い始めたのだった。
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ユーク(LV.33)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:リーダーって、決断ばっかり求められて……正直、胃が痛いよ……
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セリス(LV.33)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:だって、ユークが帰ってきたら、真っ先に抱きつきたくなるじゃない!
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アウリン(LV.34)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:最終的な決断は、やっぱりリーダーにしてもらわないとね!
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ヴィヴィアン(LV.33)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:ふふっ……どこへ行っても、みんなと一緒ならきっと大丈夫だと思うの。
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