第129話 エピローグ2 それぞれの新たな力
セリスたちに霊薬を与えてから、数日後――。
ユークたちはギルドを訪れ、仲間全員で探索者カードの更新手続きを行っていた。
セリスとヴィヴィアンは快方に向かっているとはいえ、まだ完全には回復していない。ステータスの確認を終えたあとは、ギルド内の椅子に腰かけて静かに休んでいた。
「貰ってきたよ!」
受付から戻ってきたユークが、新しい探索者カードを手にして笑顔を見せる。
「あっ! 来たっ! ……っ、いたた……」
セリスは思わず勢いよく立ち上がり、すぐに顔をしかめてしまう。
「もうっ、まだ治りきってないんだから、無理しちゃダメでしょ!」
アウリンが腰に手を当てて、頬をふくらませるように怒る。
「まあまあ。あれだけの戦いを乗り越えたんだもの、楽しみにしてるのも無理ないわ」
麻のシャツにスカート姿のヴィヴィアンが、やんわりとたしなめるように微笑んだ。
「はい、これが新しいやつだよ」
ユークがカードを一枚ずつ順番に配っていく。
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ユーク(LV.33)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
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セリス(LV.33)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
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アウリン(LV.34)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
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ヴィヴィアン(LV.33)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
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「うわっ……私、レベル上がってる!」
セリスが嬉しそうに声を上げて跳ねた。目はきらきらと輝き、喜びを隠しきれていない。
アウリンとヴィヴィアンも自分のカードを確認して、まあ想定通りね、といった表情でうなずいている。
「ねえ、ユーク。EXスキルの効果って……これ、どこに書いてあるの?」
カードをじっと見つめたセリスが、ふと疑問を口にする。
「EXスキルは探索者の“切り札”だから、カードには効果が書かれないんだって」
ユークは受付で聞いた説明をそのまま伝えた。
「えぇ~、そうなの!? 気になるのに!」
セリスが子供のように不満げに唇を尖らせる。
「ああ、効果の詳細はこっちに書いてあるらしいよ」
ユークは苦笑しながら、自分の封筒を軽く掲げて見せた。
「家に帰ってから、みんなで確認しよう」
彼は手元の封筒をそれぞれに渡していく。封にはギルド本部の紋章が刻まれており、開封するまで中身は分からない仕様になっていた。
「うん! 楽しみ~!」
セリスもヴィヴィアンも、顔を綻ばせてうなずく。
「ふふ、みんながどんな力を得たのかしらね……」
アウリンは一歩引いた場所からその様子を眺めながら、やわらかく微笑んだ。
こうして四人はギルドを後にし、自宅へと戻っていった。
久々に穏やかな空気が流れる、ユークたちの拠点の一軒家。
セリスとヴィヴィアンは完全とはいえないが、日常動作に支障がない程度まで回復していた。居間の大きなテーブルに四人が揃い、それぞれ封筒を手にしている。
「じゃあ……みんな、準備はいい?」
ユークがまわりを見回すと、セリスは大きくうなずき、ヴィヴィアンは目を輝かせて同意し、アウリンも静かに頷いた。
「それじゃあ……開封、しよう」
≪リミット・ブレイカー≫
発動から30秒間、自身の全能力を300%まで引き上げる。
ただし、使用後24時間のあいだ、ジョブ機能は完全停止する。
「……やっぱり、こういう効果だったか」
ユークが呟く。
「えっ、なになに!? 見せて見せて!」
セリスが身を乗り出すと、ユークは紙をテーブルの中央に置いた。
「すごい! めっちゃ強いじゃない! でも……“ジョブ機能が停止”ってどういうこと?」
アウリンが眉をひそめる。
「『リインフォース』が使えなくなるってことかな」
「うわあ……でも、そこまで問題ないのかも?」
セリスが首をかしげながらつぶやく。
「たしかに、ユークなら他の強化魔法も使えるし、なんとかなると思うわ」
アウリンが静かに答えた。
「あの時ユークくんが使ってたの、やっぱりこのスキルだったのね~」
ヴィヴィアンが火傷の男との戦いを思い出しながら口にする。
「うん。けど発動時間が短いから、使うタイミングには気を付けないと……」
ユークが真剣な表情で語る。
「まさに“切り札”って感じね」
アウリンがぽつりとつぶやいた。
「次は、私ね」
ヴィヴィアンが封を丁寧に開き、紙を取り出す。
≪ドミネイトアーマー≫
自身の鎧に魔力を込めて強化し、防御力と攻撃力を飛躍的に上昇させる。
強化魔法と併用することも可能。
「私のは、鎧を強化するタイプのスキルね。……でも、鎧を脱いじゃうと使えなくなるのが難点かしら」
そう言ってヴィヴィアンは、少しだけ困ったように笑った。
「つまり、ヴィヴィアンがさらに硬くなるってことだね。頼りにしてるよ」
ユークが笑顔を見せる。
「うん、任せてっ!」
ヴィヴィアンがガッツポーズをして、片目をウインクさせた。
「じゃあ、次はセリスちゃんよ~!」
「うんっ!」
セリスが封を勢いよく開け、中の紙を取り出す。そしてそれを眺めたあと、困ったように言う。
「……読めない。ユーク、読んで?」
「はいはい。ちょっと待ってね」
ユークは笑いながら、セリスのスキル説明を読み上げた。
≪タクティカルサイト≫
魔力の流れを読み取り、相手の次の行動を予測する能力。
戦況を見極める冷静さと直感が求められる。
「すごい! かっこいい!」
セリスは目を輝かせながら、スキル名を何度も口にしていた。
「なんか……地味だけど、実はすごく強力なスキルじゃない?」
アウリンが感心したように言う。
「うん、これがあれば戦い方がぜんぜん変わってくるよ」
ユークの言葉に、セリスは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「えへへ、じゃあ次はアウリンの番だよ!」
みんなの視線が集まる中、アウリンは静かに封を切る。
≪イグニス・レギス・ソリス≫
敵の頭上に太陽を模した超高温の火球を生成する。
火球は一定時間後に落下し、広範囲に甚大な熱と衝撃を与える。
使用後は24時間のクールタイムが必要。
「あの時使ったスキル、すごい威力だったものね」
ヴィヴィアンがしみじみと呟く。
「そのぶん、リスクもあるのよ。ユークほどじゃないけど」
アウリンは淡々と答える。
「でも……『プロミネンス・ジャベリン』よりずっと強力に見えたけど」
ユークが言うと、アウリンは頷いた。
「うん、あの魔法よりも確実に強いと思う」
仲間たちから自然と感嘆の声があがる。
「……本当は、私なんかが扱っていい力じゃないのかもね」
そう言ってアウリンは苦笑したが、その瞳はどこか誇らしげだった。
「みんな……本当にすごいな」
ユークが改めてテーブルの上を見渡す。
かつては平凡なパーティーだった自分たちが、今ではここまでの力を手にしている。
「みんなこれからもよろしく!」
ユークが仲間達を見回して言う。
「うん!」
「もちろん!」
「こちらこそだわ~」
それぞれの胸に、新たな力への期待と、これからの冒険への決意が宿っていた。
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ユーク(LV.33)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:このスキルがあれば、俺もみんなを守って戦える!
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セリス(LV.33)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:実際に使ってみないと分からないかな~?
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アウリン(LV.34)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:こんな強力な魔法が詠唱無しに発動できるなんて、恐ろしいわね……
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ヴィヴィアン(LV.33)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:他にも使い道があるような気がするのよね~
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