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第128話 霊樹の森のエピローグ


 《賢者の塔》からの帰還後、ユークたちは真っ先にセリスとヴィヴィアンを病院へと運び込んだ。


「セリス、病院に着いたよ? セリス? ……セリス!?」

 ユークは背負ったままのセリスに声をかけるが、返事はない。


 彼女の肩からは深く斬られた傷口から大量の血が流れ、病院に到着した頃には意識が朦朧(もうろう)としていた。


「ふう……こういう時に、簡単に脱げる鎧でよかったわ……あらっ?」

 鎧を外し終えたヴィヴィアンが、急にふらついてよろめく。


「ちょっと、大丈夫!?」

 アウリンがすかさず駆け寄り、倒れかけた彼女の体を支えた。


「あら……ごめんなさいね、アウリンちゃん……」


 どうやらヴィヴィアンは、新しく覚えたEXスキルを無意識のうちに使い続けていたようだった。そのために表面上は平然としていたが、本来ならば立っていられるような状態ではなかったらしい。


 だが、それでも二人とも数週間もすれば完治すると診断されたのは、さすが高レベル探索者の生命力といったところだ。


 その話を聞いたユークとアウリンは、ようやく安堵の息を()らした。


 ベッドで眠るセリスとヴィヴィアンを、ユークは心配そうな目で見つめている。

(……俺のわがままで、ふたりをこんな目に遭わせてしまった)


 今回の騒動は、ラピスの言葉に心を揺さぶられたユークが、かつてカルミアたちといた頃の自分を重ねたことから始まっていた。


 “彼女の努力を、無駄にしたくない”


 その想いが、すべてのきっかけだった。


 霊樹の異変や街に迫る危機などは、あとになってようやく見えてきたものにすぎない。


(俺が、あんなことを言わなければ……)

 ユークの思考はどんどん負の方向へと傾き、拳をぎゅっと握りしめる。


 「ほらっ! しゃんとしなさいよ!」

 その背中を、アウリンが勢いよくはたいた。


「うわっ!? あ、アウリン……?」

 驚いたユークが振り返る。


「理由はどうあれ、自分の意思でついてきたのはあの子たちよ? それに、ちゃんと目的は果たしたし、怪我だって時間が経てば治るんだから!」

 アウリンは真っ直ぐにユークを見つめながら続ける。


「悔やむ気持ちは大事だけど、それなら次に同じことが起きないよう、ちゃんと考えて備えなさい!」

 アウリンは真剣な眼差しで、まっすぐ言葉をぶつける。


(そうだ。俺の判断が、仲間の命を左右してるんだ。……パーティーのリーダーって、こんなにも重い責任を背負ってるんだな……)

 ユークは自らの悔恨(かいこん)を振り切るように前を向き、強く拳を握りしめた。


 そしてアウリンと共に病院を出ると、外で待っていたラピスと合流する。


(……ラピスの前じゃ言えないけど、あの時、感情だけで判断すべきじゃなかったのかもしれない)

 ラピスの顔を見つめながら、ユークは静かに胸の内でつぶやいた。


「……? どうしたんですか?」

 小首をかしげるラピスに、ユークは慌てて笑顔を作る。


「ううん、なんでもない。早く帰って霊樹を作っちゃおう」

 首を軽く振りながらそう言うと、ラピスがぱっと表情を明るくする。


「そうね、急ぐわよ!」

「はい!」

 二人の声が重なった。


 ◆ ◆ ◆


 アウリンは家に戻るなり、休む間もなく霊薬の調合に取りかかった。


 ラピスやユークも手伝い、完成したのは――ラピスの孤児院の院長先生のために作られた「病に効く霊薬」と、精霊の治療で効果があった「傷や怪我に効く霊薬」の二種類だった。


 まずは、ラピスがずっと心配していた院長先生に「病に効く霊薬」を使うことにした。


 彼女の孤児院は、街のはずれにある小さな施設だった。

 到着すると、柔らかな笑顔を浮かべた青年が迎えてくれる。現在は彼が院長代理として孤児院を支えているらしい。


 アウリンがそっと、院長先生の口元へ霊薬を差し出す。


 すると、長いあいだ床に伏していた院長先生の顔に、じわじわと血色が戻っていく。止まらなかった咳も、不思議とぴたりとおさまった。


 まるで、消えかけた命が静かに灯を取り戻すような――そんな光景だった。


 思わず飛び跳ねて喜ぶラピスの姿を見て、ユークもようやく張り詰めていた肩の力を抜くことができた。


 だがその裏で、彼は多くの人に迷惑をかけてしまったという思いも拭いきれない。


 そんな彼のそばに、アウリンは何も言わず静かに寄り添っていた。


 その足で病院へと戻り、今度はセリスとヴィヴィアンの治療に取りかかる。


 医師はアウリンの霊薬を見て不快そうな顔をしたが、ルチルの念書を見せると渋々黙り込んだ。


 翌朝、「傷や怪我に効く霊薬」を塗ったふたりの傷は、信じられないほどきれいにふさがっていた。


 驚きのあまり、言葉を失って傷跡を見つめる医師の姿に、思わずユークたちの口元が緩む。


 数日後――。


 ユークたちはギルドを訪れ、仲間たちと共にステータス鑑定を受けた。


 その結果、全員が新たな“EXスキル”を習得していたのだった――。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.33)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫

備考:≪リミット・ブレイカー≫は、自身の全能力を30秒間だけ300%まで引き上げる究極の自己強化スキル。

ただし、発動後は24時間のあいだ“ジョブ”の機能が停止するという大きなリスクを伴う。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.33)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪タクティカルサイト≫

備考:≪タクティカルサイト≫は、魔力の流れを読み取り、相手の次の行動を予測する能力。

戦況を見極める冷静さと直感が求められる。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.34)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫

備考:≪イグニス・レギス・ソリス≫は、敵の頭上に太陽のような巨大な炎球を生み出し、灼熱とともに包み込む強力な攻撃魔法。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.33)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫

備考:≪ドミネイトアーマー≫は、自身の鎧に魔力を込めて強化し、防御力と耐久性を飛躍的に上げるスキル。

強敵との正面からの戦いで真価を発揮する。

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