第121話 霊樹の告白と《賢者の塔》の真実
「じゃあ、話してもらうわよ! あんたがずっと隠してきたことを、全部ね!」
アウリンの鋭い視線を受け、霊樹の精霊――空色の羽を持つ鳥が、一拍の沈黙ののちに口を開いた。
『まず、《賢者の塔》についてだ。お前たちは、なぜこの塔が存在するのかを知っているか?』
精霊の問いに、アウリンは当然のように答える。
「え? 大賢者さまが自分の遺産を託すために作ったんでしょ?」
「へ~」
「そうだったのか……」
ユークとセリスが感心したように相槌を打つ。
「あんた達……それくらい知っておきなさいよ……」
アウリンは呆れたように二人を睨んだ。
『違う。この塔は、かつて世界を滅ぼしかけた“魔獣”を封印するために、大賢者によって築かれたものだ』
精霊は鋭い目でユークたちを見回す。
「はぁ!?」
アウリンが叫び声を上げた。表情は驚愕に染まっている。
「魔獣って……モンスターとは違うの?」
セリスが眉をひそめて問いかける。
「封印って……?」
ユークも、不吉な単語の響きに嫌な予感を覚えた。
『人間もモンスターも、死ねば魂は地上から消える。しかし“魔獣”だけは違う。たとえ肉体が滅んでも魂は残り、無限の魔力を生み出し続ける。そして、いずれ時間をかけて完全に復活してしまう』
「ちょ、ちょっと待ってよ! その“魔獣”って何!? ちゃんと説明してよ!」
アウリンが思わず声を荒げた。
『我にも正体までは分からぬ。だが大賢者はこう考えていた。人間が神から“ジョブ”を授かったように、魔族にもまた何らかの“力”が与えられていたはずだ。それが、魔獣という存在なのかもしれぬ……と』
どこか懐かしげな声で、精霊は語った。
「それって神獣なんじゃ……」
「スケールが大きすぎる……」
セリスとアウリンが呆然とした顔で呟く。
「ってことは……つまり、魔族が生きてた時代に一度倒されて……それが大賢者さまの時代に復活したってこと?」
ユークが自分の考えを口にする。
『ああ。大賢者は、古文書に同じ特徴を持つ魔獣が過去にも現れ、討伐された記録を見つけたそうだ』
精霊がうなずく。
「ええ……」
ユークは話のスケールに圧倒され、理解を投げ出したくなった。
『魔獣の完全な復活を防ぐために、大賢者は《賢者の塔》を創り上げた。《賢者の塔》とは、人々がその名を口にするたびに、塔に秘められた封印の力が強化されるように設計されている魔法装置なのだ。その名が広まり、多くの人々が口にするほど、魔獣の封印はより強固になる』
そう語る精霊は、ゆっくりとその翼を広げた。
「魔法……装置……」
アウリンが信じられないといった表情で言葉を失う。
だが、精霊は彼女に構わず話を続けた。
『さらに、大賢者は魔獣の魂を削り、そのエネルギーを精霊樹で変換して《賢者の塔》内に“モンスター”として召喚する仕組みを作った。そして、それを探索者たちに討伐させることで、魂を徐々にすり減らし、最終的に滅する――それがこの塔の本当の役割だ』
語り終えると、精霊はその目を静かに閉じた。
「……つまり、俺たちは魔獣を倒すための手伝いをしてたってことか」
ユークが小さく呟く。
『その通りだ。そして、もし我が枯れれば……この塔のシステムは魔獣に乗っ取られるだろう。そうなれば塔内のモンスターたちも支配され、外界に溢れ出す。街や国を襲い、封印された魔獣に魂を集めて、封印を破るかもしれぬ』
そう言いながら、精霊はユークにまっすぐ視線を向けた。
「っ……!」
空気が重くなるのを感じ、ユークたちの表情に緊張が走る。
『そして――塔から漏れ出したモンスターたちは、皆《《物理攻撃への高い耐性》》を持つ。その厄介さは、誰よりもお前たちが知っているだろう?』
精霊の言葉に、アウリンが食ってかかった。
「ちょっと待ってよ! なんで塔から出たのに、モンスターにその特性が残ってるの!? それっておかしいでしょ!?」
精霊はゆっくりと頷いた。
『《賢者の塔》に召喚されるモンスターたちは、魔獣の魂の欠片から作られた存在……いわば“魔獣の眷属”だ』
少し間を置き、言葉を続ける。
『そして魔獣は、本来《《物理攻撃を一切受けつけない》》特性を持っている。その性質の一部が、眷属にも引き継がれているのだ。だから、ここのモンスターはあれほどまでに物理攻撃への耐性が高い』
精霊の言葉に、ユークたちは言葉を失った。誰もが息を呑み、重たい沈黙がその場を支配する。
「ねえ、ちょっと待ってくれないかしら。……じゃあ、ラルヴァっていったい何なの?」
今まで黙っていたヴィヴィアンが、ゆっくりと口を開いた。
「さっきの戦いでも思ったけど、ユーク君の強化魔法がなければ、まともにダメージを与えられない感じがしたわ。あれも《賢者の塔》が生み出したモンスターなの?」
彼女の問いに、精霊はわずかに首をかしげながら答える。
『ラルヴァの正体は……残念ながら、私にもはっきりとはわからない。ただ、そこの地面に落ちている真紅の魔石――それからは、魔獣の魔力が濃く感じられた。おそらく、魔獣に深く関係する存在であることは間違いないだろう』
精霊の声は静かだったが、その内容はあまりにも重く、全員の心に深く刺さった。
自分たちがこの塔で相手にしてきたものが、魔獣の影を持つ存在だったとは――
誰ひとりとして、そんな可能性を考えた者はいなかった。
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ユーク(LV.28)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:なんで俺たちがこんな目に……
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セリス(LV.28)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:なんかやばそうってことは分かった。
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アウリン(LV.29)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:考えることが多すぎて……頭、痛くなりそう。
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ヴィヴィアン(LV.28)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:これ……もう私たちの手に負える話じゃない気がするんだけど……
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ラピス(LV.30)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪テラーバースト≫
備考:(私は何も見てないし、何も聞いてない。私は何も見てないし、何も聞いてない……)
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