第119話 琥珀の守護者と古の鳥
昇降機が静かに停止し、重苦しい沈黙が空間を満たす。
目の前に広がっていたのは――巨大な洞。
霊樹の内部にぽっかりと開いたその空洞は、天井が見えないほど深く、内壁はねじれた木目に覆われていた。
ところどころに淡く発光する苔のような植物が張りつき、幻想的でありながらも、どこか不気味な空気を漂わせている。
「……すごい。こんな場所が……」
ヴィヴィアンが小さく息を呑んで見上げる。
空洞の内側には、小さな裂け目のような空間が点々と存在しており、ラピスたちはそのひとつひとつに駆け寄って確認を始めた。
「だめ。枯れてる……」
「……無い」
「そっちも!? ここもダメだ! 乾いてる!」
「だめー! カラッカラ!」
次々に響く声に、落胆の色がにじむ。
枯れた樹液の跡からは、本来なら甘く豊かな香りを放っていたはずの霊樹の気配は消え、ただ土埃と微かな腐臭だけが残っていた。
「そんな……」
ラピスの顔に、焦りと絶望が浮かび上がる。
ユークがそっとラピスに近づいた。
「ラピスさん、ここが目的の採取ポイントで間違いないんですよね?」
「……はい。霊樹の樹液は、本来ならこのあたりで自然に滴っているはずなんです。でも、どこも……枯れてしまっています」
ラピスは悔しげに唇をかみ、視線を伏せた。彼女の胸には、病に臥せる孤児院の院長の姿が浮かんでいた。この樹液だけが、最後の希望だったのだ。
「もっと奥に行ってみよう」
ユークの提案に、ラピスもうなずく。
「そうですね……まだ生きている採取ポイントが残っているかもしれません」
一行はさらに奥へと進み、途中の裂け目も確認していった。だが――
「そんな、全滅……?」
ラピスたちの報告に、ユークの声がわずかに震える。
「……無駄骨ってこと?」
アウリンが肩を落としながらつぶやいた。この深部まで来て得られるものが何もなかったという現実は、彼女たちの心に重くのしかかった。
「他に、樹液が取れる場所は無いのかしら〜?」
ヴィヴィアンがラピスに視線を向ける。
「もう……私たちには、ここしか……」
ラピスが言い淀みながら答える。
「ねえ、ここ、もっと奥があるみたい!」
セリスの声が、沈んだ空気を切り裂いた。
「奥?」
ユークはためらうことなくその方向へ歩き出す。
「あっ、そっちは……!」
ラピスが慌てて止めようとしたが、ユークたちはすでに奥へと足を踏み入れてしまっていた。
「っ! なにかいる!!」
セリスが、洞の奥に向かって槍を構える。
そこにいたのは――木と琥珀で構成された、巨大なゴーレムだった。
「ゴーレム……?」
ヴィヴィアンが目を細める。
その体はあちこちが欠け、片腕は完全に失われていた。足元には真紅の魔石が無数に散らばり、血のような光を放っている。
「あの魔石って……」
ユークがつぶやき、アウリンに目を向けた。
「ええ。ラルヴァの魔石ね。間違いないわ」
「ということは、あのゴーレムが、これだけの数のラルヴァを……?」
ヴィヴィアンが声をひそめて問う。
「おそらく、下で戦った巨大なラルヴァも、ここを目指していたんでしょうね……」
アウリンの言葉に、一同は黙り込む。
彼らはすでに、ラルヴァが霊樹を狙っていることを、なんとなく理解していた。
そのとき――
「……動くっ!」
セリスが警告の声を上げる。
琥珀の体から木屑がこぼれ、重たく軋む音が空洞内に響く。見上げるほどに巨大なゴーレムが、ゆっくりと立ち上がった。
「一旦下がろう! ここで戦う意味は無い!」
ユークが即座に指示を飛ばし、仲間たちも動きかけた――その瞬間だった。
『……待て、人間よ。我の話を聞け』
声とともに、どこからともなく風が吹き抜ける。
ゴーレムがゆっくりと身をずらすと、その肩へと、空色の翼を広げた鳥のモンスターが舞い降りた。
鋭く光る双眸。空色の広大な翼。堂々たるその姿は威厳に満ち、見る者に畏怖と、抗いがたい神聖さを感じさせる。
『人間たちよ……我は見ていた。お前たちの戦い、知恵、そして力を。お前たちがラルヴァと呼ぶモンスターとの幾度もの戦い、そのすべてを』
鳥のモンスターの言葉に、一同は言葉を失いながらも、その声に耳を傾けた。
『頼む……どうか、この身を救ってはくれぬか。この古き樹に巣くう寄生虫ども――お前たちがラルヴァと呼ぶ者たちを、滅ぼしてほしいのだ』
その声は、風に削られた木の囁きのように静かで、それでいて、遥かな時の重みと、切実な願いが込められていた。
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ユーク(LV.28)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:何も聞かなかったことにして帰りたい。
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セリス(LV.28)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:とりあえず、敵ではなさそう。
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アウリン(LV.29)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:面倒事はごめんなのよね。
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ヴィヴィアン(LV.28)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:またアレと戦うのは勘弁して欲しいわ。
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ラピス(LV.30)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪テラーバースト≫
備考:重要そうな話だから、ちゃんと撮っておかないと……
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