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第118話 新たなEXスキルとその代償


 空中で燃え尽きたラルヴァの残骸が、ふわりと宙を舞い、風に運ばれて灰のように散っていく。


「……やっぱりすごいな、アウリンの魔法って」

 見上げながら、ユークが穏やかな笑みを浮かべる。


「……そうね……」

 アウリンは額に手を当て、ふらつきながら小さく頷いた。


「アウリン!? もしかしてどこか怪我でもしたのか!?」

 ユークが慌てて駆け寄り、様子を確かめようと彼女の服に手をかける。


「ちょ、ちょっと! 平気だってば!」

 アウリンはスカートを押さえながら、あわててユークの手を振り払い、顔を真っ赤にして視線をそらした。


「ご、ごめん……。その……心配で……」

 しゅんと肩を落とし、ユークは小さく頭を下げた。


「アウリンちゃん、どこか悪いの〜?」

「アウリン、大丈夫?」


 ヴィヴィアンとセリスが駆け寄ってくる。アウリンは片手を軽く上げて制し、息をひとつ吐いた。

「……平気よ。ただ、急に情報が流れ込んできて……ちょっと頭が混乱しただけ」


「情報……?」

 ユークが首をかしげる。


「ユークも覚えてるはずよ。初めてスキルを習得したとき、知識が一気に押し寄せてくるような感覚がなかった?」


「ああっ! 十歳で初めてジョブをもらったときの、あれか!」

 懐かしそうに、ユークが目を見開く。


「え〜? わたしは、そんなの感じなかったかも〜?」

 セリスは反対に、首をかしげた。


「たぶんね、それって“発動型”のスキルかどうかで、感じ方が変わるんだと思うわ」

 アウリンが片目をつむり、指を一本立てて説明する。


「ってことは……アウリンちゃん、新しいスキル覚えたってこと〜?」

 ヘルムを外したヴィヴィアンが、柔らかい笑みを浮かべて問いかける。


「ええ。たぶん、レベル三十になったことで、新しいスキルを覚えたんだと思うわ」

 アウリンは少し俯いたまま、静かに答える。


「それって……EXスキル!?」

 セリスが勢いよく身を乗り出す。


 だがそのとき、ユークは違和感を覚えていた。

 いつもの元気な様子とは違い、どこかアウリンの雰囲気が暗く感じられたのだ。


「……アウリン、なんだか嬉しそうじゃないけど、何かあった?」

 ユークが不思議そうに声をかける。


「うん……新しく手に入れたスキルなんだけど、すごく――使いにくいのよね……」

 アウリンは肩を落とし、ため息まじりに言葉をこぼした。


「使いにくいって、どういうこと?」

 セリスが首をかしげて尋ねる。


「一度使うと、その日はもう再使用できないの。タイミングが悪ければ、一回も使えずに終わっちゃうかもしれないくらい」


「うわぁ……」

 ユークが眉を下げて気の毒そうに反応した。


「いくら強力でも、それじゃ実用性に欠けるわね……」

 ヴィヴィアンが少し困ったように肩をすくめる。


「……でもまあ、新しい切り札ができたって考えれば、悪いことばかりでもないよ」

 ユークは気を取り直すように肩を軽く上げて言った。


「それはそうなんだけど……せっかくのEXスキルなんだから、もっとこう、派手に活躍させたかったじゃない……」

 アウリンが不満げに言いながらも、ユークの言葉に頷いた。


「まあまあ、その話はひとまず置いておきましょう? それに――あんまり長く話し込んでると、彼女たちに悪いわ」

 ヴィヴィアンがふと視線を横に逸らす。


「……え?」

 アウリンもつられるようにその視線の先を見やった。


 少し離れた場所に、ラピスたちの姿があった。


「なにしてるのよ、そんなところで」


「え、えっと……お話してたから、邪魔しないほうがいいかなって……」

 ラピスが気まずそうに笑いながら答えた。


「……はぁ。そんな遠慮しなくていいのに。ほら、こっち来なさいってば」

 アウリンが手をひらひらと振って手招きすると、ラピスは小さく頷き、こちらへ歩き始める。


 そのときだった。


 セリスの表情がぴくりと強ばり、すぐに槍を構えた。

「待って。なにか動いた!」


「な、なに!?」

「敵か!?」

「みんな警戒して!」

 ヴィヴィアンは素早く盾を構え、ユークは周囲を鋭く見渡す。


 彼らの視線の先――そこには、先ほど霊樹に叩きつけられて動かなくなっていたはずの、片腕のキラーマンティスが、今まさにゆっくりと起き上がろうとしていた。


「ちょ、ちょっと!? まだ戦うつもりなの!?」

 ラピスが警戒しながら槍を構える。


 だが、キラーマンティスは彼女に一瞥もくれず、静かに宙へと飛び上がり、そのまま、まっすぐに――空の彼方へと飛び去っていった。


 その向かう先は、ルチルたちが戦っている方角。


「……!」

 ユークの思考が、一瞬だけ揺れる。


 攻撃すべきか、それとも見逃すべきか――。


 あのキラーマンティスは、先ほどラルヴァを攻撃していた。つまり、敵対関係にある可能性が高い。もしそうなら、ルチルたちにとっては援軍になるかもしれない。


 判断に迷っている間に、キラーマンティスの姿はすでに空の彼方へと消えていた。


(……見なかったことにしよう)

 ユークがそう結論づけかけた、そのときだった。


 ラピスの手元で、銀色に光る魔道具がふと視界に入り込む。


「あ……」

 彼の顔から血の気が引いていった。


(やばい……録られてたんだった……!)


(まあ……仕方ない。何か言われたら、あとで謝ろう)


 ユークは気まずそうに視線をそらしながら、内心でため息をつく。

 その横で、一行はようやく霊樹の幹に取り付けられた昇降機へと足を向けていた。


「あの昇降機を登れば、目的地です!」

 ラピスが明るい声で指を差す。

 その表情は、さっきまでの緊張が嘘のようにほころんでいた。


「よし、それじゃあさっさと樹液を採取して、終わらせよう!」

 ユークの言葉に、仲間たちはうなずく。


 それぞれが最後の一歩に向けて、歩みを進めていく。


 長く険しかった探索が、ついに終わりを迎えようとしていた。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.28)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:勢いで約束してしまったことが原因で仲間たちに迷惑をかけてしまい、申し訳なく思っている。

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セリス(LV.28)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:アウリンがEXスキルを習得したのを見て、自分のEXスキルがどんなものか期待に胸をふくらませている。

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アウリン(LV.29)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:探索の終わりが見えてきて少し余裕が出てきたため、ラルヴァについて考え始めている。あのモンスターは明らかに異質だ。手に入れた魔石を調べれば何か分かるかも……

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ヴィヴィアン(LV.28)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:なぜかシェナに懐かれたようで、鎧についてあれこれ聞かれて困惑している。

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ラピス(LV.30)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪テラーバースト≫

備考:ようやく目当てのものが手に入りそうで浮かれている。

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