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第117話 ヴィヴィアンの鎧、解き放たれる秘奥


 セリスの槍が次々と触手を()ぎ払い、ついにその根元へとたどり着いた。

「……ここっ!!」


 触手を足場にして宙に浮かんだセリスは、体を大きくひねった。


 そのまま回転するように槍を振り抜き、ラルヴァの肩から伸びる触手の束を、一気に切り裂く。


「ヴォオオオオオオ!!」

 異形のラルヴァが悲鳴とも咆哮ともつかない声を上げ、巨体を震わせた。


 切断された触手が霊樹の根にばらばらと落ち、赤黒い液体をまき散らす。


 ラルヴァは自らの失策を悟った。すぐさま残るもう一方の触手を即座に回収し、再び編み上げて元の“巨大な腕”へと戻そうとする。


 だが――。


「ヴォ!?」

 ラルヴァは違和感に気づいた。腕を戻そうとした先、その内部には、巨大な“石の壁”が埋め込まれていることに。触手がその表面に絡みつき、編み直しの動きを阻害していたのだ。


 あわてて振りほどこうとする――その時。


「《ストーンウォール》!」

 ユークの声が再び響き渡る。


 瞬間、もう一枚、重々しい音とともに現れる石壁。


 ラルヴァの触手が、石と石の間に挟まれた。


「ヴォ……ヴォォオッ!?」

 暴れる。しかし暴れれば暴れるほど、触手は絡まり、締めつけられ、うまく動かせなくなる。


「《ストーンウォール》!」

「《ストーンウォール》!!」

 ユークは次々と魔法を連射した。


 石壁が一枚、また一枚と増えていき、ついにはラルヴァの残った触手の腕は石の塊にがんじがらめにされ、空中で完全に固定されてしまった。


(よしっ! アウリンの魔法ももうすぐ完成する……これで終わりだ!)

 ユークはニヤリと笑い、勝利を確信する。


 しかし、ラルヴァもまた必死だった。拘束されたまま、あの膨大な魔力が直撃すれば、自分とてただでは済まないと気づいたからだ。


 そして――決断する。


「なっ……!?」

「ええぇ!?」  

 ユークが息を呑み、セリスが目を見開いた。


 異形のラルヴァは、残された触手を自ら引きちぎり、拘束を断ち切ったのだ。


 ブチブチという音と共に、ねじ切られた触手が次々に地へ落ちていく。


 拘束を強引に脱し、自由を得たラルヴァは一直線にアウリンへ突進した。


 その下半身に開いた円形の大口には、内側にぎっしりと鋭い歯が並んでいる。


 まるで生き物をすり潰すためだけに生まれた岩砕機のような構造――それが、いままさに灼熱の魔法を編み上げようとしているアウリンに迫っていた。


「アウリンちゃんっ!!」

 その叫びと共に、盾を掲げていたヴィヴィアンが動く。


 自ら突進してくるラルヴァに向かって走り、そして――剣と盾を捨てた。


 両手で、迫るラルヴァの巨大な口の牙を掴む。


「ぐっ……!!」

 ヴィヴィアンは全身の力を込めて、怪物の突進を止めようと踏ん張った。


 だが――


「う、そ……!?」  

 セリスが目を見開き、驚きの声をあげる。


 ヴィヴィアンが、押されているのだ。


 岩砕機のような巨大な口が、アウリンを飲み込もうと迫る。地面を――霊樹の根を削りながら、ヴィヴィアンごと無理やり押し込んでいく。


「ヴィヴィアンさんっ!!」  

 ラピスたちの叫びが木霊する。


 だがヴィヴィアンは――ヘルムの中で微笑んだ。


「アンカー!」

 その言葉と同時に、ヴィヴィアンの鎧の脚部から、轟音と共に“杭”が飛び出した。


 鋼鉄製の杭が地面に突き刺さり、彼女の体をその場に固定する。


 ズガガガガッ――!


 押し寄せる突進の勢いを、霊樹の根が削れる音がかき消す中、ラルヴァは

 少しづつ減速していき――ついには、完全にその動きが停止した。


「!?!?」

 ラルヴァが混乱する。


 今も全力で動いているはずの下半身が、まったく進まない。

 だがヴィヴィアンの秘策はそれだけでは無かった。


「パワーアシスト!!」

 ヴィヴィアンが吼える。


 鎧に仕込まれた魔法陣が発動し、腕部のシリンダーに圧縮空気が注入される。


 鎧の内部からきしむような音が鳴り、次の瞬間、ヴィヴィアンの両腕に加わった“圧”が、信じられないほどの力を生み出した。


「おおおおおおおお!!!」

 地面に打ち込まれた杭と、補助機構による力、そしてヴィヴィアン自身の剛力。


 それら全てが合わさり、ついに――


 ラルヴァの巨体が、宙に持ち上がった。


「!?!?!?!?」

 ラルヴァの視界が、一気に天地を返す。


 そのとき――


 アウリンの詠唱が、止まった。


 少女の頭上には燦然(さんぜん)と輝く魔法陣が完成している。


「今だ! 投げろ、ヴィヴィアン!!」

 ユークが叫ぶ。


「うぉりゃあああああああああああ!!!」

 咆哮と共に、ヴィヴィアンがラルヴァを全力で上にぶん投げる。


 空へ放られた異形のラルヴァ。


 その先には――破滅が待っていた。


「《プロミネンス・ジャベリン》!!」

 天を裂く炎の魔槍が、アウリンの魔法陣から解き放たれる。


 その熱量は、術者であるアウリン自身すら焼きつけるほどの圧を帯びており、魔槍が軌跡(きせき)を描くたびに空気をねじ曲げながら、ラルヴァの身体を正確に貫く。


 着弾と同時に、轟音(ごうおん)とともに爆発が起きた。


「ヴォオオオオオオオ!!」

 断末魔のような咆哮を上げるラルヴァ。


 その巨体は、灼熱の渦の中心で火柱となって燃え上がり、空中でなおも炎に焼かれながら、やがてその声すら()き消されていった。


 赤黒い肉塊は跡形もなく燃え尽き、黒煙と化して宙を漂い――


 そして、静寂が訪れる。


 戦場の中央では、アウリンの前にヴィヴィアンが立ち尽くし、残る者たちはただ、その光景を見つめていた。


 こうして、突然始まった強敵との戦いは――完全に終結を迎えたのだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.28)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:最近ストーンウォールの魔法を使いまくっていたせいか、詠唱速度がとんでもなく速くなった。

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セリス(LV.28)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:ラルヴァの死体が光になって消えるまで、返り血でぐしょぐしょになっていたのが気持ち悪かった。

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アウリン(LV.29)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:ヴィヴィアンを信じて、一歩も動かずに詠唱に集中していた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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ヴィヴィアン(LV.28)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:とっさに投げ捨てた剣と盾が無事だったことに、心からほっとしている。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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ラピス(LV.30)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪テラーバースト≫

備考:アウリンの魔法のあまりの威力に、思わず引いてしまっている。

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シシャス(LV.30)

性別:女

ジョブ:弓術士

スキル:弓の才(弓の基本技術を習得し、弓の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ホークアイ≫

備考:自分だけはここからでも援護できたはずなのに、恐怖で動けなかったことに自己嫌悪している。

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ニキス(LV.30)

性別:女

ジョブ:強化術士

スキル:ブーストアップ(パーティーメンバー全員の物理攻撃の威力を20%アップ)

EXスキル:≪クロスエッジ≫

備考:強化術士でありながら戦闘系のEXスキルを習得できたことで、自分の技量には絶対の自信があった。


 だが、セリスの戦いぶりを目の当たりにし、その自信が揺らぎ始めている。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

シェナ(LV.30)

性別:女

ジョブ:斧士

スキル:斧の才(斧の基本技術を習得し、斧の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ブレイクスラッシュ≫

備考:ヴィヴィアンの鎧に仕込まれたギミックに、目を輝かせている。

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