第116話 連携の力
異形のラルヴァはユークたちを敵と断じ、下半身に並ぶように生えた腕で地面を掴みながら、信じられない速さで間合いをつめてきた。
「来るぞ!」
ユークが短く叫び、全身に力をこめる。
「最初は私が受け止めるわ!」
ヴィヴィアンが盾を掲げ、一歩前へ踏み出した。
「危険だから、ラピスさんたちは下がって!」
アウリンが振り向き、後方のラピスに向けて声を張る。
「え、でも……!」
ラピスたちは不安そうに目を合わせ、その場で立ち尽くしていた。
「そこにいられると邪魔になるのよ! だから、早く!」
なかなか下がろうとしない彼女たちに、アウリンは焦りを隠せず、強い調子で言い放つ。
「っ……わかりました……」
はっきりと言われてしまい、少し落ち込みながらも、ラピスは仲間とともに後退する。
「さあ、来なさいっ!」
ヴィヴィアンが盾を構え直し、低く息を吐いた。
「ヴォロロロロロ!」
異形のラルヴァが触手で編んだ腕を振り上げ、真正面から殴りかかる。
「なるほど、パワーが段違いね……」
重い衝撃が盾に伝わり、ヴィヴィアンの足がわずかに後退する。
「でもっ!」
ヴィヴィアンは盾を押し返し、ラルヴァの巨大な拳を正面からはじき飛ばす。
「そのくらいでどうにかなると思ったら、大間違いだわ!」
ヘルムの奥で笑みを浮かべ、ヴィヴィアンは再び踏み込み、怪物を射抜くように睨みつけた。
その直後、ユークの詠唱が終わる。
「《フレイムボルト》!」
放たれた炎の矢が至近距離で炸裂し、ラルヴァを爆風が包む。
「はあああああああ!!」
セリスは気合をこめ、魔槍を大きく振り抜いた。
「っ! 硬っ!」
だが穂先は触手の“腕”に止められ、岩の壁を突いたかのような反動が突き返ってくる。
「くっ……!」
さらに触手の腕が横に払われ、セリスの体はラルヴァから遠くへ飛ばされた。
空中で体をひねった彼女は足を前に出し、力を逃がしながら着地する。
「ダメっ……! ユークの魔法も、セリスの突きも通ってないわ!」
少し離れた位置で戦況を見ていたアウリンが声を張り上げた。
爆発の痕は黒く焦げただけで、ラルヴァはほぼ無傷だった。
「なら、もっと強力なのをお見舞いするしかない! アウリン!」
ユークの指示にアウリンはこくりとうなずき、すぐに詠唱を始める。
「その間、攻撃を俺たちに向けさせるんだ!」
「うんっ!」
ユークとセリスは休みなく斬撃と魔法を放ち、怪物の視線をアウリンから外すように立ち回った。
ラルヴァは触手の“腕”を振り上げ、三人を狙って殴りかかってくる。
「遅い!」
セリスは体をひねり、紙一重でその打撃をすり抜けた。
「それくらいなら俺にだって!」
ユークは地を蹴り、真横へすべるように身をかわす。
「アウリンちゃんには一発も通さないわ!」
ヴィヴィアンは盾を掲げ、すべての攻撃を受け止める。
「……信じられない。あの怪物と渡り合ってる……」
後方で援護の機会をうかがっていたラピスが、息をのみながらユークたちの実力に驚いていた。
「あんな攻撃を受けても、びくともしないなんて……」
シェナも驚愕の声を漏らす。
「セリスさん、どうしてあんなギリギリでよけられるんだ……」
ニキスは目を奪われたままつぶやく。
「……でも、攻撃が全然通ってない。こんなままじゃ……」
シシャスは唇をかみ、不安をにじませた。
「《アイスボルト》!」
ユークの放った氷の矢が命中しても、ラルヴァは表面を薄く白くしただけで動きを緩めない。
「くそっ、威力が足りないか!」
彼は属性を切り替えながら撃ち込み、弱点を探る。
(下半身や上半身には多少通る。けれど触手の腕はバカみたいに固い……)
「アウリンの魔法が通じるかどうかか……」
ユークは横目でアウリンに視線を投げた。
「ヴォオオオオオオオ!!」
そのとき、不気味な叫びが響く。
「何か来る! 気をつけて!」
セリスの警告で仲間たちは間合いを取った。
触手の“腕”が裂け、細い鞭のような触手が無数に広がる。
「嘘でしょ……?」
ラピスが青ざめる。
「これじゃ、避けきれない!」
ニキスとシェナが悲鳴のような声を上げる。
無数の触手が迫る中、それでもユークは口元に小さな笑みを浮かべた。
「チャンスだ! セリス、突っ込め! ヴィヴィアン、アウリンを頼む!」
「うんっ!」
セリスが力強く応じると、ためらいなく触手の海へと踏み込んだ。槍に魔力をまとわせ、一直線にラルヴァの本体を目指す。
「ヴォロロロロ!」
ラルヴァが、愚かな獲物でも見るような目でセリスを見下ろす。しかしその視線は、次の瞬間に驚きへと変わった。
「《スラッシュエッジ》! やぁああああああ!!」
魔槍の斬撃が、激しい勢いで触手を次々と触手を断ち切っていく。
「ヴォロ!?」
ラルヴァが、想定外の痛みにのけぞり、どこからか悲鳴のような声を発する。
(右、右、左、後ろ……)
一方ユークは体を小さく使い、最小限の動きで触手をすり抜け、攻撃をかわしていく。
(……セリスの訓練に付き合わされてたおかげで、だいぶ動けるようになったな)
心の中で苦笑しながらも、彼はその訓練に感謝していた。
「はあああああああ!」
そのころ、ヴィヴィアンはアウリンの前に立ちふさがり、容赦なく襲いくる触手をすべて盾で受け止めている。
「……これが、ユークさん達のパーティー……」
ラピスたちは、目の前の戦いに圧倒されながら、もし自分たちが戦闘に加わっていたらどうなっていたかを想像し、身震いすることしか出来なかった。
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ユーク(LV.28)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:よし、この調子なら――いける!
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セリス(LV.28)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:うん! ばらけた触手なら全然硬くない!
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アウリン(LV.29)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:(今はヴィヴィアンを信じて早く魔法を完成させないと!)
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ヴィヴィアン(LV.28)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:アウリンちゃんが安心して詠唱できるように、私が守りきってみせるわ~!
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ラピス(LV.30)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪テラーバースト≫
備考:……これなら、勝てるかもしれない……
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シシャス(LV.30)
性別:女
ジョブ:弓術士
スキル:弓の才(弓の基本技術を習得し、弓の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ホークアイ≫
備考:……まだ……これで終わりとは思えない……
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ニキス(LV.30)
性別:女
ジョブ:強化術士
スキル:ブーストアップ(パーティーメンバー全員の物理攻撃の威力を20%アップ)
EXスキル:≪クロスエッジ≫
備考:すごい、あの怪物を圧倒してる……
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シェナ(LV.30)
性別:女
ジョブ:斧士
スキル:斧の才(斧の基本技術を習得し、斧の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ブレイクスラッシュ≫
備考:あんな動き、人間ができるものなの!?
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