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第115話 異形のラルヴァ


「ユーク君、どうするの〜?」

 ヴィヴィアンが振り返りながら問いかける。


「ええと……キラーマンティスには当てないようにして! ラルヴァだけを狙って!」

 ユークは一瞬迷ったものの、すぐに指示を出した。


「了解!」

「任せて!」


 仲間たちが次々に動き出す。まだキラーマンティスにしか意識を向けていないラルヴァに向かって、それぞれが攻撃を仕掛けた。


「《フレイムアロー》!」

「《フレイムボルト》!」

「『フォースジャベリン』!」


 油断していたのか、ラルヴァたちは反応する間もなく、次々に焼かれ、砕かれ、吹き飛ばされる。


「……さて、問題はこっちね」

 アウリンが、目の前のキラーマンティスへと視線を向けた。


 その体はラルヴァの攻撃をまともに受けたようで、複数の箇所から体液を流し、深く傷ついている。


 ユークたちは距離を取りつつ、警戒を緩めずに様子を見守った。


「――っ!」

 (わず)かな動きを(さっ)し、セリスが身を乗り出す。


 だが、キラーマンティスは突然、羽を広げた。

 そして風を巻き起こしながら、上空へと飛び上がる。


「飛んだ!?」

 アウリンが叫び、皆が一斉に空を(あお)いだ。


 そして――そこに“それ”はいた。


 霊樹の幹に、巨大な異形が張りついていたのだ。


「……なに、あれ……?」

 ラピスが、震えるような声を漏らす。


 それは、これまでのラルヴァとは明らかに異なる存在だった。


 赤黒く脈打つ胴体は、以前の個体よりも二回りは大きく、下半身には脚の代わりに無数の人の腕がいくつも並んで生えていた。


 その腕は曲がった関節を持ち、まるでムカデの脚のように地を()い、霊樹の(みき)にぴったりと張り付いている。


 そして、その胴体の背から生えていたのは、人間のような筋肉質な上半身だった。だが、頭部は存在せず、代わりに胸や腹部に無数の眼球が貼りついている。どの瞳も異なる方向を見ながら、ゆっくりと(うごめ)き、不気味な光を放っていた。


 さらに、両腕の部分は触手が束になって伸びており、その先端は幾重にも絡み合って、まるで巨大な“手”のような形を成している。それは、意志を持つかのように蠢き、木の幹をしっかりと掴んでいた。


 首の断面――本来なら頭がついているはずの場所――からも触手が伸び、先端についた眼球が、せわしなく周囲を見回している。


「……こっち、見てる……」

 セリスが思わず息を呑み、小さくつぶやいた。


 その瞬間、静寂を切り裂くように、甲高い羽音が鳴り響く。


 キラーマンティスが空を滑るように飛来し、異形のラルヴァへと鋭い斬撃を放った。


「ヴォロロロロロロロ!!」

 刃は確かに肉を裂いた。だが――


「効いてない……!」

 ユークが息を()む。


 異形のラルヴァは咆哮を上げながらもびくともしない。触手の“手”が幹を強く掴み、斬撃による落下を必死にこらえている。


 その姿には、明確な意志すら感じられるようだった。


 しかし、キラーマンティスは攻撃の手を止めない。今度は狙いを変え、ラルヴァが張りつく霊樹の幹そのものを切り裂く。


 鋭く輝く鎌が、樹皮に食い込んだ。


 樹皮が裂け、異形のラルヴァの巨体が空中に投げ出される。


 上半身の触手の“手”が幹を掴み直そうと伸びるが――間に合わない。


「ヴォオオオオオオオ!!!」

 悲鳴ともつかぬ咆哮を上げながら、異形のラルヴァは空中で身をよじらせ、そのまま地へと墜ちていく。


「来るぞ、伏せろ!!」


 ユークの叫びに、仲間たちはすぐさま身を低くした。


 大地が(きし)み、霊樹の根が激しく揺れる。異形のラルヴァが霊樹の根に叩きつけられたのだ。


「――っ!」


 土煙の向こう、見えたのは――こちらを真正面から見据える“口”。


 ラルヴァの下半身の先端には、巨大な円形の口がぽっかりと開いていた。内側には鋭い歯がいくつも並び、円を描くように回転しながら、生きたものをすり潰すためだけに存在する“捕食器官”として、異様な存在感を放っている。


 そんな異形のラルヴァへ、キラーマンティスが上空から再び襲いかかった。


 鋭い鎌で斬りかかろうとしたそのとき――


「う、うそ……」

 シェナが、戦斧を抱えたまま動きを止める。


 ラルヴァの巨大な“手”が、襲いかかってきたキラーマンティスの片方の鎌をがっちりと掴んでいたのだ。


 そのまま、ぬいぐるみのようにキラーマンティスの体を振り回す。


 次の瞬間、霊樹の壁に叩きつけられ、キラーマンティスの体はめり込むようにして沈黙した。


 しかし、ラルヴァの手には、もがれた鎌だけが残っていた。ぶんぶんと振り回された拍子に、手から本体がすっぽ抜けたらしい。


 興味を失ったかのように、それをぽいと投げ捨てると――


 首から伸びた触手の先にある眼球が、ゆっくりとユークたちの方を向いた。


「……っ!」

 ぞくり、と背筋を()うような悪寒が走る。


 (うごめ)く眼球。地を()う腕。体から伸びた触手の“手”。


 そのすべてが、まるでユークたちを捕らえようと動き出しているかのようだった。


 今まさに――

 異形のラルヴァが、彼らへと牙を()こうとしていた。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.28)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:これまでの敵とはまるで違う。慎重に動かないと――。

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セリス(LV.28)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:カマキリ、動かなくなっちゃった……もしかして、死んじゃった?

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アウリン(LV.29)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:守りながら戦う余裕なんてないわ。ラピスたちは後ろに下げないと。

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ヴィヴィアン(LV.28)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:なんて大きな口……ほんとどうしようかしら……

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ラピス(LV.30)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪テラーバースト≫

備考:この姿……どこかで見た気がする……。

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シシャス(LV.30)

性別:女

ジョブ:弓術士

スキル:弓の才(弓の基本技術を習得し、弓の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ホークアイ≫

備考:無理……勝てない……

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ニキス(LV.30)

性別:女

ジョブ:強化術士

スキル:ブーストアップ(パーティーメンバー全員の物理攻撃の威力を20%アップ)

EXスキル:≪クロスエッジ≫

備考:逃げなきゃ……今すぐにでも。

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

シェナ(LV.30)

性別:女

ジョブ:斧士

スキル:斧の才(斧の基本技術を習得し、斧の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ブレイクスラッシュ≫

備考:体が震える……怖い。

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