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第114話 沸き待ち


 いくつもの戦闘をくぐり抜けながら、ユークたちは巨大な霊樹の根の上を進み続けていた。


 視界の端に、もはや見慣れてしまった違和感の塊――あの異形のモンスターたちが姿を現す。


「……またか」

 ユークが半眼になり、呆れたようにぼやいた。


「ちゃっちゃと倒しちゃいましょう?」

 アウリンが軽い調子で応じる。


「もうこれで何回目かしら〜?」

 ヴィヴィアンが全身鎧の手で指を立てながら数え始めた。


「うーん、四回目か五回目じゃない?」

 代わりにセリスが答える。


 現れるラルヴァの群れは、今となってはユークたちにとって大した脅威ではなかった。ただ、四体から五体がまとまって出てくるため、それなりの手間はかかってしまう。


 そんな中――


「そうだ。今回は一体、倒さずに残しておいてくれ」

 ユークが思いついたように口を開いた。


「え? どうしたのよ?」

 隣で構えていたアウリンが不思議そうに首を傾げる。


「今まで全部、俺たちが倒しちゃってただろ? そろそろラピスさんたちの実力も、ちゃんと見ておきたいんだ」

 ユークはアウリンに向き直りながらそう言った。


「なるほど、そういうことね。確かに、一度ちゃんと確かめておいたほうがいいかもしれないわね」

 アウリンは納得したように小さく頷く。


「了解したわ〜。じゃあ、残った一体は私がうまく動きを封じておくわね」

 ヴィヴィアンが軽く手を挙げて応じる。


「じゃあ、さっさと終わらせよう」

 セリスが前を見据(みす)えながら静かに言う。それに全員が頷くのだった。


 ――数分後。


 ラルヴァの群れのうち三体を手際よく撃破したユークたちは、最後の一体をヴィヴィアンが(たく)みに釣り出し、戦場をラピスたちに譲った。


 ユークは戦う前にラピスから記録用の魔道具を預かっている。


 彼女たちのパーティには全力で戦ってもらい、本気の実力を確かめる為だった。


 ラピスはすぐに了承し、仲間たちに視線を送ると、明るく声を上げる。


「行くわよ、みんな!」


 気合のこもったその声に応じて、彼女の仲間たちもそれぞれ武器を構える。ラピス自身も槍を手に取り、一歩前へ出た。


 相対(あいたい)するのは、残されたラルヴァ一体。ほかの個体はすでにユークたちが倒しており、戦いの場は整っている。


「……任せて」

 後方では、ピンク色の髪を短く整えたシシャスが静かに弓を構えていた。


「フッ! アタシたちの実力、見せてやるさ!」

 双剣を手に、黒髪を軽く揺らしたニキスが挑発的に笑う。


「が、がんばります!」

 白髪のシェナが少し緊張した面持ちで、それでもしっかりと戦斧を掲げた。小柄な体に不釣り合いなほどの武器が、彼女の存在を強く印象づけている。


 最初に動いたのは、シシャスだった。

「≪ホークアイ≫!」


 EXスキルを発動し、素早く矢を放つ。

 次々に放たれた矢が、ラルヴァの体に点在する眼球を正確に射抜いていった。


 その瞬間、ラルヴァは苦痛に身をよじり、全身を激しくくねらせてのたうち回る。


「キュロロロロ……!」

 耳障りな悲鳴を上げながら、両腕の代わりに生えたトゲ付きの触手ハンマーを無造作に振り回してくる。


「おっと、そんな雑な攻撃、当たるわけないさ」

 ニキスが軽やかに身をひねってかわす。余裕ある口調だが、セリスのように反撃には転じられてはいない。


「えいっ、このっ!」

 反対側ではシェナが戦斧を構え、力任せにラルヴァの攻撃を受け止めていた。避ける素早さはないが、その分、腕力で押し返しているのだ。


「はあああああっ!」

 隙を見逃さず、ラピスが槍を振るい、ラルヴァの片腕を鋭く斬り落とす。


 血のような液体を()き散らし、ラルヴァが再び苦悶の声を上げた。


 次の瞬間――


「今だ!」

「行きます!」


 ニキスとシェナが左右から飛び出し、ラルヴァに迫る。


「≪クロスエッジ≫!」

「≪ブレイクスラッシュ≫!」


 二人のEXスキルが同時に炸裂し、ラルヴァの身体を大きく切り裂いた。


 体の大部分を失ったラルヴァは、よろめくように崩れ落ち、やがて光の粒子となって消えていく。


「どうでしたか!?」

 戦いを終えたラピスが、息を弾ませながらユークの元へ駆け寄った。


「見事だったと思います。やっぱり、強いですね!」

 ユークが素直に称賛すると、ラピスの(ほほ)がぱっと赤く染まった。


「……でも、あなたたちに比べたら、全然」

 後方でシシャスが小さく呟く。


「そんなことないわ。初手で目を潰して、左右に引きつけてからの強襲。ベテランらしい戦術で、安定感があって良いと思うわよ?」

 アウリンがフォローを入れる。


「えへへ、どうですか? セリスさん!」

 シェナが嬉しそうに小走りで駆け寄り、目を輝かせてセリスに尋ねた。


「うん、参考になった」

 セリスは微笑みながらシェナの頭を優しく()でる。その様子はまるで姉妹のようだったが、年齢的には小柄なシェナの方が年上である。


「アタシたちの実力、どうだった?」

 ニキスがヴィヴィアンに問いかける。高身長のニキスでさえ、ヴィヴィアンの前では見上げる形になる。


「うん。十分、頼もしいわ〜」

 ヴィヴィアンが穏やかな笑みで答えた。


「だいぶ霊樹が近づいてきたね」

 ラピスに記録用の魔道具を返しながら、ユークが前方を見やる。


「はい。でももうすぐです! もうすぐ、霊樹の樹皮に取り付けられた“昇降機”に着きます!」

 ラピスが明るく報告する。


「……昇降機!?」

 アウリンが目を丸くした。


「昇降機ってなに?」

 セリスが首をかしげる。


「自分で登らなくても上に行ける魔道具よ。魔力で動く箱みたいなものね」

 アウリンが手短に説明する。


「えっ、そんな便利なものがあるの!? なら最初からそれ使えばよかったのに!」

 ユークが思わず声を上げた。


「その気持ちは分かりますけど……昇降機のある場所までは、結局霊樹の根を登らないと辿り着けないんです」

 ラピスが苦笑しながら答える。


 そんな会話をしているうちに、前方に金属製の構造物が見えてきた。


「あっ、あれです!」

 ラピスが指を差す。


 だがその直後――


「また敵がいる!」

 セリスの鋭い声が空気を張り詰めさせた。


「またかよ! なんでこんなに多いんだ……」

 ユークが苛立ちをにじませながら呟く。


「ちょっと待って。あれ……」

 アウリンが険しい表情で目を細めた。


 ユークたちが視線を向けると、昇降機の手前に数体のラルヴァが(うごめ)いていた。だが、その視線は彼らに向いておらず、何か一点をじっと凝視している。


「……何を見てるの?」

 セリスが小さく呟いた。


 そのときだった。


 ラルヴァたちの中心に、突如として魔法陣が浮かび上がる。淡い光が凝縮し、一つの姿を形作っていく。


 現れたのは――鋭い鎌を構えた、細身の昆虫型モンスター。


 キラーマンティスだった。


「キラーマンティス? あんな場所に!?」

 ヴィヴィアンが目を細めて、驚きの声を()らす。


「なるほど……今までのあれって、“()き待ち”だったのね」

 これまで戦ってきたラルヴァたちが、複数体で固まっていた理由を察し、アウリンが静かに呟いた。


 そして――


「あいつら……!」

 セリスが声を上げる。


 ラルヴァたちは一斉に、現れたばかりのキラーマンティスへ猛然(もうぜん)と襲いかかった。


「ユーク君、どうするの〜?」

 ヴィヴィアンが振り返りながら問いかける。


 ラルヴァも、キラーマンティスも、どちらも敵だ。このまま様子を見るべきか、それとも――


 ユークは慎重に、判断を下すべく思考を巡らせていた。



◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.28)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:同じ槍使いの戦い方を見て、やはりセリスは異常だと再確認した。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.28)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:斧のEXスキルを何とかパクれないかなと考えている。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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アウリン(LV.29)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:自分たちとは違う魔法使いがいないPTの戦い方は実際勉強になると思っている。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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ヴィヴィアン(LV.28)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:斧で器用に攻撃を防ぐシェナを見て感心していたが、真っ先にセリスのもとへ行ってしまい、少し寂しく思っている。

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ラピス(LV.30)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪テラーバースト≫

備考:呼吸が激しくなる戦闘中に≪テラーバースト≫を使うのは酸欠になりやすいので、あまり使いたくない。

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シシャス(LV.30)

性別:女

ジョブ:弓術士

スキル:弓の才(弓の基本技術を習得し、弓の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ホークアイ≫

備考:弓術士に目覚めるのは珍しく、ほとんどの人は近接系ジョブを得る中で、彼女は誰よりも弓の才能に優れている。

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ニキス(LV.30)

性別:女

ジョブ:強化術士

スキル:ブーストアップ(パーティーメンバー全員の物理攻撃の威力を20%アップ)

EXスキル:≪クロスエッジ≫

備考:珍しい、自身も戦うタイプの強化術士。初めは短剣を使っていたが、双剣のほうが性に合っていたのか、いつの間にか両手で剣を握っていた。長く双剣で戦ううちに、強化術士ではなく双剣士系のEXスキルに目覚めた。

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シェナ(LV.30)

性別:女

ジョブ:斧士

スキル:斧の才(斧の基本技術を習得し、斧の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ブレイクスラッシュ≫

備考:自身の身の丈ほどもある戦斧を使う女性。初めは小さな手斧だったが、装備の更新のたびに斧が大きくなり、いつの間にかこの大きさになっていた。

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