表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

111/161

第109話 大規模作戦開始


 三日後の早朝、≪賢者の塔≫第二十一階。


 濃い霧に包まれた広大な森の手前には、多くの人々が集まっていた。木々がざわめき、緊張感の(ただよ)う空気が場を包んでいる。


「すごいな……《賢者の塔》の探索に、こんなにも人が集まるなんて……」

 ユークは周囲を見渡しながら、驚きを口にした。


 彼の周りでは、探索者たちが思い思いに談笑し、あるいは武器を点検しながら準備を整えていた。


「本当にすごいわよね! ルチルさんが連れてきた兵士が三十人。探索者は私たちを除いて十組。ざっと八十人以上の大所帯よ!」

 アウリンが数を数えながら答える。


「でも……実力のある人は、そこまで多くなさそう」  

 セリスが周囲を見回しながら、少し眉をひそめた。


 その言葉が、思わぬ火種となる。


「あ゛あ゛!? 今なんて言った? ()めてんのかコラァ!」

 たまたま近くにいた探索者が、血走った目でセリスをにらみつけ、怒鳴りつけてきた。


 男は腰に下げた武器に手をかけ、空気が一気に張り詰める。ユークたちも思わず身構えるが——。


 そんな中、間に入ったのはヴィヴィアンだった。


「ごめんなさいね。セリスちゃんも、悪気があって言ったわけじゃないのよ。ほら、謝って?」  

 ヴィヴィアンが一歩前に出て、探索者を上から見下ろすように言った。


「ひ、ひぇっ……」

 男は長身で全身鎧を着たヴィヴィアンの放つ威圧感に圧倒され、声を詰まらせてしまう。


「その……ごめんなさい……」  

 セリスが素直に頭を下げる。


「わ、わかればいいんだよ! わかればな!!」

 すると、男は慌てて武器から手を離し、逃げるようにその場を去っていった。


「ダメよセリスちゃん。今日は人がたくさんいるんだから、誰が聞いてるかわからないのよ?」

 ヴィヴィアンがやんわりと注意すると、


「うん……ちょっと、うっかりしてたかも」  

 セリスは肩を落として反省したように頷いた。


「おっ、あっちにラピスさんたちがいるよ!」

 気まずい空気を変えようと、ユークがわざと明るい声を上げた。


「ほんとね。ああやって見ると、やっぱりすごいパーティーなのがよくわかるわ」

 アウリンが視線の先を見る。


 ラピスのパーティーは、他の探索者たちから少し離れた場所にいた。

 だが、その存在感はひときわ強く、周囲の目がしきりに向けられている。


 EXスキル持ちを複数抱える実力派パーティーということもあり、やはり一目置かれているようだ。


「ラピスさんたちとは、攻撃のときに合流するんだよね?」

 セリスが小声で尋ねる。


「うん。ラピスさんのパーティーは有名だから、俺たちと一緒だと迷惑がかかるかもしれないしね」

 ユークもまた、声を落として答えた。


 確かに、それも表向きの理由の一つだった。  だが本当の理由は別にある。


 今回の作戦では、どれほどの犠牲が出るかわからない。ルチルとの関係を公にしていた場合、万一のときに責任や非難が集中する可能性がある。  


 だからこそ、ユークたちはルチルとは“無関係”を装い、ラピスたちとも距離を置いているのだ。


 そのため今回ユークたちは、他の一般参加パーティーに混じって行動していた。


 だからだろう――周囲の視線は冷たい。


「あいつら、誰だよ?」

「大丈夫か? ガキばっかじゃねえか」

「あんなのが混じってて、足手まといにならねえといいけどな……」

 ユークたちを(あざけ)るような声が、あちこちから聞こえてくる。


 無理もない。ユークたちがLV.28やLV.29もあるなどと、誰も想像すらしていないのだ。


 さらに、ラピスのパーティーに近づこうとしないパーティーが多いのも理由がある。

 それは、かつてラピスのトレント狩りに横殴りをしていた者たちが、今回の依頼に多く参加しているからだ。


 ラピスが狩りを中止したことで、楽に稼ぐ手段を失った彼らは、代わりにこの高額依頼に飛びついていた。


 ちなみに、ラピスと共に狩りをしていた者たちは一人も来ていない。ラピスが個別に事情を説明して、参加を思いとどまらせたからだ。


 そのとき——


「では進軍を開始する!!」

 ルチルの(するど)く通る声が、森全体に響き渡った。


 兵士たちは即座に反応し、整然とした動きで列を組み、森へと向かって歩き出す。


「《フレイムピラー》!!」

 一斉に魔法が放たれ、燃え上がる炎が前方の木々を焼き払い、道を切り開いていった。


「これが……軍隊のやり方……」

 ユークが、ぽつりと(つぶや)く。


 ふだんは少人数で慎重に進む探索とはまるで違う。これはまるで軍事作戦のようだった。


 黒く焦げた枝が崩れ落ち、道が拓かれていく。


「……すごい」

 セリスもまた、呆然としたように見つめていた。


「あれは、ゴルド王国の誇る魔法剣士隊よ」  

 アウリンが目を細めながら説明する。


「剣の腕に加えて魔法まで使えるよう訓練された精鋭だわ。ゴルド王国もすごいのを派遣していたのね」

 そう言って、感心したように頷いた。


「話してる暇はないわよ〜。先行して探索するのは私たちの役目なんだから」

 ヴィヴィアンが軽く手を振って、仲間たちに注意を促す。


「よし、俺たちも行こう!」

 ユークが仲間たちに声をかけ、地に落ちた枝を踏みしめる。


 こうして、《賢者の塔》第二十一階層での大規模作戦が、ついに始まったのだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.28)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:人数が多いから誤射なんかには気を付けないと……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.28)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:人が沢山いてちょっと窮屈(きゅうくつ)かも。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.29)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:ヴィヴィアンが一緒なら、妙なのに絡まれずに済むから助かるわ!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.28)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:うっかり誰かを押し飛ばさないように、歩くときは気をつけないと……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ