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第106話 王国の女騎士


「……一度、戻ろう。帰って、ギルドに報告する……」

 ユークが前を向いたまま、落ち着いた声でそう言った。


「……え?」

 ラピスは思わず声を()らし、ユークの顔を見つめる。


「……あ、そうですよね……」

 すぐに納得しようとするように、ラピスはうつむきながら小さく呟いた。自分に言い聞かせるような、どこか諦めを含んだ声だった。


 だが――


「別に、樹液のことを諦めるつもりはないよ」

 ユークは前を見たまま、静かに言葉を続けた。


「へ、へぁ!?」

 突然の言葉に、ラピスが情けない声を出してしまう。


「ただ、あれを俺たちだけでどうにかするのは難しそうだ。だから、他の人たちにも協力してもらおうと思ってね」

 そう言って、ユークはラピスへと振り向いた。口元には、わずかに笑みを浮かべている。


 その表情に、ラピスは思わず見惚れてしまった。顔が熱くなり、思考が止まる。


「はっ!? でも、ユークさんたちを私たちのために巻き込むなんて……」

 申し訳なさそうに、ラピスが慌てて言葉を返す。


「どっちにしろ、あれを放っておく訳にはいかないからね……」

 再び正面を向き、ユークは静かに言う。その背中には、確かな決意が宿っていた。


「そうね……でも、どうするの? アズリアさん、今は忙しくて話す時間も取れないんでしょ?」

 アウリンがユークと同じ方向を見つめながら、少し困ったように呟く。


「コネっていうのはさ、こういう時に使うものでしょ?」

 ユークはにっこり笑って、アウリンに向き直った。


「はぁ……しょうがないわね。それしか手がないなら、やるしかないか……」

 アウリンは小さくため息をつき、まぶたを閉じて頭をかく。


「よし、じゃあ一旦戻ろう!」

 ユークがはっきりと宣言した。


「ええ!」

「うん!」

「分かったわ〜!」

 セリス、アウリン、ヴィヴィアンが次々に返事をする。


 その様子を、ラピスと彼女の仲間たちはただ呆然(ぼうぜん)と見つめるしかなかった。


 

──数十分後。彼らは街に戻り、ギルドガードの本部を訪れていた。


「……なるほど。それで、私のところに来たと」

 赤い鎧に身を包んだ金髪の女性が、机越しにユークへ視線を向ける。


 ルチル。ゴルド王国から派遣された、ジオード王子の使者でもある女騎士だ。


 その視線には、まだ半信半疑の色が残っていた。


「話は分かりました……では、ギルドガードの所長に取り次げばよろしいですね?」

 そう言って作り物じみた笑顔を浮かべるルチル。


「いえ……ルチルさんには、まずお願いしたいことが合って……」

 ユークは少しだけ言いにくそうに口を開いた。


「……?」

 ルチルは首をかしげ、怪訝(けげん)な顔を向ける。

 


 ──そして、再び数十分後。


 ユークたちはルチルを連れて、再度霊樹の森の最奥部――巨大な幹の根元に足を踏み入れていた。


 本来、《賢者の塔》を探索していない者はこの階層に立ち入ることはできない。


 だが、自力で到達した探索者パーティーに同行するという形であれば可能ではあるのだ。推奨はされていないが。


「……まさか、こんなところまで連れてこられるなんて思っていませんでしたよ」

 ルチルは大きく息を吐き、ユークを(にら)んだ。その視線には、無理やり同行させられた不満がにじんでいる。


 森の奥。木々の間隔は広がり、地面には巨大な根がうねるように張り巡らされていた。風すら吹かぬその場所には、重たい静けさと異様な気配が漂っている。


「ここが……その場所ですか?」


「ええ。よく見てください」

 ユークが指さした先。そこには、木の幹にへばりつくように(うごめ)く、肉の塊のようなものがあった。


 それは、地獄の一部を切り取って貼りつけたかのような、悪夢の光景だった。


 芋虫のような、だがそれとも違う異形のモンスターが、肉塊となって絡まり合い、ぶつぶつと泡のようなものを吐き出しながら無数にへばりついている。。


 ――おぞましい。


 その異様な姿に、ルチルは数秒、凍りついたように見入っていた。


 そして――


「う……ッ」

 次の瞬間、彼女は口を押さえて後ずさり、木陰に駆け寄る。


 込み上げるものを抑えきれず、彼女はその場で嘔吐(おうと)してしまった。

 

 ――女騎士として鍛えられ、戦場をも経験した彼女が、だ。


「……ッ、なんだ……これは……。こんな、こんなものが……!」


 嘔吐のあと、ルチルは青ざめた顔のまま、かすれた声で呟く。そこに、先ほどまでの疑いの色は微塵(みじん)も残っていなかった。


「……分かった。今日中に所長に話を通します。これは……明らかに異常だ……」


 彼女の声は震えている。


 その言葉を聞き、ユークは静かに頷くと、心の中で小さく息を吐いた。


(よかった……これで何とかなりそうだ……)


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.28)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:後は所長さんにあって協力を取りつけないと。

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セリス(LV.28)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:何度もいったり来たりでつかれた。

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アウリン(LV.29)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:これからやることが、まだたくさんあるわね。

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ヴィヴィアン(LV.28)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:ユーク君、うまく説得できればいいのだけれど……。

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ラピス(LV.30)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪テラーバースト≫

備考:あんな騎士様とも知り合いだなんて……すごい……。

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ルチル(LV.??)

性別:女

ジョブ:??

スキル:??

備考:ジオード様を出しにして無理やり連れてこられた挙句、あんな光景まで見せられるなんて……。

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