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第99話 ラピスの過去


「……よかったら、その理由を教えてもらえますか?」


 ユークがやわらかな声でたずねると、ラピスはほんの一瞬だけ目を()せて、それから静かにうなずいた。


「私は……この街の孤児院で育ちました」

 ぽつりと、遠い記憶をなぞるような口調で言う。


「孤児院?」

 セリスが首を少し(かたむ)けながら、不思議そうにつぶやいた。


「親に見放された子どもたちを集めて、育ててくれる場所のことよ」

 アウリンが簡単に説明を加える。


「そっか……」

 セリスは納得したようにうなずき、ラピスに視線を戻した。


「私たちのママ──いえ、院長様は、本当の家族みたいに私たちを大事にしてくれたんです」

 ラピスの声は穏やかで、どこか懐かしさをにじませている。


「でも、院長様は体が弱くて……よく熱を出して、寝込んでしまうことが多くて……」

 うつむいたまま、ラピスはゆっくりと言葉をつなぐ。


「十歳になったとき、私たちはそれぞれジョブを得て、孤児院の女の子四人でパーティーを組みました。そして探索者になったんです」


「十歳で!?」

 セリスが驚いて声を上げる。


「この街では、そうするしかない子も多いのよ。働ける場所が少ないから」

 アウリンが補足するように言った。


「ええ。でも幸いなことに、私たちには才能があったみたいで……。そこから十年かけて、ダンジョンの二十階まで進むことができました」


「十年も……?」

 ユークの目が大きく見開かれる。


「でも、その頃でした。院長様が倒れてしまったのは。お医者様に診てもらったら、不治の病だと言われて……」


「そんな……」

 セリスが小さく声を()らす。


「どうしていいかわからなかった。でも、そのとき受付の人から聞いたんです。二十階にある霊樹。その樹液を使えば、どんな病気でも治る薬が作れるって」


 ユークは無意識に自分の荷物へと目をやった。そこには、ボルダーから貰った霊樹の樹液が入っている。


「本当かどうかは分からない。それでも……すがるしかなかった。だから、がむしゃらにレベルを上げて、何とか霊樹の中腹(ちゅうふく)までたどりつきました」

 ラピスは両手を前で握りしめながら、話を続けた。


「そして──霊薬を作って、院長様に飲んでもらったんです。すると、少しずつ元気を取り戻して……。本当に、効果があったんです!」

 ラピスの表情が少しやわらぎ、思い出すように微笑(ほほえ)んだ。


「久しぶりに見たんです、あの笑顔を。私の頭を()でてくれる、あのぬくもりも……。戻ってきたんです、また……」

 けれど、その顔はすぐに(くも)る。


「でも……その幸せは、長くは続きませんでした」

 ラピスの声がかすかに震えていた。


「一週間ほど前のことです。ダンジョンで、これまで見たことのないモンスターに襲われました。私たちは、逃げることしかできなかった……」


「まさか……一週間前って……!」

 ユークは目を見開き、そっとアウリンの方を見る。


 アウリンはゆっくりとうなずいた。


 一週間前と言えば、誘拐犯のアジトを襲撃した日だ。もしかしたら取り逃がした博士やカルミアと、何か関係があるのかもしれない。


 ユークの胸に、そんな思いがよぎる。


「でも、院長様のためには霊薬が必要です。だから、私たちはもう一度霊樹を目指しました。でも深部へ行くのは、あまりにも危険で……。そのとき、思い出したんです。トレントからも霊樹の樹液が取れることを!」


 一息ついてから、ラピスは話を続けた。


「でも、トレントの樹液では効果が弱くて……。だから量をそろえようと、何とかたくさん集めようとしました。私達は必死でした。そのとき、私のスキル『テラーバースト』が、トレントを倒すのに向いていると分かったんです」


「それで、他の人たちとチームを組んだんですか?」

 ユークが問いかけると、ラピスはうなずいた。


「はい。私たちだけじゃ数が足りないなら、他の人達に協力してもらえば良い、そう思って。でも……」

 ラピスは唇をかすかにふるわせた。


「最近は、私たちに樹液を取られるのが嫌でグループから抜けたり、グループから抜けた人や元々グループに入っていない人たちにトレントを奪われたりすることが増えて……。うまくいかなくなってきたんです」


「……俺たちは、そいつらと間違われたのか」

 ユークが小さくつぶやいた。


「だからせめて……院長様の体調を保てる分だけは、何とか霊薬を作っておきたいんです。どうか……お願いです……」


 ラピスはそう言って、両手で顔をおおい、そのまま泣き出してしまった。


 ユークたちは、何も言えずにただその場に立ちつくす。


「……さすがに、これ以上彼女から樹液をもらうのは……」

 ユークがアウリンへ視線を向けた。


「分かってるわよ! ここまで聞いて、それでも残りよこせなんて言えるわけないじゃない!」

 アウリンがきっぱりと言い返す。


「そっか……。ありがとう」

 ユークは静かに息をはいた。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.28)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:もし博士が原因だとしたら、ほっとけば良くないことが起きるかもしれないと考えている。

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セリス(LV.28)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:だいぶラピスに同情的になっている。

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アウリン(LV.29)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:よく霊薬を作れる人がいたなと驚いている。

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ヴィヴィアン(LV.28)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:ラピスの話を聞いている間も、周囲への警戒を緩めなかった。

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ボルダー(LV.??)

性別:男

ジョブ:??

スキル:??

備考:初めて聞く話ばかりで驚いている。

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ラピス(LV.30)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪テラーバースト≫

備考:実際には量だけではあまり効果がなく、院長の体調は少しずつ悪化している。

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