第10話 あなたには強化の才能があるわ
ユークたちは、昨日と同じく《賢者の塔》の第六階層を探索していた。
一度経験しているためか、三人とも敵の攻撃パターンや地形の特徴もある程度把握しており、順調に進んでいる。
セリスが槍を軽やかに操りながらオークに切り込み、ユークが投石と魔法で隙を作る。そして、詠唱を終えたアウリンが的確に魔法を撃ち込み確実に仕留めていく。
「《フレイムピラー》!」
アウリンの放った炎柱がオークを包み込み、業火が一瞬でその巨体を焼き尽くした。
「よし、次!」
セリスが弾むような声を上げ、槍を軽く振る。敵を倒すたびに動きが洗練され、戦闘のテンポも格段に良くなっていた。ユークとアウリンもそれに応じ、着実に探索を進めていく。
そんな矢先——。
ぐぅ〜〜……。
静寂を破るかのように、お腹の鳴る音が響いた。
「……っ!」
セリスが一瞬、ピクリと体を震わせる。頬を朱に染め、そっぽを向きながらお腹を押さえた。
ユークとアウリンが顔を見合わせる。
「そろそろ時間だし、お昼にしようか?」
ユークが笑いを堪えながら提案する。ちょうど区切りも良かったため、三人は探索を一旦切り上げ、入口付近へ向かった。
《賢者の塔》には、各階層の入り口付近にポータルが設置されている。その周囲はモンスターの出現しない安全地帯となっており、探索者たちが休息を取るのに適した場所だった。
三人はポータルの近くに腰を下ろし、それぞれ持参した昼食を広げた。
和やかな空気の中、昼食を進めていると——
アウリンがふと思い出したように、セリスを見て口を開いた。
「そういえば、セリスって槍が上手いわね。他の人と何度かパーティーを組んだことがあるけど、一番槍を使うのが上手いんじゃないかしら?」
セリスは一瞬驚いた後、照れくさそうに笑った。
「ありがとう。でも、もともとは剣を使ってたんだよ。槍術士のジョブをもらってから槍に変えたの」
ユークが思い出したように口を挟む。
「そういえばセリスって、昔は剣を使ってたよな」
「うん、子供の頃はずっと剣を学んでた。でも、槍術士になったから槍を使うようになったんだ」
セリスが頷くと、アウリンが感心したように言った。
「へぇ、小さい頃から剣を学んでいたなら、普通は剣士になるはずだけど……。よっぽど槍の才能が高かったのね」
アウリンの言葉に、セリスが目を丸くした。
「え!? でも、ジョブって選べないんじゃないの?」
ユークも驚いたようにアウリンを見た。
「ある程度なら選べるわよ?」
アウリンは何でもないことのようにさらりと言う。
「ジョブやスキルは、10歳になってジョブを授かるまでの行動や才能によって変化するの」
「例えば、私のジョブは炎術士で、スキルは『炎威力上昇』。これは小さい頃から魔法を学んできたから得られたスキルよ。でも、もし魔法を学んでいない人が炎術士のジョブを得たとしても、私と同じスキルにはならない。代わりに初級魔法の『フレイムアロー』がスキルになるわ」
「へぇ~……」
セリスは興味深そうに頷く。
「あなたたちのところも、10歳になった子供たちを集めて、聖職者にジョブを見てもらったでしょ?」
「うん。そこで私が槍術士だってわかって、お父さんがガッカリしてたっけ」
セリスは懐かしそうに微笑みながら言った。
(俺も、10歳のときに強化術士だって教えられたんだよな……。そのせいでカルミアに《賢者の塔》なんかに連れてこられて)
ユークは苦い記憶を思い出しながら、そっとため息をついた。
「極たまにだけど、平民や農民の中にも魔法の才能を持っている人がいることがあるの。だから、多くの国では、教会に頼んで聖職者を派遣してもらうわ。魔法使い系のジョブを持つ人を見つけてスカウトするためにね」
「そんなこと、めったにないんだけどね。でも、そのおかげであなた達も早くから自分のジョブを知ることができたってわけ」
「ふ~ん……」
セリスは感心したように頷いた。
「じゃあ、ユークは強化術士の才能があるってこと?」
「そんなわけないじゃないか」
そう言いかけたユークだったが、アウリンが先に言葉を発した。
「そうよ」
あまりにも当然のように肯定され、ユークは思わず目を見開いた。
「えっ!? ちょっと待ってくれ! 俺の強化は10%しかないんだぞ!? これは才能がないってことじゃないのか? 他の強化術士は15~20%って聞いたぞ!?」
若干焦りながら疑問を投げかけるユーク。しかし、アウリンは冷静だった。
「まず、一般的な強化術士っていうのは物理攻撃のみを強化するものよ。でも、あなたみたいに『全ての能力を強化する』強化術士なんて聞いたことがないわ」
「え!? そうなの!?」
セリスとユークは揃って驚いた表情を見せる。
「間違いなく、あなたには強化の才能があるわ。だって、あなたは魔法を使えるでしょ?」
「……訓練用の弱い魔法だけどな」
ユークが投げやり気味に答える。
「それでも、魔法を使えるなら、普通は魔法系のジョブになるはずよ。でも、あなたは強化術士になった。つまり、あなたの魔法の才能よりも強化の才能の方が高いってことになるのよ」
「なるほど……」
ユークは驚きながらも納得するしかなかった。
「へぇ~……」
セリスが感心したような声を漏らしたが、その表情はどこか呑気だった。驚いているというよりは、「へぇ、そうなんだ」くらいの軽いリアクションだ。
「……って、お前はあんまり驚いてないな?」
「うん、別に?」
セリスは悪びれもせずにそう答えた。ユークは苦笑しながら、彼女らしいなと思うのだった。
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ユーク(LV.11)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:考えながら戦うタイプ。
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セリス(LV.12)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:考えるより先に体が動いているタイプ。
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アウリン(LV.15)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:相手の動きを先読みするタイプ。
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