第3話 樹海と不機嫌なエルフ
広大な樹海をまっすぐ貫く一本道を歩き続けて2日経つ。リバティーハイムまでは残り12日の旅路で、樹海、山岳地帯を乗り越えないといけない。とにかく大変だ。
アレクサンドリアを出発して1日後に立ち寄った町の町長の話によると、この樹海には小型のモンスターを中心に多くのモンスターが生息しているそうだ。ドラゴンの巣作りが起こる前までは。
「2週間前、わけあって樹海の近くに行った者の話によると、絶えず獣の絶叫する声が鳴り響いていたそうです。もはやこの世の場所ではないなにか、地獄のような場所に思えたそうです。だから、お二方、本当に……本当に気を付けてください。あの場所は魔界です」
今の樹海がいかに危険か語る町長の真剣な言葉が、必死の形相が、頭の中で反芻される。
「あれは……」
数百メートル先の地面に、大きなナニカが落ちているのに気がついた。
「ああ、やっぱりモンスターの死骸か……」
一体何度、道の真ん中に散乱しているモンスターの死骸を見ただろうか。この2日間、生きているモンスターを見たことが一度もない。正直言ってうんざりしている。
でも、旅の安全という観点から考えれば、生きているモンスターと遭遇しないことは最善の状況なのだろう。そうは言っても……繰り返し死骸が目に入る今の状況は精神的にきついことに間違いない。
モンスターの死骸から50mほど離れたところで立ち止まった。戦いに勝ったモンスターがまだ周囲に潜んでいないか、比較的安全な位置から確認するためだ。
「ここの血もすでに渇いてる」
「……」
どうやら大丈夫そうだ。
「そうなると……モンスター同士の争いは既に収束した、ということか……」
「……」
旅の仲間のはずなのに、距離をとった位置に立ち、無言を貫く紅髪の少女をチラッと見た。
「ええと……アメリア。今の状況をどう見ているのか、教えてほしいな……なんて……あはは」
話していると段々気まずさが増していって、最後の方は後頭部に右手をかざし辿々しい口調になってしまった。
「アメリアじゃなくて、アメリアさんよ。私の方が2歳年上なんだから。次に呼び捨てしたら容赦しないから」
ようやく口を開いていくれたことに胸を撫で下ろした。返ってきた言葉は、だいぶ物騒だったが。
「ええと……アメリアさん。どう考えていますか? 僕の考えはさっき言った通りですが」
アメリア……こほん、アメリアさんの考えを聞いておきたかった。過去に似たような経験をしたことがある彼女なら、僕が見落としていたことに気づく可能性があるからだ。
「……」
「なんの沈黙!?」
アメリアさんは考える仕草を見せずに、そっぽを向いてしまった。
「アメリア……さん――?」
「うるさい、話しかけないで。私はあなたと仲良くする気はないの」
「はぁ……」
僕は深く、とても深くため息をついた。よっぽどひどく嫌われてしまっているようだ。
「分かりました。極力会話なしでいきましょう。でも、さっきの質問にはちゃんと答えてください。生き延びるために必要です!」
「うるさいわね。あなたと同じ考えだったから答えなかったのよ」
それならそうと言ってくれ、と僕は心の中でツッコんだ。