9. 魔法、使えるんだ
それから、私はリリーに魔法の使い方を教えてもらった。リリーはピチピチギャルに見えるが、ちゃんとした魔導士団長だった。
「ローザ、まずは座学からね」
まずはじめに徹底的に叩き込まれたのは、魔法理論からだった。
リリーはキャラに似合わず太い本を持ってきて、それに添って説明をしてくれる。そして、太い本は異国の文字で書かれているのだが、なぜか私も読むことが出来た。この世界が狂っているのか、私の頭が狂っているのかは、甚だ謎だが。
キャピキャピしながらもきちんと説明してくれるリリーのおかげで、少しずつ魔法がどういうものか分かるようになってきた。
私のもといた世界では『気力』とか『精神力』とか表現されるものが、『魔力』なのだと思う。これは体力みたいに使うと減るが、休むと回復する。この魔力が体の外に放出されると『魔法』となって、様々な効果が生まれる。
一番分かりやすいのは、まさしく戦いだ。ゲームの世界のように、魔力を放出することによって敵を攻撃する。
その他、一部の魔法は魔力や体力を回復させるものもある。レオン様が使ったような、ものの状態を回復させるものだってある。その使い方は無数で、使い方次第では新しい魔法だって生まれるようだ。
「ロスノック帝国は、魔法都市って言われているの。ロスノック帝国に生まれた人はみんな、魔力を持っているの。
この国を支えているのは、魔法の力なのよ!」
そう言うリリーは、自分が魔導士団長であることを誇らしく思っている。まさしく陽キャの鏡だ。
「ローザもこの国で生きていくなら、魔法の一つや二つ使えないとね」
リリーはそんなことを言ってくれるが、私は歓迎されているのだろうか。私はグルニア帝国側の魔導士だった。……だが、そんなこと怖くて聞けるはずもなかった。
座学を終えると、ローザと中庭に出た。
私がグルニア帝国から来た『伝説の最強魔導士』だからだろう。レオン様をはじめとする、数人の男性も一緒だ。
きっと、私が悪いことをした場合、捕えられるように連れてきているのだろう。
そんなこと百も承知だが……
レオン様を見ると、どうしても胸が疼いてしまう。おまけに、レオン様は私を見て優しく微笑んで、手まで振ってくださるのだから。
私の十メートルほど前に、的が置かれる。どうやらそこを狙って魔法を撃てということらしい。
「ローザ!まずはあたしがやるね」
リリーは相変わらずキャピキャピしながら指を的に向け……次の瞬間、的の中央にぼっと火が上がる。
どのくらい難しいものかは分からないが、リリーは簡単にやってしまった。魔導士団長がやるのだから、もしかしたらすごく難しいのかもしれない。
「ローザもやってみて!」
リリーは笑顔で私を振り返った。
やってみてって言われても……私、また力を暴走させてしまうかもしれない。この庭園を破壊するだけではなく、誰かに危害を加えたりしたら……
「無理そうな気がする……」
私はもごもごと答えた。だが、リリーは深く考えていないのだろうか。
「何言ってんの!
……てか、今日初めて話してくれたよね」
なんて嬉しそうに言ってくれる。それでようやく分かった。私は自分の殻に閉じこもってばかりで、親切にしてくれたリリーとろくに話さえしていないことを。
私は呪われた名前だからと、こうやって人と関わるのを避けてきた。確かに名前のせいでいじめられたりもしたが、一番は性格のせいかもしれない。なんて思わずはいられなかった。
「リリーさん……ありがとう!」
そう言うと、
「リリーでいいって!」
なんて、裏のなさそうな笑顔で言ってくれる。
リリーは可愛くて明るいだけでなく、性格もいいなんて。おまけに、魔導士団長だ。天は二物を与えずなんて言うが、リリーは五物くらい持っている。
気を取り直して的を狙う。
隣にはリリーがいて、
「ローザ、力を抜いて」
私の肩を掴みがくがくと揺さぶる。それで言われる通りに力を抜き、的を狙う。
「あたしがやったみたいにやってみて。
的に火が付くとか、氷が突き刺さるとか、そんなイメージで」
言われた通りにイメージする。
私は何属性なのか分からないため、火が出たり、氷が突き刺さったり、雷が直撃したり……
そして、魔力を的に向けて解放した。
その瞬間、的が大爆発を起こした。それだけではない。どこからともなく氷が矢のように降ってきた。挙げ句の果てに、上空に突如として雷雲が立ち込め、的目がけて大きな雷が落ちる。
私はびっくりしてその場に立ち尽くすのみ。そして、レオン様をはじめとする男性陣はざわざわしている。
だが、リリーは面白そうに口角を上げてそれを見つめていた。
「すごいじゃん!ローザって、どの属性の魔法でも使えるの!?
ロスノック帝国にもそんな人いないよ!!」
「……え?」
ぽかーんとリリーを見つめる。
私は、グルニア帝国の人が言うように、本当に最強魔導士なのかもしれない。
興奮したリリーは続ける。
「ねえ、ローザ。第二魔導士団に入ってよ!
あたし、ローザとはいいパートナーになれると思うの!」
なんだか嬉しかった。今まで蔑まされきた私が、こうやって人に必要をされているなんて。
「本当にいいの!? 」
思わず聞いてしまうと、
「いいに決まってるじゃん!」
リリーは裏のなさそうな笑顔で告げる。
そんなリリーを見て、ここが私の居場所なのだと思った。ここにいる皆さんは優しくて、私を馬鹿にしたりなんてしない。私、ここにいたい!
「ねえ、レオン様、いいでしょ?」
リリーはレオン様にまですがり始める。そしてレオン様も笑顔なのだが……
「リリー。ローザはまだ本調子ではない。
それに、第二魔導士団に入ると、もちろん危険な任務に従事することになる。
ローザにはその辺りをしっかり考えて、自分の意思で選んでもらいたいんだ」
なんて、優しすぎる言葉を告げる。
もともと、私は敵国の魔導士だった。こうやって世話をしてもらったり、魔法まで教えてもらう立場にないのも事実だ。それなのに、ロスノック帝国の人々は、こんなにも良くしてくれるのだ。
私だって役に立ちたい。恩返ししたい。だが、いまだにヘマをしたらどうしよう、なんて考えてしまう。リリーみたいに自分に自信を持って、前向きになれればいいのに。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!