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8. 魔導士団長は陽キャだった

「ローザ、紹介する。

 ロスノック帝国第二魔導士団長の、リリーだ」


 私は、レオン様の隣に立つ女性を見ていた。

 小柄で私よりも背の低い彼女は、私と同じくらいの年齢だろう。ライトブラウンのふわっとした髪に、茶色の大きな瞳、口角はぐっと上がっている。その表情を見ただけで、私のいちばん苦手なタイプだと分かる。……そう、陽キャだ。


 おまけに、私はゲームの中の彼女を知っている。ゲームの中の彼女は、レオン様の前に出てくる中ボス的なキャラだった。強烈な火の魔法を繰り出し、なかなか苦戦させられた。

 私はまだ到達しなかったのだが、戦いで生き延びた彼女は、エンディングでは森の中で幸せに暮らしているという。

 そんなゲーム中の彼女はクールな女性だったため、私としてはこの世界のリリーのほうが苦手だ。


 リリーは大きな目をさらに開けて、私に駆け寄る。


「あなたがローザなの!? よろしくね!」


 よろしくって言われても……よろしくしたいが、出来ないだろう。陽キャはこぞって私を馬鹿にして笑うから。


 だが、レオン様がいる手前逃げることも出来ず、


「よ、よろしくお願いします」


ビクビクしながら頭を下げた。


 リリーはニコニコ笑いながら続ける。


「ローザって魔力めちゃくちゃ高いのに、魔法も使えないのー?」


 ほら、始まった。陽キャはこうやって私を笑うのだ。

 ぐっと黙って俯く私に、リリーは続ける。


「なんで?今まで魔法の教育されてこなかったの!? 」


 なんでって聞かれても、私は異世界から来たからである。だが、そんなことを話すと頭がおかしいと思われるかもしれないから、言えるはずもない。

 さらに俯く私を見て、ついにレオン様が口を開いた。


「リリー。ローザは疲れているし、困っているんだ。

 君がそんな言い方をすると、彼女はさらに困ってしまうだろう?」


 レオン様にこんなことを言わせてしまう自分が憎い。私だってリリーみたいな快活な陽キャだったら、この窮地も明るく突破出来たに違いない。


「……ごめんなさい、レオン様」


 リリーは頬を膨らませて謝る。そして、リリーはきっと本心から聞いただけなのに、謝らせてしまう自分がさらに憎い。

 だけど、やっぱり陽キャは違っていた。私に歩み寄り、笑顔で告げる。


「ローザ、頑張って魔法使えるようになろうね!

 これからよろしくね!」


 これ以上だんまりはいけないと、さすがの私でも思う。だから私は、以前レオン様にしたように直角に頭を下げ、真っ赤な顔で告げていた。


「よっ、よろしくお願いします!!」



 グルニア帝国が悲惨だったから、この国の人は皆どうしてこんなにいい人なのかと思ってしまう。

 レオン様は言うまでもなく、リリーだって苦手な陽キャだが、陰キャの私を認めてくれるのだ。




「じゃあさ、ローザ。まずはじめにローザの魔力がどのくらいなのか、魔力計で調べてみよ?

 利き手を出して」


 リリーはそう言って、腕時計みたいなものを私の右手に巻きつける。そして、巻きつけられたそれを見て、グルニア帝国の魔力を吸収する腕輪を思い出さずにはいられなかった。

 だが、リリーに悪気がないのは分かっている。私は首を振って、グルニア帝国での思い出を頭の中から振り払った。


「それじゃあ、魔力を入れてみて?」


 魔力を入れてみてって言われても分からない。腕相撲をするように力を入れてみるが、当然魔力計の針はぴくりとも動かない。やっぱり、私に魔力があるだなんて戯言だろう。


 動かない魔力計を見て、リリーは苦笑いする。きっと呆れ返っているのだ。


「そんなんじゃダメでしょー。魔法を使う時は、体の力を抜いて魔力を溜めるんだよ」


 意味不明だ。


「それで、魔力が体の中を巡って、指先から出ていく感じ!!」


 ますます意味が分からない。だが、言われるままに体の力を抜いてみた。そして、見えない力が体の中を巡って……指先から出て行く!ゲームの中では、炎だとか氷だとか!!


 部屋の中をぞわっと風が吹き抜けた。そして指先から力が出ていくことをイメージした途端……


 パリーン!!!


 大きな音を立てて魔力計が吹っ飛んだ。それとともに、指先から出ていく力が暴走する。

 それは一瞬だった。あの時と同じような白い閃光が部屋中のあちこちに跳ね返って、この綺麗な整えられた部屋を滅茶苦茶に壊していく。


「や、やめてぇぇえ!!」


 思わず叫んだ時にはすでに閃光は消えており、閃光のせいで滅茶苦茶になった部屋が見えるだけだった。


 窓ガラスは割れ、ベッドは中綿が飛び出て羽毛が舞い散り、花瓶に差してあった花はばらばらに飛び散っている。


「ご、ごめんなさい……」


 私はその場にしゃがみ込んでいた。

 どうせ出来ないと思って、全力でやってしまった。部屋をこんなに破壊してしまって、レオン様はさすがに怒るだろう。


 しゃがみ込んで俯く私を前に、レオン様もリリーも何も話さない。この沈黙がやたら怖い。

 二人は、私のことをなんて罵るのだろう。『陰キャのくせに!』なんて言うのだろうか。


 だが……


「うっわー……超ヤバいじゃん、ローザ!」


 リリーの心底驚いた声が聞こえる。


「魔力計を吹っ飛ばす人なんて、見たことないよ」


「……え?」


 顔を上げると、文字通り目をまん丸にしているリリーがいた。


 そして、


「ローザは悪くないんだよ。

 だけど、君の魔力が規格外だということはよく分かった」


レオン様がそう言って、軽くベッドや窓に指を向ける。すると、破壊されたベッドや窓が瞬時に元に戻るではないか!


 目が点の私は、


「うわー!すごい!魔法みたい!!」


なんて思わず叫んでしまって、レオン様とリリーの視線を感じて慌てて口を塞いだ。


「何言ってんのよ!魔法に決まってるでしょ?」


 リリーがおかしそうに笑う。


「レオン様は光の魔法使いだから出来るんだけど、あたしは出来ないなぁー」


 この世界にも魔法には属性があるのか。そして、レオン様が光属性というのもゲームと同じだ。だからきっとリリーは……


「リリー様は、火属性なんですよね? 」


 ゲームの話となると、つい夢中になってしまった私。こんな私を見て、


「リリーでいいよ。タメ口でいいよ。

 あたし、フレンドリーさが売りの魔導士団長なので」


リリーは裏のなさそうな笑顔で言う。


「うん!あたしは火の魔法を使うんだよ。

 ローザもこれから頑張って練習しようね」



 陽キャなんて大嫌いだった。陽キャはいつも私を馬鹿にして嘲笑うから。

 でも……リリーみたいな陽キャは、好きかもしれない。





いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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