10. 幸せな王太子家
それから三年後……
グルニア帝国は、民主主義国家のグルニア国へと生まれ変わっていた。ロスノック帝国の援助により食糧難は解消し、今やロスノック帝国が分け与えた農地で野菜を生産するようになっていた。
一方、ロスノック帝国はグルニア国と正式に国交を結び、魔法文化を大切にする一方、機械文明を取り入れ始めている。
家庭にはテレビを模したモニターが置かれ、人々はチャンネル数は少ないが番組を見たり、ゲームに没頭した。特にゲームは、ハンスが開発した例のゲームが人気を集めていた。ハンスは国民の集中砲火を浴びると怯えていたが、意外にも国民は寛大だった。というのも、国民は皆現在の生活に満足しているからだろう。それに加えて、ゲーム中で最悪の敵役にされていたレオンが、率先してゲームを褒めていたからかもしれない。
ある晴れた日の朝、もうすぐ三歳を迎える長男のランベルトと庭園を散歩していたレオンが戻ってくる。そして、困った顔をして告げるのだ。
「ランベルトが、今日も水族館に行きたいと言っている」
私は半年前に生まれた長女のオリヴィアを抱き抱え、レオンに告げる。
「いいですね。行きましょう」
「だが、ローザもオリヴィアの世話で疲れているのではないか? 」
「いえ。うちにはイクメンがいるので、私は疲れておりません」
笑顔で答えていた。
そう、レオンはイケメンならぬイクメンとなっていた。もとから甘やかしすぎなのではないかと思うほどランベルトを溺愛していたが、オリヴィアが生まれてからはさらにその溺愛は増した。
オリヴィアの世話に追われる私を心配し、ランベルトを連れ出して相手をするのだ。そもそも王太子なのだから、育児は侍者に任せることだって出来る。だが、レオンが愛情を持って育てたいと言って聞かないのだ。
「お母様。僕、お父様から新しい魔法を教えてもらったよ。
もうすぐお父様よりも強くなれそうだよ!」
「ランベルト。お前が私に勝つのは、十年早い」
レオンはそう言うが、十年後にはランベルトは本当にレオンよりも強くなっているのかもしれない。
ランベルトは、私の魔力の強さを引き継いで生まれてきた。そして、私のように全属性魔法が使えるのだ。その能力は、もちろんオリヴィアにも受け継がれている。ただ、オリヴィアは小さいため、まだ魔法は使えないのだが。
ランベルトはレオンの指導により、魔法の腕をぐんぐん上げていた。レオンが抜かれるのも時間の問題だろう。だが、ランベルトにはこの強大な魔力に負けず、正しくまっすぐに育って欲しいと思っている。レオンの子なのだから、きっと大丈夫だろう。
「分かった。それでは今日も皆で水族館に行くとしよう」
レオンの言葉に無邪気にはしゃぐランベルト。オリヴィアは私の腕の中ですやすや眠っている。
◆◆◆◆◆
「わぁーすごい人。前が見えないや。お父様、肩車して!!」
水族館についた瞬間、興奮し始めるランベルト。そんなランベルトを軽々持ち上げ、肩に乗せるレオン。
「ランベルト、水族館の外ではいくらでも肩車をしてやろう。
ただ、水族館の中では駄目だ。後ろの人が見えなくなるからな」
レオンはいつでも優しく、常に人を気遣っている。それは父親になった今でも同じだ。
「はーい、分かりましたあ!」
ランベルトは手を挙げて素直に返事をした。
ロスノック帝国立水族館は、予想通り大人気の観光地となっている。開館三年を迎える今年でも、ひっきりなしに人が訪れていた。それはロスノック帝国内だけでなく、グルニア国からも、そしてさらに遠い国々からも。人々は珍しい魚を見るために訪れ、その雰囲気に癒されて帰っていく。家族連れやカップルだけでなく、行商人や農民にも大人気だ。
「では、ここのカラフルな水槽の前で写真を撮りますよ」
私が笑顔でカメラを構えると、
「私は写真は苦手だ。私が撮ってやろう」
レオンがカメラを取り上げる。
「あ、待って!私だって写真は苦手なのに!」
それは陰キャだからだ。私は昔から、陽キャたちの写真撮り係となっていた。
それなのに、
「可愛いローザの顔を、写真に収めたいのだ」
レオンは甘い声で告げる。その声を聞くだけで、いちいち真っ赤になってしまう私がいた。
「か、可愛いだなんて」
出まかせはいい加減にして欲しい。それなのにレオンは頬を染めて甘い声で告げる。
「ローザは可愛い。世界一綺麗だ」
いや、世界一綺麗なのはあなたでしょう!と叫びたくなるのだった。
結局、レオンに絆されて写真を撮られる羽目になる。シャッターを押した後、レオンはランベルトに告げる。
「それでは次は、私と君の母上との写真を撮ってくれ」
「え!? 」
「私は、ローザとツーショットを撮りたい」
人々が見ているのにレオンは私と並び、恥ずかしげもなく腰に手を回す。そして私を抱き寄せて写真を撮る。恥ずかしい気持ちでいっぱいの私は、きっと真っ赤な顔をして写真に写っているのだろう。
結婚しても、子供が出来ても、ずっとレオンに溺れている。このまま年老いても、ずっとずっとレオンに恋しているのだろう。
「お父様お母様、イルカのショーを見に行きたい!」
「はいはい、分かりましたよ」
私はベビーカーを押し、レオンは駆け回るランベルトを追いかけている。レオンは王太子だが、このごく普通な一家に人々は驚き、そして微笑んでいた。
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