4. 勘違いが甚だしい
「ほう。第三次産業とは、観光業のことか。それならそうと、早く言えばいいものを」
夜、寝室で私はレオンに、ハンスとの話を噛み砕いて伝えた。レオンは日本に来たことがあるため、何となく雰囲気を掴んでくれたみたいだ。……というより、日本でテレビに見入っていたレオンは、色々なものの知識を中途半端に覚えていた。
「水族館というものは、レールの上を走る滑車が、魚のいる水槽に飛び込むものということだな。
魔力によって、水の中でも息が出来るのか」
いや、それは遊園地と水族館がごちゃごちゃになっている。そもそも、ジェットコースターが水槽の中に飛び込んだら、水族館どころではない。そして、水の中では息できない。
ツッコミどころいっぱいだ。
「インターネットに繋げれば、レオンにも水族館の写真を見せることが出来るのになあ……」
「インターネットって何だ? 」
こうやって質問責めにあい、レオンに教えるのもなかなか大変だった。だけど、故郷の知識をこの国に広め、さらに国が発展するのは嬉しいことでもあった。
「いずれにせよ、私はまた嫉妬した。
ローザはハンスと二人にしか分からない話をするから」
レオンは少し頬を染め、拗ねたような表情で私を見る。やきもちをやくレオンですら愛しい。そして湯浴みをしただけあって、髪が濡れていて色気すらある。このままだとレオンに迫られそうだから、私は急いで話題を変えた。
「水族館はね、デートスポットでもあるんだよ。
水族館が出来たら、レオンと一緒にデートしたいな」
「そうか……デートか……」
レオンは甘い声で告げ、そっと私の体を抱きしめる。甘い雰囲気になるのを避けたのに、結局捕まってしまった。だが、こうしてレオンに触れると幸せだと思った。このまま、ずっとこうしていたい。
◆◆◆◆◆
次の日……
私は、レオンとマリウス様、そしてハンスと水族館候補地の下見に行くことになった。
水族館は王都から少し離れた郊外に作るのがいいだろうという話でまとまっている。王都からも観光客が来るし、郊外には土地が有り余っているからだ。
乗馬服に着替えて馬で行く気満々の私に、
「ローザは馬に乗れないだろう」
レオンは困った顔で言う。
「万が一、お腹の子供に何かあったなら……」
「身籠っていませんから!!」
私は大慌てで告げていた。
レオンの過保護には程がある。私が妊娠していると言い続けて、一年も二年も経過してしまったらどうするつもりなのだろう。
「ローザのために、馬車を用意している。今日はゆっくり馬車で行くとしよう」
もう、準備までしてしまったのか。それなら馬車で行くしか仕方がない。こうして、渋々馬車に乗るのだった。
王族の豪華な馬車に乗って、郊外まで進む。空はからっと晴れていて、畑にはたくさんの野菜が実っている。人々は朝からその収穫作業や新たな種まきに追われており、忙しそうだ。だが、どの人々の顔も幸せそうに笑っている。
また、郊外には新たに大きな牧場や養豚場が作られていた。安定して作物が取れるようになったため、畜産業も復活したようだ。
こんな農村の様子を見ると、私まで嬉しくなってしまう。思わず微笑んでしまった私に、レオンが告げる。
「ローザのおかげで、この国も救われた。
ローザは救世主と言えるだろう」
「そ、そんな……救世主だなんて、大袈裟な……
もとはといえば、レオン様が色々先頭に立ってしてくださったからです。
レオン様こそ救世主です」
素直な気持ちを伝えていたつもりだった。だが、レオンは頬を染めて私を見る。
「そんなことを言うと、口を塞ぐぞ」
「えっ!?」
狼狽えた時には、もう唇を塞がれていた。その甘い甘いキスによって。
レオンはずるい。こうやって、私のことをどんどん溶かしていくのだから。私はレオンしか見えなくなっていくのだから。
長い口付けのあと、ぽかーんとしてこっちを見ているハンスと目が合った。だから私は真っ赤な顔になり、口を両手で塞ぐ。レオンと二人の世界に入ってしまったため、ハンスやマリウス様がいることを忘れていた!!
「も、もう!やめてください!」
真っ赤な顔でこぼす私に、レオン様は勝ち誇った顔で告げた。
「やめろと言われて、やめる男がいるか」
危険だ。レオンの頭の中には、羞恥心や遠慮という言葉がないのだろう。
私はこれ以上キスされないように、必死で馬車の窓にしがみついていた。
こうして水族館候補地の視察も無事終わり、郊外の広大な土地に帝国立水族館が建設されることとなった。
宮廷の建築士たちが一斉に設計図を作り、数日後には工事が着工した。もちろん、その設計図にはハンスや私の意見がこれでもかと言わんばかりに反映されている。その速さには驚くばかりだった。
また、工事は魔法を用いて行われるらしく、工期も日本よりも短いようだ。日本の技術が全てではないと思い知った。
こうやって日々平穏に過ごしていた私は、ある日突然体調不良に襲われたのだった。
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