7. 敵国王子が優しすぎる
いつもありがとうございます!
「ローザ。粗末な食事しか出せず、申し訳ない」
レオン様は部屋に入るなり、そんなことを言う。だから私は慌てながらも、必死で告げた。
「こっ、こちらこそ、貴重な食糧をいただいてしまって、申し訳ありませんでした!」
そして、直角に頭を下げる。
こんな私を見て、レオン様はふふっと笑う。
「そんな風に頭を下げないで、ローザ」
レオン様はそう言って、私の座っているソファーの隣に腰を下ろす。イケメンが急に隣に座って、体の全筋肉が硬直してしまう私。微動だに出来ず、カチンコチンに固まった。どうやら私は氷の魔法が使えるようだ。自らが氷になるという陰キャ特有の呪文を。
おまけに、レオン様はふわっといい香りまでするのだ。香水でも付けているのだろうか。
イケメンにいい香りに、私の頭の中はついていけない。
「疲れている人に食べ物を分け与える。それは例えこの国に飢饉が起こっていても、国の者として当然の行いだろう」
レオン様……ドミニクとは正反対のお言葉だ。ドミニク一家は国がたいして飢えてもいないのに、富を独り占めしていたのだから。
私は、ますますロスノック帝国が好きになる。
「ローザもかなり疲れ果てていただろう。食べ物を食べ、少しは回復したか?」
「……はい」
答えながらも真っ赤になる私。イケメンが隣にいるだけでなく、イケメンから話しかけられるなんて人生初の大事件だ。そして、レオン様があまりに綺麗だから、恥ずかしくて目を合わせることすら出来ない。
「それなら良かったが」
レオン様はそう告げ、まだじろじろと私を見ている。もちろん私はレオン様を見ることが出来ず下を向いているが、その視線を嫌というほど感じるのだ。そして、レオン様に見られていると思うと、さらに顔に血がのぼってしまう。
だが、次の言葉で私は現実に引き戻された。
「ローザ。差し支えなければ、どうしてあの地にいたのか教えてくれないか?
……君は、グルニア帝国の者なのだろう?」
レオン様があまりに優しくしてくれるから、私は忘れかけていた。私は、レオン様をはじめとする、ロスノック帝国の敵なのだと。
きっと今は憔悴しているから良くしてくださっただけだろう。
だが、敵の私にここまでしてくださったのも事実、嘘をついてはいけない気がした。
「あの……私、魔法が使えるようなんです」
私は探り探りそう告げ、ちらりとレオン様を見上げる。レオン様は相変わらず優しい瞳で私を見ていて、ホッとするとともにぼっと顔に血が上った。だから慌てて目を逸らしてしまう。
「グルニア帝国の人々には、『伝説の最強魔導士様』だなんて言われました。
でっ、でも!私は何かの間違いではないかと思っています。
だって……私、魔法なんて使えないからです」
レオン様があまりにも優しいから、余計なことまで話してしまった。いや、知ってもらいたかったのかもしれない。私は伝説の最強魔導士ではもちろんないし、何かの間違いだろうということを。
だって、ロスノック帝国でもその扱いを受けてしまうと、いよいよロスノック帝国を裏切ることになってしまうから。私は魔法なんて使えない、ただの陰キャだ。
私は下を向いて震えていた。
レオン様はふっと笑い、急頭をそっと撫でてくれる。それがいきなりだったから、私は変な声を上げて飛び上がっていた。
レオン様の触れる髪が、焼けるように熱い。
「そうか。君は、一人で抱え込んでいたんだな」
驚いて顔を上げると、レオン様の綺麗な深緑の瞳と視線がぶつかった。それで私はまた真っ赤になって俯く。
男慣れしていないのだから、そんな風に気安く触れないで欲しい。それだけで、勘違いしてしまいそうになる。
それなのに、レオン様は容姿してくれない。私の髪を撫でながら、優しい声で話し続ける。
「君が魔法を使えない、なんてことはもちろんない。君は我がロスノック帝国軍を救ってくれただろう?」
あれが本当に私の力だったのか、甚だ謎だが。
「私はこうして君の隣にいるだけでも、君の体には強い魔力が宿っているのを感じている」
「……え?」
思わずレオン様を見て、そしてまた赤面して下を向く。
レオン様は、冗談でも言っているのだろうか。私自身は、魔力だなんて全く感じない。ただ、さきほど久しぶりにたくさん食べ、気力が回復したと思っているだけだ。
「ローザ」
不意に名前を呼ばれ、飛び上がりそうになる。
レオン様はこの呪われた名前を、何の抵抗もなく優しく呼んでくれる。それだけで、夢ではないかと思うほどだ。
「君に強い魔力があるのは間違いないのだから、魔法の使い方を習ってはどうだ?」
レオン様は、どうしてこうも私の予想外の言動をされるのだろう。
敵国の『伝説の最強魔導士』だった私に、魔法の使い方を習えだなんて……
もし私の心がまだグルニア帝国側にあるのなら、ロスノック帝国は窮地に立たされるに決まっているのに。
それなのに、
「君にはせっかく力があるのに、それを持て余しているだけでは気の毒だ」
なんて最後まで優しい言葉をかけてくれるレオン様を、私は絶対に裏切りたくないと思った。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!