2. 王族の仲間入り
私は晴れてレオンの妻となり、王族の仲間入りを果たした。ただそれだけで、私自身は何も変わっていないのだが、周りの対応は明らかに変わっていた。
朝起きると、隣にいるレオンにベッドに引き込まれそうになる。それをふりほどいて身なりを整え部屋を出ると、
「ローザ様、朝食を準備しております」
侍者が深々と頭を下げる。今までは自分の好きなものを好きな時間に一人で食べていたものだから、まずこの対応に戸惑ってしまった。
私に続いて部屋を出たレオンが、
「ローザ。朝食会場はあっちだ」
反対方向に歩き始めた私を、慌てて引き止めた。
おまけに、このドレスがまた歩きにくい。今までは魔導士団のローブで行動していたものだから、豪華なドレスは不自由感半端ない。
思えば、レオンもいつも豪華な飾りのある服を着ていた。あれも暑苦しくて夏なんかは辛いだろう。
朝食は、結婚式のために宮廷に泊まった貴族のかたたちと食べた。王太子妃教育で貴族たちの名前や領地をしっかり覚えた私は、陰キャのくせに彼らをしっかり褒め称えた。
「フランソワ様の領地は、海産物が特産品でいらっしゃいますね。
私もいつか、いただきたいと存じます」
「ジャン様は楽器がとてもお上手だと伺っております。
ぜひ、拝聴させていただきたいです」
貴族たちは、私が自分のことを覚えているのを喜び、上機嫌だった。そして口々に言う。
「王太子殿下もこんな素敵な奥様を娶られて、幸せでしょうね」
その言葉を聞いてレオンが喜んでいたのは、言うまでもない。そして、陰キャの私でもやれば出来ると分かり、嬉しくもなった。
食事を終えると、ようやく魔導士団への出勤の時間だ。だが、王族となった私はもはや魔導士団に残ることは出来ない。名残惜しいが、今日をもって退団となる。レオンによる妊娠騒ぎといい、退団するいい時期だったのかもしれない。
寝室に戻った私は豪華なドレスを脱ぎたいが、きつく締め上げられており脱げない。もがいていると、レオンがそっと紐を解いてくれた。朝だってレオンが縛ってくれたし、私は王子様に何をさせているのだろう。
「あ、ありがとう、レオン」
そう告げると、熱っぽい瞳で私を見るレオンと視線がぶつかった。これはいけないと思い、飛び上がる。
「レオンにさせるわけにはいかないから……こ、今度から、お付きの人に手伝ってもらうね」
上ずっている私の声に、レオンの声が重なる。
「いや、いい。
私は服を脱がせるのは得意だ」
それ、すごく語弊があるんだけど。……いや、そのつもりなんだよね。
私はなんとかレオンをかわし、魔導士団のローブを身につけ、右腕にスカーフを巻く。このローブも今日で着納めだ。
「ローザ、いつまでそれを巻く気だ」
スカーフを目敏く見つけたレオンが、不機嫌そうに私に聞く。そんなレオンにドキドキしながらも、答えていた。
「……そうだよね、私はレオンの妻になったんだもん。
今日はスカーフを外していくね」
そう、今さら隠すことは何もない。レオンが色々爆弾を落としているのだから、魔力交換の痣なんてもはや誰も気にしない。
この日から、私は右手首にスカーフを巻くのをやめた。
「今日は魔導士団には、私もついていく」
レオンの思わぬ言葉に、
「えっ!? 」
私は飛び上がっていた。
レオンが来るなんて聞いていないし、また新たな爆弾を落としていくのだろう。
だが、レオンは笑顔で告げる。
「ローザを大切に扱ってくれた魔導士団には、私からも礼を言わないといけない」
こんなレオンが大好きだ。きっとまた爆弾発言をするだろうが、私をいつも大切にしてくれる。王太子という身でありながら、家臣のように私に尽くしてくれる。もちろん、望んではいないのだが。このレオンの愛を一身に受けて、私は今日も元気だ。
◆◆◆◆◆
「……というわけで、今日でローザは魔導士団を退団することになったよ」
みんなの前に立つリリーが、寂しそうに、だけど嬉しそうに告げる。
私としても、もう少し魔導士団にいたかった。魔導士団は私の大切な居場所で、魔導士団のみんなが大好きだった。これからもみんなと友達感覚でわちゃわちゃしたかった。
だけど、私は今や王太子妃だ。王太子妃として宮廷の仕事もしなきゃいけないし、頻繁に来る来客の対応もしなければいけない。
「みんな、お世話になりました。
魔導士団で過ごした日々は、私の宝物です」
深々と頭を下げる私を、魔導士団のみんなは割れるような拍手で送り出してくれる。
「ローザ、いつでも遊びに来てね」
「結婚おめでとう!」
私はこんなにもみんなに祝福されて幸せだ。
レオンはみんながいるというのに、私の頭をそっと撫でる。
「ローザが魔導士団にいたいというのはよく分かる。だが、王族が入れないのは国の決まりだ」
「分かっています。私はこれからも別の方法で、ロスノック帝国に尽くします」
「ああ、早く私の子を産んでくれ」
だからどうしてそうなるの!? レオンががばっと私に抱きつく予感がし、私は慌ててレオンから離れる。
「子を孕んでいるかもしれないのに、そんな急な動きをするな」
「だから、どうしてそうなるの!? 」
とうとう私は叫んでいた。
レオンの過保護には驚くばかりだ。これで本当に私が妊娠した際には、部屋から一歩も出してもらえないかもしれない。
焦る私を見て、みんなはおかしそうに笑っていた。そして私がいなくなったら、レオンと私の話題で大騒ぎするのだろう。
「リリー、本当にありがとう」
去り際にリリーに告げる。
リリーは私に魔法を教え、この魔導士団に迎え入れてくれた。初めて出来た、大切な親友だ。
そんなリリーの隣には、今やハンスがいる。
「リリーも幸せになってね」
「ありがとう、ローザ」
私たちはぎゅっと抱擁を交わした。
さあ、今から宮廷に戻ってひと仕事だ。王太子妃として、今日から新たに頑張ろう。
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