27. 長年の恋が実った瞬間 (リリーside)
いつもありがとうございます!
レオン様が訓練施設を去ってから、魔導士団は案の定騒然となった。レオン様とローザの話題でもちきりだ。分かっているが、魔導士団のみんなは、人の恋愛話が大好きだ。とりわけ、デリケートな問題が絡んでくるとなおさらだ。
「ローザはあんなに殿下から逃げていたのに、ちゃっかりしてるね」
「殿下、もはや魔力交換の痣を見せびらかさなかったね」
「レオン様の命令により、あたしたちはローザを労ること。……いいね?」
あたしはみんなに告げていた。
こうして、通常通り午前中の訓練を終え、みんなでわいわい食事を食べる。今日は食堂に第二騎士団もおり、あたしたちは大興奮だ。
「見て見て!第二騎士団のアイドル騎士、アイク様がいるよー!」
「うわーッ!!相変わらずかっこいい」
みんな口々にアイク様を褒め称える。
「リリーはアイク様とレオン様、どっちが好み? 」
仲間にそう聞かれ、
「んー……アイク様だね。
レオン様はないなぁ、絶対無理」
笑って答える。
「レオン様、イケメンだけど変態だから。ローザもあの顔に騙されてるんじゃない?」
そう。レオン様は魔導士団に来てはローザを追い回すし、キスマークを見せびらかすし。おまけに今日は妊娠の可能性の報告までし始めた。……ないな。
みんなはレオン様の話題で大盛り上がりだ。そしてあたしも大笑いしている。こんなあたしを、斜め前に座ったハンスが怪訝な顔で見ていた。
「リリー、アイク様はどの人だ? 」
ハンスが興味深そうに聞き、あたしはアイドル騎士を指差していた。その指差す先を、ハンスはすごい勢いで見る。どれだけイケメンなのか気になっているのだろうか。確かにアイク様はイケメンだが、あたしはハンスに恋している。……なんてこと、言えるはずもないが。
……そう、あたしは言わないのだが、周りが騒ぎ続ける。みんな、本当に恋愛話が好きなんだから!
「ハンス、いい加減、リリーの気持ちに気付いてあげようよ!」
「リリーはハンスをずっと待ってたんだよ!?」
みんなはデリカシーもなくそんなことを言い始めるから、
「ちょっと、みんな!! 変なこと言わないでよ!」
あたしは必死に止める。ハンスにバレないようにしているし、今後も告白するつもりはない。ハンスがあたしに興味がないことくらい分かっているから。
ハンスは
「……え? 」
みんなの言葉に驚いた顔をする。だからあたしは平静を装い、必死で話題を探す。
「何でもない!それよりもハンス、午後から宮廷での仕事、頑張ってね」
「そうだな。だけどその前にリリー、約束したよな。
話したいことがある」
もちろんハンスの言葉を忘れてはいない。だが、なんだか不吉な予感がする。ハンスはあたしを呼び出して、あたしの不満な点などをつらつら述べるのかもしれない。今のあたしじゃ、心のキャパを超えてしまうだろう。
だけどハンスに断ることも出来ず、あたしは頷いていた。
昼食後、ハンスと城門近くの広場を散歩する。ハンスがグルニア帝国に去る前も、二人でよくここを散歩した。それが昨日のことのように脳裏を過ぎる。
あたしはここでハンスと散歩をするのが日課だったのだが、いつの間にか魔導士団長になることが決まり、引き継ぎやら会議やらで時間がなくなっていった。それからしばらくして、ハンスはロスノック帝国を去ったのだ。
「懐かしいな、この場所」
ハンスはしゃがみ込んで、生えているクローバーを摘む。そしてそれを昔のように器用に編み込む。
「忙しい毎日の中で、ここをハンスと散歩するのが心の安らぎだったなあ」
あの頃を思い出し、ぽつりと告げる。
「今は忙しくないのか? 」
「それなりに忙しいよ、魔導士団長だもん。
だけど、この仕事にも慣れたから、プライベート優先で楽しくやってるのよ」
「そうか。リリーは相変わらずすごいな」
ハンスはあの頃のような、優しい声であたしに話す。この声を聞くだけで、顔がにやけてしまう。あたしはこうして、ハンスと隣にいるだけで幸せだ。
「リリーは昔からすごいのに、俺は魔法さえ使えなくなってしまった」
「でも、ハンスにはハンスにしか出来ない特技があるでしょ」
くすくす笑うあたしに、ハンスはクローバーで編んだ草冠をそっと乗せる。思わず目を開くあたしの前で、ハンスは幸せそうに目を細めて微笑んだ。あの頃と同じハンスの大好きな笑顔だ。
「俺は色々と誤解をしていたようだ。
あの頃リリーが頻繁に殿下のところに通っていたから……この場所に来なくなったから……
リリーと殿下がデキていると思っていた」
その予想外の言葉に、
「えっ!? 」
驚きを隠せない。幸せな気分が、その言葉で一気に吹っ飛んでしまう。
「ちょっと待って……?
殿下って……レオン様だよね? 」
恐る恐る聞くと、ハンスは複雑な表情で頷く。
「ごめん、マジでないわ。
あたしは魔導士団長になるから、魔導士団長の諸用でレオン様のところに行ってただけで……」
いや、あり得ない。本当にあり得ない。
「変な気を起こしたことは全くないし、レオン様もむしろあたしを女と認識してないし……」
あたしは必死で否定をしている。疑いが晴れたと分かっても、必死になっている。
「そもそも、あんな変態好きになるはずないよ」
あたしの言葉に、ハンスはホッとしたように笑った。そんなハンスを見て、あたしは真っ赤になっている。
まさか……まさか、本当にそんな誤解をしていたのだろうか!?
ハンス、正気なの!?
「だから俺は、自分の恋が実るはずはないと思って、ロスノック帝国を去った。
リリーが殿下といちゃつくところなんて、見たくもないから」
ちょ、ちょっと待って!話についていけないんだけど!!
と、とりあえず疑いが晴れたことは嬉しいんだけど、それって……ーー
「リリー、愚かな俺を笑ってくれ。
そして、もう二度とリリーを離さないと誓う」
この前まで塩対応をされていたのに、急にこんなごく甘対応、聞いてないんだけどっ!!
そもそも、ハンスだってあたしのことを好きだったの!? あたしとレオン様がデキていると誤解して、ロスノック帝国を去ったの!!?
もはやパニック状態のあたしは、何も言えず顔を真っ赤にして震えている。こんなあたしを、ハンスは目を細めて愛しそうに見つめる。
「ち、ちゃんとあたしに聞いてくれれば良かったのに!」
それであたしは、この数年間を無駄にしたのだ。
ハンスはまっすぐにあたしを見て、微かに頬を染めて告げる。
「それでもリリーは、俺を待っていてくれたんだろう? 」
もう!みんながハンスに余計なことを吹き込むから!あたしはこの恋をひっそりしまっておこうと思っていたのに。
パニックを起こしながらも、ハンスの気持ちを知れてとても嬉しい。夢ではないかと思う。
「待ち続けて良かったぁ……」
あたしは真っ赤な顔で、地面にへなへなと座り込む。そんなあたしの髪を、ハンスはそっと撫でてくれる。
「もう、俺はどこにも行かない。
だから俺と……魔力交換をして欲しい」
「……え!? 」
見上げると、ハンスの真剣で優しい顔。あたしの記憶の中よりも成長し、立派に大人になったハンスが見える。
「俺みたいなザコキャラと魔力交換をしても、リリーの足枷になるのは分かっているけど……」
そんなハンスに、満面の笑みで答えていた。
「もちろん!」
魔力交換をするなら、ハンスしかいないと思っている。ハンスがどんなにザコキャラでも、ハンスをあたしに縛り付けておく力が欲しい。
あたしたちは笑い合い、初めてキスを交わしていた。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。




