23. 王子様は嫉妬深い
第二魔導士団のみんなと楽しく昼食を食べ、昼からは王太子妃教育のために宮廷へ行く。すると、ハンスも私と同じ方向へと歩き始めた。
「どうしたの?」
不思議に思って聞くと、ハンスは笑顔で教えてくれた。
「俺は魔導士団で魔法を取り戻すとともに、午後からは宮廷でロスノック帝国のために機械を開発することになっている」
そうなんだ。あれだけ凄い技術があるのだから、王室が放っておくはずはないだろう。その技術を買われて、ハンスはロスノック帝国に残ってくれればいいと改めて思った。
「すごいもんね、ハンス。
私は日本にいたけど、ハンスみたいなことは出来ないよ」
「でも俺は、技術と引き換えに魔法を使えなくなった」
ハンスはそんなことを言うが、魔法だってすぐに勘を取り戻すだろう。事実、ハンスは午前中の訓練だけでも、小さな稲妻くらいは出せるようになっていたから。……そう、ハンスは雷属性らしい。雷の力を使ったら、パソコンやタブレットに充電さえ出来るようになるかもしれない。いかにもハンスらしい属性だ。
「俺は、殿下やローザに感謝もしている」
不意にぽつりとハンスは呟いた。
「国を捨てた身なのに、国を侮辱した身なのに、こうして再び迎え入れてくれたから。
俺があのゲームを作ったのも、この国を捨てる決意表明だった」
そんなハンスに、思わず聞いていた。
「ハンスは、どうしてロスノック帝国を去ったの?
……本当に、グルニア帝国の機械を学びたかったの? 」
私の質問に、彼は口を噤んだ。きっと答えは『否』だろう。
結果としてハンスはすごい技術を身につけ、日本で成功した。だが、それだけでは『ロスノック帝国を捨てる』なんて言葉は使わないだろう。
ハンスは答える代わりに、私に聞く。
「殿下とリリーはどんな関係だ?
ローザとリリーは仲良しなんだろう? 」
どうしてそんなことを聞くのだろう。私はリリーと仲良しだ。そこに裏なんてない……と思いたい。
「レオン様とリリーは……私から見ると、ごく普通の主と侍者の関係に見えるよ。
裏ではリリーは、レオン様の行動を笑っていたりするけど……」
その事実は、もちろんレオンには内緒だ。私はレオンの婚約者ではあるが、リリーの友達でもある。
「私は、リリーのことを友達として信頼しているよ。
リリーは私を魔導士団の仲間に入れてくれたし、レオン様との恋も応援してくれたし……」
人を信頼しない私だったが、リリーのことは信頼している。いや、この世界の人たちには心を開くことも出来るのだ。
私の話を聞いて、ハンスは悩ましげに遠くを見た。こんなハンスを見て思ってしまう。リリーはハンスに嫌われていると思って悲しんでいる。だが、ハンスは心底リリーを嫌っているわけではなさそうだ。本当に嫌いなら、このようなことは聞かないだろう。それに、そんな切ない顔をしないだろう。
「リリーは、ハンスに嫌われているんじゃないかって心配してた」
私の言葉に、ハンスは驚いて私を見る。やはり、ハンスはリリーに特別な感情を抱いているのだろう。それが恋とは限らないが。
「……そうか。
俺は色々誤解して、リリーにも辛い思いをさせたんだな」
ハンスは切なげに告げる。
「誤解? 」
思わず聞き返すと、ハンスは悲しげな笑みを浮かべて言った。
「その話は、俺からリリーに直接しようと思う。
リリーにも、謝らなきゃいけないだろう」
どうか、リリーの誤解が解けますように。そして、二人の関係がいいものになりますように。そう願わずにはいられなかった。
いつもの部屋の前でハンスと別れ、いつものように部屋の扉を開ける。そして、いつものように王太子妃教育を受けるつもりでいたのだが……
扉の前には、いかにも不機嫌そうなレオンが突っ立っている。あまりの殺気を感じてそーっと扉を閉めようとしたが……ぎゅっと手を引かれ、部屋の中に引き込まれてしまった。そしてレオンは扉をぴしゃりも閉めると、怖い顔で私に向き直った。
「ローザ……」
レオンは怖い顔のまま私を見る。そんなに怖い顔をされると、私は何かいけないことをしたのか不安になる。昨夜はあんなに甘い時間を過ごしたのに、今は別人のようだ。
「私がなぜ怒っているのか、分かるか? 」
「わ……分かりません」
震える声で告げながら、必死で考える。
もしかして、昨夜は盛り上がりすぎだったのか。いや、私の寝顔があまりに不細工で失望されたとか? それとも、ハンスのゲームを極秘裏にやって、その怒りが溜まっているとか? 思い当たる節がない。
それにしても、こんなに怒っているレオンも珍しい。きっと私は取り返しのつかない何かをしてしまったのだろう。
「レオン様のお怒りの理由は分かりませんが……
私が何かをしてしまったのなら、謝ります。申し訳ありませんでした」
低く頭を垂れた私を見て、レオンはため息をついた。そして、悲しげに告げる。
「分からないのなら、いい。
ローザが私を痛めつけようと、故意でやっているわけでないのなら……」
「痛めつける……? ……故意? 」
思わず繰り返した私を、悲しそうな顔のレオンはぎゅっと抱きしめた。そして、離さないとでも言うように、ぎゅうぎゅうに力を入れる。
「どうやら私は、酷く嫉妬しているようだ」
私を抱きしめたまま、レオンは耳元で甘く囁く。その低い甘い声を聞いて、胸がきゅんと鳴ったのは言うまでもない。
「君が私よりも親しげに他の男と話しているのを見ると、どうしようもなく腹が立つ」
あぁ、ハンスのことを言っているんだ。もちろんハンスには気持ちはないし、魔導士団の仲間だから親しくしていたのだけど。
見上げると、頬を染めて私を見下ろすレオンと視線がぶつかった。相変わらず綺麗なその顔にくらっとしてしまう。こんなイケメンが私なんかに嫉妬心を爆発させるなんて、夢ではないだろうか。
嬉しくてふふっと笑うと、不服そうな顔をするレオン。その顔ですら美しい。
「ごめんね。私にはレオンだけだよ」
私は笑顔で告げ、レオンの頬に軽くキスをする。私が唇を寄せるだけで、強張っていたレオンの表情が少し緩む。
「私だって、レオンが他の女性と話していると、きっと嫉妬すると思うもん」
嫉妬するに決まっている。だって、レオンは王太子、イケメン、強いと三拍子揃っているのだから。なぜか私のことを好きでいてくれるが、別の女も放っておかないだろう。
「私にも、ローザだけだ」
今やレオンの苛立った顔は、すっかり穏やかな顔に戻っている。そして、幸せそうに唇を重ねる。
「私はどうやら中毒になっているらしい。今日一日中、君のことばかり考えていた。
こうしている今も、隙さえあれば抱きたいと思っている」
あまりにもストレートなその言葉に、真っ赤になってしまう私。
「もう……レオンのばか」
真っ赤な顔のまま告げると、レオンは愛しそうにキスをくれる。
私もきっと、中毒なのだろう。ハンスと話していても、いつも頭の片隅にはレオンがいた。そして、レオンが怒っていると不安になる。私は、嫌われることをしていないか、レオンを傷つけていないのかと。
私はレオンのことを考えて止まないのだ。
レオンは私の体を離し、静かに告げた。
「本当はこのまま抱きたい。
だが、間もなく兄の尋問が始まる。ローザにも狙われた身として、共に聞いて欲しい」
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