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21. 彼の愛と、いつも通りの生活

ーーーーーーー……

ーーーー……



「手荒になってしまった。すまないことをした」


 レオンはベッドの上で私に身を寄せ、少し頬を染めて告げる。だが、私はレオンに愛されて、この上ない幸せを感じていた。

 

「私はどうも、兄がグルニア帝国と手を組んだことを受け入れられないようだ」


 ぽつりとレオンが告げる。私は何も言わず、レオンの手をぎゅっと握った。


 レオンはヘルベルト様の部屋に機械の親機があることを知ってから、悲しげな顔をするようになった。それは裏切られた怒りとも、兄に寄り添えなかった後悔や悲しみとも見て取れた。だが、私は完全にレオンの心の中を把握することなんて出来ない。私に出来ることは、ただ話を聞くことだ。そして、レオンが私に心を許して心の内を告げてくれることが嬉しかった。


「私が良かれとしてしたことは、結果として兄を苦しめることになったのだろう」


「それは、私にも責任があります。

 私が勝手に農業改革をしたり、魔導士団に入ったから……」


 それが結果的にレオンの功績となって、レオンは王太子になったのだ。ヘルベルト様はその王太子の座を渇望していた。


「ローザが嘆くことではない。

 この国が幸せになったのも、全てローザのおかげだ。だから私は、ローザに頭が上がらない」


「そんなことないよ……」


 謙遜する私に、レオンはちゅっと軽い口付けをする。それだけで、私は真っ赤になってしまう。レオンと親密な仲になったとはいえ、まだまだ慣れない自分がいる。


「私の隣にはいつもレオンがいた。

 レオンと力を合わせたから、出来ないことだって出来たんだよ」


 私の言葉に、レオンは幸せそうに微笑む。


「私とレオンはずっと同じことをしてきた。だからレオンが自分を責めるのなら、私だって同罪だよ」


 でも、自分のしたことを後悔している訳ではない。結果的にレオンの株が上がり、ヘルベルト様を傷つけることにはなってしまったが、国の人々の暮らしが劇的に改善出来た。おまけに、ほぼ無傷でグルニア帝国の侵攻を止めることも出来た。


 レオンは私の言葉に、ホッとしたような表情をする。こんなレオンの心の安らぎに、私は少しでもなりたい。


「ローザ、愛してるよ」


 何度も聞いたその言葉を、念を押すように告げられる。何度聞いても、それを告げられる度に嬉しくなる。そしてレオンが大好きだと改めて思う。


「私もレオンが大好きだよ」


 そう告げると、また優しいキスをくれた。

 私はとても幸せだ。こうもレオンに愛されて、甘やかされて。人前ではいちゃつけないから、こういう時に出来る限り甘えておこう。

 その大きな胸板に頬を付け、目を閉じる。そしてレオンに優しく包まれたまま、夢の世界へと落ちていった。




◆◆◆◆◆





「ローザ、お帰り!!」


 久しぶりに魔導士団に出勤すると、久しぶりに会うみんなが私を出迎えてくれた。こんないつも通りのみんなを見ると、なんだかホッとした。


 私が魔導士団に出勤するのは、実に四日ぶりである。たった四日しか経っていないのに、その四日は一ヶ月とも思えるほど濃い四日間だった。


 この始めの三日間で、私はレオンとグルニア帝国へ行き、故郷にも帰った。ハンスさんと出会い、レオンを両親にも紹介した。

 そして昨日一日で、宮廷内に潜むグルニア帝国の受信機を抜き取った。親機を持つヘルベルト様の存在も把握した。ヘルベルト様が国王陛下に捕まったからだろうか、今朝は誰からも攻撃されることはなく、久しぶりの平和な朝を迎えた。そして、こうやって安心して魔導士団にも出勤しているのだ。


 レオンとの関係も、劇的に変化した。今まで照れて逃げていた私は、レオンの全てを受け入れた。そして表向きは王太子として接しているものの、対等な関係となっている。

 レオンを思い出すと、魔導士団にいる今でさえ顔が真っ赤になってしまうのだった。




「ローザ!グルニア帝国はどうだった? 」


「無事帰って来られて良かったよ!」


 みんなは口々に言う。どうやら、私が異世界に行っていたことは知らないようだ。だが、グルニア帝国に行くことですら一大事だ。


「何とか帰って来られたよ」


 なんて言いながらも、こうしてロスノック帝国にいるとホッとした。ロスノック帝国にいられるだけで、私は幸せ者だ。




 そんななか、


「みんな、聞いて!」


リリーが声を上げる。そして魔導士団の仲間は、リリーの声に耳を傾けた。

 わいわいがやがやしている魔導士団だが、団長のリリーのことは信頼している。現に、リリーが真面目な話をしようとすると、みんなこうやって耳を傾けるのだ。


 みんなの前に立つリリーは、神妙な面持ちをしている。いつもの笑顔も消えかかっている。どうしたのだろうか。

 一抹の不安が過ったが、リリーは少し頬を染めて告げたのだ。


「しばらく国を離れていたハンスが、魔導士団に戻ってきてくれました」


 ……えっ!?


 予想外のその言葉に、驚きを隠せない私。そんな私を差し置いて、みんなは盛大な拍手で迎える。その間、ヒューヒューなんて口笛を吹きながら。


 リリーがハンスさんに恋をしていることは、おそらく周知の事実なのだろう。だが、現状はそんなにも甘くはない。ハンスさんがリリーをどう思っているのかは不明だし、ハンスさんは日本に戻ると言っていた。それがどうして、急に魔導士団に入ってしまったのだろう。


「ハンス、前に来て」


 リリーに促され、一番後ろから前に出てくるハンスさんは、皆と同じ魔導士団のローブを着ている。そして、酷く不安げな表情を浮かべた。

 そんなハンスさんと同様、どこか不安げなリリーが告げる。


「ハンス、自己紹介して」


 リリーに促され、ハンスさんは照れたように下を向いてボソボソと告げる。


「久しぶりです。……ハンスです」


 その瞬間、魔導士団は大混乱に陥った。皆が皆、思うことを口々に叫び始める。お帰りとか、久しぶりとか、そんな前向きな言葉ばかりなのだが。

 こうやってハンスさんを温かく迎えるみんなを見て、嬉しく思った。ハンスさんはこの世界に居場所がないと思っているだろうが、魔導士団はハンスさんを歓迎しているのだ。


「ハンスはグルニア帝国で、機械を学んだのよ。魔法からは離れていたから、魔法の使い方は忘れてしまった。

 だからここで、また魔力を取り戻すことになったんだ」


 リリーの話を、みんなは真剣に聞く。そしてリリーは時折恥ずかしそうに身をすくめる。こんな乙女なリリーが可愛いと思った。


「昨日もね、ハンスがグルニア帝国の機械を探知してくれて、第一魔導士団が理由なく襲いかかることもなくなった……と思う。

 その話はまた、レオン様から報告があると思うけど……」


 不意にレオンの名前が出てビクッとした。そして、レオンを思い出して胸が熱くなった。レオン様との関係が変わった今、レオンは魔導士団でどうやって私に接するのだろうか。

 ……まさか今まで通り、追い回したりしてこないよね。


 執拗に私を追い回すレオンにさえ胸をときめかせてしまう私は、レオンにどっぷり浸かってしまっているのだろう。





いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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