20. 犯人は兄上
赤い丸を消し終え、部屋に戻った私たち。先に戻ったレオンたちも、案の定余裕の表情をしている。
「21個」
「18個」
お互いの手柄を見せ合って、
「私たちの勝ちだな」
レオンは口角を上げて言う。きっと、私が一緒に行かなかったことに腹を立てているのだろう。
そんなレオンの挑発に乗るつもりもなく、
「レオン様、お見事です」
なんて逆に褒め称える私に、彼が狼狽えたのは言うまでもない。私はいつの間にか、レオンという人を上手く扱えるようになっている。
こうしてひと息つき、タブレットを見ると……
「あれ? 全部回収したはずなのに、また赤い丸が動いています」
そう告げながら、ゾッとした。受信機を付けた人間は、今も少しずつ増え続けているのだ。
「これは元を潰さないといけないだろう」
レオンは腕を組んで低く呟く。その言葉に、各々が頷いた。
「私は、殿下たちが動かれている間、グルニア帝国のコンピュータにハッキングを続けました」
ハンスさんがパソコンの画面を見せながら、私たちに告げる。そのパソコンには、ひときわ大きな赤丸が表示されている。それは、宮廷のちょうど真ん中辺り、私すら立ち入ったことのない部屋にいる。
「ここは……」
レオンが顔を強張らせた。
「未使用の受信機、および親機がある場所です。
受信機には、この部屋から信号が送られていました」
ハンスさんの言葉に、レオンが掠れた声で告げた。
「兄の部屋だ」
……え!?
「兄が部下に受信機を付けて、操っていたのか……」
そうであって欲しくないと思っていたが、犯人はヘルベルト様だったのだ。ヘルベルト様はグルニア帝国と手を組み、私を捕らえ、レオンを痛めつけようとしていたのだ。
失望と怒りが湧き起こる。だが、実の兄に裏切られたレオンは、淡々としている。……淡々と見せかけているのかもしれない。
「私は今から父上に報告に行く。
……いや、皆で行こう。ハンスの件も、誤解されないうちに話しておかなければならない」
こうして、私たちはレオンを先頭に、今まで起きたことを国王陛下に報告に行った。陛下はレオンの話を聞き、頷いていた。
「それでは、グルニア帝国と手を組み、我が国を混乱に陥れたのはヘルベルトだと言うのか」
普段は優しそうな陛下だが、国のこととなっては訳が違う。眉間に皺を寄せ、厳しい顔でレオンに聞く。
「その可能性が考えられます、父上」
レオンは低く頭を垂れる。だから私たちも、陛下の前に跪いた。
「ただ、兄上から話を聞くまでは、兄上を犯人だと断定してはならないと存じます」
「そうだな……」
陛下は頷き、近衛騎士団にヘルベルト様を捕らえるよう告げる。そして、騎士たちが部屋を出たあと、静かに告げた。
「レオン、お前にはいつも助けられている。礼を言おう。
そして、ヘルベルトが我が子であることを残念に思う」
陛下がそう告げるのを聞き、レオンは浮かない表情をしていた。私はそんなレオンの様子がとても気になる。レオンはこの件に関する思いを、一人で抱え込んでいるのだろう。
陛下との話を終え宮廷を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「マリウス。ハンスを客人の間へ。
我が国に戻り、国を救ったハンスをもてなすよう侍女たちに伝えてくれ」
マリウス様は一礼し、ハンスさんを連れて去っていく。
「リリー、今回の件も世話になった。
褒美は後ほど授ける。今日は帰ってゆっくり休め」
「ありがとうございます」
リリーも頭を下げて去っていく。そしてレオンの隣には、私だけが残された。居心地の悪い沈黙が続く。見上げると、レオンはやはり寂しげな顔をしていて……
「レオン様」
思わず聞いていた。
「少しお話出来ないでしょうか」
レオンは目を細め、少し嬉しそうに私を見る。
「それならば、私の部屋で話をしよう」
「……え? 」
レオンの部屋!?思わずたじろいでしまう私の手を、レオンは不意に握る。そして、耳元で優しく囁く。
「やっと二人きりになれた。私は、ローザを欲している」
低くて甘い声に、頭の中がくらっとする。体が熱を持つ。
「私は不安だった。この世界に戻ってから、ローザが私から距離を取るから」
「ごめんなさい……」
でも、レオンは王太子だ。宮廷内の目もあり、やはり馴れ馴れしくは出来ない。しかも、私が急に馴れ馴れしくすれば、マリウス様の絶好のターゲットになるだろう。
「分かっている。……だが、二人の時は私に気を許して欲しい」
「……はい」
私が頷くと、レオンは幸せそうに私を見る。そして、そっと身を寄せる。こうやって二人でいると、私も幸せだと思ってしまった。必死でレオンのアピールから逃げていた日を思い出すと、滑稽だと思った。今や私は、レオンを求めて止まないのだから。
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