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19. 親友を励ましたい

 私はタブレットを手に、リリーと宮廷内を歩く。リリーは元気がないのを必死に隠しているのはバレバレだった。


「ローザ、異世界はどうだった?」


「うん、なかなか大変だったけど、なんとか帰って来れたんだよ」


 そして、続けてリリーに告げる。


「ハンスさんって、異世界でゲームを作る偉い人になってたの。

 ハンスさんの作ったゲームは、その世界で大人気なんだよ!」


「……そう」


 ハンスさんの話をすると、リリーはあからさまに元気がなくなる。


「でもハンス、やっぱり私に興味はなかった。それに、私の知っているハンスじゃなかった。

 昔のハンスはもっと優しくて、私と一緒によく笑ってくれたのに……」


 長い年月を経て、ハンスさんの価値観も変わったのかもしれない。それともただ単に、大人になっただけなのかもしれない。

 だけど、私はハンスさんがリリーに興味がない、という訳ではない気がしていた。一目リリーを見た時の、あの切なげな表情。無理してリリーを遠ざけているようにも見える。

 それに……


「ハンスさん、異世界では『反須 百合夫』と名乗っていた。リリーをその国の言葉に直すと、『百合』になるんだよ」


 他の証拠だってある。


「ハンスさんの作ったゲーム、大抵のキャラは死んでしまうんだけど、リリーだけはエンディングで幸せになるんだよ」


 もちろんエンディングまで進めることは出来なかったが、攻略サイトの鬼と化していた私は知っている。レオンなんて皆の前で処刑されるのに、リリーは森で動物たちと穏やかに暮らしている。ハンスさんはリリーを殺すことなんて出来なかったのだ。


 私の話を聞いて、リリーは頬を染めて泣きそうな顔をした。こんなリリーを見るのが辛い。


「私たちがいると、ハンスさんも本当のことを話せないのかもしれない。

 だから、リリーはハンスさんとゆっくり話をして欲しい」


 それで駄目なら、そこまでなのかもしれない。だけど私は、ハンスさんが何か思いを堪えているようにしか見えないのだ。少なくとも、リリーを嫌っているようには見えない。


「ありがとう、ローザ……」


 リリーはぽつりと告げる。そして、わざとらしい作り笑いをする。


「今は受信機を回収しなきゃね!」


 そう、私たちには仕事がある。とりあえず、やらなきゃいけないことをやらないと!




 そうこうしている間に、第一騎士団関連の施設の赤い丸が、すごい勢いで消えているのが見えた。きっと、レオンとマリウス様が鬼の速さで回収しているのだろう。


「レオン様たちに負けないように、私たちも頑張らなきゃ」


 自分に言い聞かせるように告げる。だが、リリーはにやっと笑った。もちろん、空元気なのだろうが。


「異世界から帰ってきて、ローザとレオン様、すっごく他人行儀になってない!?」


「……え!?」


 リリーは鋭い。そして、他人の恋愛には鋭すぎるのに、自分に関してはどうして鈍感なのだろうと信じられない気持ちでいっぱいだ。

 レオンのことを思い出し、顔が真っ赤な私に、リリーは聞く。


「レオン様と何かあったの? 」


「な……何もないよ」


 そう言いながらも、レオンと過ごした一夜を思い出してしまった。私とレオンの関係は、紛れもなく変わっている。


 リリーは面白そうに私を見る。


「また聞かせてね」


 いや、絶対に聞かせられないだろう。




「リリー、赤い点に近付いてきたよ」


 私は話を逸らすために、タブレットに視線を落とす。私たちは第一魔導士団の訓練施設に近付いていた。そして、目の前には二組の黄緑色のローブを着た魔導士がいる。彼女たちと赤い丸は、ぴったり重なっている。


「どうやって取る? 」


「一回戦うしかないよね」


 私たちは背後から彼女たちに回り、魔法で確実に仕留めようと思った。だが、彼女たちにはレーダーでも付いているのか、急に振り返って私たちを見た。


「まずい!」


 そう言った瞬間、彼女たちは私目がけて魔法を放ってくるのだ。容赦無しの攻撃魔法だが、チート魔導士の私に交わすのは余裕だった。

 素早く防御魔法を張ると、リリーがすかさず攻撃する。炎が襲いかかり、二人の魔導士は吹っ飛んだ。


「たいしたことないわね」


 リリーがぼやき、二人の耳下に付いている受信機を外す。すると、タブレットから二つの赤い丸がすーっと消えた。


「少し前からヘルベルト様がローザを攻撃していると思っていたけど、正しくはこの人たちだったのかな」


「そうかもしれない」


 でも、あのショボい嫌がらせ魔法を、第一魔導士団の魔導士がかけていると思ったら、それはそれで複雑だった。エリートだと思っていた第一魔導士団は、案外たいしたことがないのかもしれない。


 こうして、私とリリーは次々に受信機を回収していった。受信機を付けられている人は、必ず私を見つけて攻撃した。私を攻撃するように命令されているのだろう。

 ハンスさんのことで落ち込んでいたリリーだが、受信機を回収していくうちに少しずつ元気になっている。空元気かもしれないし、目の前の任務に集中しているからかもしれない。私は、リリーが幸せになって欲しいと心から思った。

 


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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