15. 愛を知らない王子様
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こうして、レオンは私の両親の心をすぐに掴んでしまった。両親は、この上品で丁寧なイケメンが、まさか異世界の王太子だなんて知るはずもない。そして、知られなくてもいい。
「獅子君は、何かスポーツでもしているのか?」
興味津々の父親に、
「け、剣道が強いんだよね」
苦し紛れに伝える。それではっとした。レオンは日本人ではない設定なのだから、
「フェンシング!!」
慌ててそう言う。そんな私をレオンはぽかーんと見ていて、私だけが一人で焦っているのだろう。
そして、両親はレオンがどこか外国の人だと信じて止まないのだ。
私だけが空回りつつも、始終場は和やかだった。レオンは常に笑顔だし、
「獅子君は、薔薇にはもったいないわ」
なんて言われる始末。悔しいけど、私だってそう思う。大きくため息をついた時だった。
「とんでもない。私からすれば、ローザほど魅力的な女性は他にいないのです。
私は、ローザと一緒にいられてとても幸せです」
レオンが静かに告げる。こんな時なのに、胸がきゅんと甘く鳴る。私はドキドキしながらレオンを見上げる。すると彼は、嬉しげに口角を上げ、優しい瞳で両親を見ている。
そのまま、レオンは両親に頭を下げて、さらっと告げた。
「私は、ローザのことを心から愛しています。一生ローザを守ると誓います。
ですから……ローザと結婚させてください」
まさか、レオンが私の両親なんかに頭を下げるだなんて、思ってもいなかった。レオンは一国の王太子だ。結婚する原田家が頭を下げなければいけないだろう。
「ちょ……ちょっと、レオン……」
戸惑う私の前で、頭を下げるレオン。そして、驚いてレオンを見る両親。
やがて、父親が遠慮がちに聞く。
「が……外国で暮らすのか? 」
外国というより、異世界だ。
「薔薇は、それで納得しているのか?」
もちろん納得している。というより、日本に戻ってきた今でさえ、私の居場所はロスノック帝国だと感じている。私は、レオンと一緒にロスノック帝国で暮らしたい。
父親の言葉に頷いていた。
レオンだけに頭を下げさせてはいけないと思った。私たちは夫婦になるのだから、両親を説得するのも二人でするべきだ。だから私は、しっかりと父親を見て告げた。
「私は、今まで恋人はおろか、友達だっていなかった。ゲームだけが恋人だった。
レオンは、こんな私を認めてくれて、私の全てを好きになってくれた。
こんな人、レオン以外に一生現れないと思うの」
レオンの視線を痛いほど感じる。だが、素直な気持ちを述べる私は、恥ずかしくてレオンを見ることが出来ない。
「私はレオンとともにいたい。一緒添い遂げたいと思ってる」
沈黙が舞い降りる。父親は深く考えるように俯き、母親はおろおろしている。反対されたとしても、私はロスノック帝国に戻るつもりだ。だけど欲を言えば、レオンとの結婚を認めてもらいたい。レオンもそれを望んで、プライドを捨ててまで頭を下げているのだから。
「そうだな。……獅子君は、薔薇には出来すぎた彼氏だ。
ここで獅子君を逃すと、薔薇は一生結婚出来ないかもしれない」
分かっているが、地味に心が痛い。
「獅子君、これからも薔薇をよろしくお願いしますね」
その言葉に、
「ありがとうございます!」
レオンは深々と頭を下げていた。
こんなわけで、私の両親からも結婚の承諾をいただいた。もちろん、反対されても結婚するつもりではいたが。
頭が軽い私の両親は、何の疑いもなくロスノック帝国の婚姻届にサインをした。これでヘルベルト様だって反対することが出来ないだろう。
帰りの電車の中で、草餅やら緑茶やらが入ったビニール袋を抱えているレオンを見る。この世界に来てから、普通の人に成り下がっているレオンだが、今日は私の両親に頭まで下げてくれた。
「レオン、ごめんね……」
謝ることはたくさんある。実家が狭くて汚いこと。余計な土産を持たされたこと。お買い得品を食べさせられたこと。父親が失礼なことを言ったこと。そして、レオンに頭を下げさせたこと。考えれば考えるほど、レオンにとって酷な仕打ちだと分かる。
それなのに、レオンは甘く優しい目で私を見る。
「ローザの両親に、認めてもらえてホッとしている」
「認めるに決まってるよ」
だって、レオンは全てにおいて極上なんだもん。なんて言葉が出かかった。代わりに、
「カルチャーショックだったでしょ。辛い思いをさせちゃったね」
遠慮がちに告げる。ここでレオンに両親を全否定されたら……仕方がないけど、心がちくりと痛むな、なんて思った。
だが、レオンは幸せそうに口元を緩めて告げる。
「ローザは、愛情をたくさんかけられて育ったのか」
「……え? 」
思わず聞き返すと、その深緑色の瞳で優しげに私を見る。
「私は生まれた時から敬われていたし、父母からも王子として厳しく育てられた。
だから、一身に愛を受けて育てられたローザを、羨ましく思った」
正直意外だった。レオンがそんなことを思っているなんて……
「両親が愛情を持って育てたから、ローザみたいな優しくて芯の強い人間になったのだろう」
「そんなことないよ、全然」
否定しながらも、初めて両親を誇らしく思った。
思い返せば、私に変な名前を付けたが、それ以外はまともな両親だったかもしれない。私がいじめられた時は学校に相談に行ってくれたし、落ち込んでいる時は話を聞いてくれた。ゲームと仕事しかしないという生活を知っても、そっとしておいてくれた。そんな両親の子に生まれて、私は実は幸せだったのかもしれない。
「国に戻ったら、緑茶と草餅を育てようと思う。
それを食べて、リリーもたまには故郷を思い出して欲しい」
「草餅は木になるものじゃないんだよ」
くすくす笑う私に身を寄せ、レオンも幸せそうに笑った。
「ローザ、私たちに子供が出来たら、愛情を持って育てよう。
草餅も食べさせてやりたいし、たまにはこの世界にも連れてきてあげたい」
「そうだね……」
電車に揺られながら身を寄せ合い、幸せを噛みしめた。紆余曲折があったが、レオンとならずっと幸せでいられる気がした。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




