14. 無礼すぎる私の父母
こうして私たちは無事に東京に戻り、予定外に私の両親にも会うこととなった。しばらく家族とも疎遠となっていた私だ。私が急にレオンを連れていったら、どんな反応をされるのだろうか。考えるだけでも怖かった。
私の実家は、東京の外れにある住宅街にあった。東京駅から電車に乗って一時間、辺りはすっかり自然に覆われ、都心とは雰囲気が違っていた。緑に包まれた駅で、私はレオンとともに電車を降りる。そして、久しぶりに帰る実家へと向かった。
この街にはいい記憶はない。
名前が変だからと、笑われ馬鹿にされた。それで私は、この地で陰キャ街道まっしぐらになったのだ。道を歩いているうちにも、同級生に会って馬鹿にされないかビクビクしている。
レオンはこんな私の不安が分かるのか、そっと手を握ってくれる。
あの頃の私は孤独だったが、今は一人ではないと改めて思う。
やがて、見慣れた家に辿り着いた。小さな一軒家で、『浜田』という表札が付いている。私は震える手で玄関のチャイムを押した。
そして、チャイムを押しながら、ふと思った。レオンはきっと、自分をロスノック帝国の王子だと自己紹介するのだろう。そして、国にいる時のような王子様的態度を取るのだろう。ハンスさんに対してだってそうだった。そもそも、レオンがかしこまった態度を取るところなんて見たこともない。
横柄なレオンを見ると、私の両親だっていい気がしないだろう。そして、怒り始めるかもしれない。もうこの国に帰ってくるとはいえ、レオンが嫌われるのは辛かった。
だが……私の心配は、全て無用となってしまったのだ。
しばらくして扉を開けた母親は、
「……薔薇? 」
私を見て驚いた顔をした。そして、隣にいる美男レオンを見て頬を染める。そのままぱたぱたと門まで走り出てきた。
「薔薇、急にどうしたの!?
ずっと連絡だって返してくれなかったのに!」
そんな母親に、
「ごめん……ちょっとだけ、報告があって……」
私は遠慮がちに伝えていた。そして、語弊に気付いた。私がしようとしていたのは、ちょっとだけの報告ではなく、人生最大の報告だろう。それなのに、色々気にする余り、ちょっとだけだなんて謙遜した言い方になってしまった。
母親は頬を染めたまま、美男レオンを見る。
「そちらのかたは……?」
恐る恐る聞く母親に、レオンは爽やかな笑顔で答えた。
「ローザさんと交際させていただいている、レオンと申します」
「まぁ!獅子さんだなんて……」
いや、レオンは獅子ではない。勝手に変な字を当てるの、本当にやめて!!
私は心の中で叫んでいた。そして、レオンがかしこまった態度を取れるのだと驚くばかりだった。
見慣れた小さなリビングに通されると、父親がソファーの上で寝転んでいた。よれたジャージを着ている。おまけに、リビングはいつものように散らかっている。脱ぎっぱなしの服に、山積みの新聞紙。こんな殺風景をレオンに見られるのが、ひどく恥ずかしい。
寝転んでいる父親に、真っ赤な顔の母親が言う。
「お父さん!こんなところで寝っ転がってないで!!
ほら!薔薇の彼氏が来てるんだから!!」
母親の言葉に飛び上がった父親が、驚きのあまりソファーから落ちる。もう、本当にみっともないからやめて!!
恐る恐るレオンを見上げるが、案の定目が点だ。予想以上の酷い家族を見て、育ちのいいレオンはついていけないと思っているだろう。その前に、私のことが嫌いになったらどうしよう。悪いことばかり考えてしまう私がいた。
結局、慌てに慌てた二人は、散らかった部屋の中の小汚いダイニングテーブルに私たちを座らせる。そしてようやく落ち着いた父親が、前の椅子に腰掛けた。母親は慌ててお茶とお菓子を出すが……
「何これ」
思わず言ってしまう。だって、王子様にこんなものをお出ししたら、失礼すぎるのだ!
目の前には緑茶と、その辺りのスーパーで買ってきたであろう、草餅が置かれている。草餅のパックには、『お買い得』と書かれたシールまで貼ってあり、それを目の前で開けて皿に盛るのだ。
「薔薇、草餅好きだったでしょ」
母親が言うが、私はさらに固まってしまう。しかも父親は、美味そうだなんて言って、手掴みで食べ始める。
もう、レオンを見るのさえ怖かった。こんな粗末なものを出すなと怒り始めるのではないか!
慌てた私は、母親に告げる。
「お母さん!私、駅前の商店街で、高級マカロンやお洒落なケーキでも買ってくるから!!」
そんな私を、母親はぽかーんと見つめる。いったい、薔薇はどうしてしまったのだろうと思っているのだろう。
だが……
「それは草餅というのですか?」
レオンが笑顔で聞く。
「私の国には草餅なんてものはないので、ぜひいただきたい」
……は!? 食べるの!?
この、お買い得食品の草餅を食べちゃうの!?
ぽかーんとする私の前で、レオンは手で草餅を持ち上げた。そしてそっと口に含む。草餅を食べる仕草さえ上品なんですが!!
草餅を食べたレオンは、目を細めて頬を緩めて告げた。
「とても美味しいです」
えっ!? マジで!?
今度は私の目が点になる番だった。
「私の故郷にも、土産として持って帰りたいほどです」
私はもう、レオンが分からなくなってきた。もしかして、書類にサインをもらうため演技をしているのだろうか。……絶対そうだ!
このレオンの演技に母親はまんまと引っかかり、
「じゃあ持って行ってよ!」
大量の餅をスーパーのビニール袋に入れ始める。その気持ちは嬉しいけど……実際、レオンはいらないだろう。おまけに、王子様に『お買い得品』を渡すなんてあり得ないだろう。
続いて緑茶を飲んだレオンは、
「変わった飲み物ですね。これも美味しいです」
だなんて言い始める。そんなわけで、緑茶の葉も大量にもらってしまったのだ。
父親もなんだか機嫌が良さそうだし、母親なんてレオンを見て頬を染めている。レオンが凄まじいイケメンなのは分かるが、その見え透いた行動はどうにかならないのだろうか。
しまいには、
「薔薇がこんなかっこいい彼氏を捕まえるだなんて、何かの間違いじゃないかしら」
だなんて言い始める始末。それは他でもない私が一番思っている。夢なのだろうか。夢なら醒めないでいて欲しい。
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