5. 美男は極悪非道の悪魔王子
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私はゲームの画面を見つめていた。画面には、緑色の鎧に身を包んだ第二王子レオンが浮かび上がり、話し始める。どうやら私は眠っていたようだ。
ゲームの中のレオンは、悪役さながらといった台詞を吐き出した。
『ふははははは!これでグルニア帝国の機械は、この私のものだ!』
ぼーっとレオンを見ながら思った。あの美男がレオンだとは思えない。そもそも、全てがゲームの設定と少しずつ違っていたのだ。
やけにリアルな夢だったな。だけど、もう見たくないや。
私はゲームをリセットしようとするが、ゲームは動かない。それどころか、ゲームを握る私の手から、白い光が溢れ出す。
「……ッ!!!!? 」
ーーーーーーーー……
ーーーーーー……
私は声にならない声を上げ、ガバッと身を起こした。そして、見知らぬ部屋にいることに気付いた。
見知らぬ部屋といっても、グルニア帝国の牢屋みたいな部屋ではない。至って普通の、いや、豪華な部屋なのだ。
クリーム色を基調とした広い部屋の真ん中には、ソファーとテーブルが置かれている。
カーテンが開けられた窓からは、どんよりと曇った空が見える。
そして私は、天蓋付きの大きなベッドに寝ているのだ。
……寝ている!?
慌てて身を起こすと、ベッドサイドには美男がいた。ベッドに手をかけている美男は、もう鎧は着ていなかった。
緑色の服にマント。この服装はまさか……
「ようやく目が覚めたね」
美男はやはり、優しげに笑いかける。
こうやって落ち着いて見ると、想像以上のイケメンだ。男慣れしていない私は、美男を見ると真っ赤になってしまう。きっと、陰キャがキョドってるだなんて思われているのだろう。
こんな私に、美男は優しく告げる。
「心配した」
「あ、ありがとう……ございます」
そう告げるのが精一杯だった。
そんなに綺麗な顔で、そんなに間近にいて、そんなに優しい声で話しかけられると、私は落ち着かない。何しろ、イケメンには慣れていないのだから。
イケメンとは、ゲームの中でしか関わったことがない。
挙動不審の私に、イケメンは不意に告げた。
「私は、ロスノック帝国の第二王子だ。レオンと呼んでくれ」
その瞬間、なんとなく想像していたものの、背筋がゾゾーッとした。
この人がやっぱりレオン第二王子なんだ。極悪非道の悪魔、レオン第二王子なんだ。
それにしても、レオン王子がこんなにイケメンだなんて犯罪だ。おまけに、こっちのレオン王子は今のところ優しくていい人だ。
ドミニクのキャラ変も凄かったが、レオン王子だって想像以上だ。
「れ……レオン様」
かろうじてそう告げると、また嬉しそうに笑う。その笑顔を見ると、頭がくらくらするのだった。
レオン様は笑顔のまま、私に聞く。
「君の名前は?」
「私は……」
そう言って、躊躇った。何を隠そう、私は浜田薔薇だ。今まで数えきれない人に名前を笑われ、馬鹿にされてきた。きっとレオン様だって笑うはずだ。
だが、レオン様に嘘をつく気にもなれず、告げていた。
「薔薇です」
すると、レオン様は目を細めて嬉しそうに言った。
「そうか、ローザって言うのか。いい名前だ」
「はい? 」
思わず聞き返していた。何かの間違いだろうと思ったから。いい名前だなんて、レオン様は頭がおかしいのだろうか。いや、きっと内心嘲笑っているはず……
だが、レオン様は全く嘲笑う様子も見せず、にこにこしているのみだ。その笑顔に裏は無さそうにも見えるが、もしかしたらすごいポーカーフェイスかもしれない。
私はそのポーカーフェイスが崩れるのを待つが、レオン様はにこにこしたままだ。
「ローザ、聞きたいことは色々あるが、まずは疲れているだろう。ゆっくり休むといい」
そう言い残して部屋から出て行った。私はぼーっとレオン様が出て行った扉を眺めていた。
男性に免疫がない私は、こうやってイケメンに優しく話しかけられるだけで顔が熱くなってしまう。今まで散々こじらせて来た結果がこれだ。
だが、レオン様だって今は優しくしてくれているだけで、そのうち態度を変えるかもしれない。だから、いくら優しくてもレオン様を信じようなんて思うことはやめておいた。私はこうやって、散々な人生を送ってきたのだから。
レオン様が出て行って、改めて部屋の中を見て回った。
立派なベッドに、ふかふかのソファー。大きな広い部屋。グルニア帝国の牢屋みたいな部屋とは大違いだ。
窓から外を見ると、どんよりと立ち込めた低い雲の下、整えられた立派な庭園が見える。とても広大で綺麗なのだが、植物に元気がないように思えてしまう。
そして、立派な庭園内の通路を、緑色の服を着た人がせわしなく行き交っているのだった。
きっとここはロスノック帝国の宮廷内なのだろう。私はいつまでここにいられるのだろう。
まさか、いつかグルニア帝国に返送される……それはないよね? グルニア帝国での日々を思い出すと、そんなことを考えられずにはいられなかった。グルニア帝国での扱いは、そこまで私にダメージを与えていたのだ。
ふと、庭園のベンチに座り、パンを食べている男女が見えた。いいなあと思いながらも、私には無縁の光景だと思い直す。
そして、酷くお腹が空いていることにも気付いた。私はこの国に来てから、何日もまともな物を食べていない。
こんな中、扉がノックして開かれたのだ。
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