7. リリーの幼馴染は日本にいる
「ローザ。乗馬が上手になったな。でも、君には車があるだろう」
宮廷内の乗馬場で、ようやく馬を乗りこなせるようになった私に、彼は言う。私は馬から降りて、苦笑いしながら告げた。
「この街を車で走ったら、いよいよ変な目で見られちゃう。私が変な目で見られると、レオンの評判にも響くでしょう?」
「いや、そんなことはない。私は評判なんて気にしない。
むしろ、私も車を運転したい」
「そっか。じゃあ、今度ドライブでも行きたいね」
対等な関係を意識してから、私とレオンの関係はまた変わった。私はリリーと同様に気兼ねなく話すようになり、彼も喜んでそれを受け入れてくれた。なんだか本当のカップルになったみたいだ。陰キャの私は信じられない気持ちでいっぱいだが。
そんななか、リリーが現れる。
「レオン様、私をお呼びでしたか」
「そうだ。少し話がある」
そう言って、彼はリリーに聞いた。グルニア帝国の機械に詳しい人は知らないかと。
リリーは少し困惑した顔で告げる。
「申し訳ありません。……私は知りません」
「だが、ローザはリリーの知人を頼ってはどうかと言った」
リリーは困ったように私を見る。リリーだってきっと、彼のことだと分かっているだろう。だけど、会いたくないのかもしれない。リリーは彼にずっと密かに恋をしているのだから。あまり彼のことを話さないリリーだが、一度だけ私に教えてくれた。今はグルニア帝国で機械工をしているという幼馴染を、リリーは好きだと。
私は今、こんなにも幸せだ。だから、リリーにも幸せになって欲しい。リリーの恋も国の問題も解決出来るのなら、彼に会うしかないだろう。何と言っても、レオンだって乗り気だ。
私はリリーに告げる。
「リリー。私は、この問題を解決出来るのは、彼しかいないと思うの」
「でもローザ……彼はグルニア帝国にいるのよ?
もしかしたら、何か良くないことが起こるかもしれない」
「それは彼に会ってみないと分からない。だが、会ってみる価値はあると思うのだ」
リリーは浮かない顔をしている。そして、言いにくそうに告げた。
「それでも私は、彼に会いたくないです」
……え?
「私は彼に嫌われていると思います。だから会うのが辛いです」
私はリリーと彼の関係を、深く考えていなかった。いい関係なのだろうと、勝手に思っていた。私は愚かだ。大好きなリリーに、辛い思いをさせてしまうなんて。
しばらく沈黙が訪れた。やがて口を開いたのは、レオンだった。
「それなら、ローザと私で会いに行ってみよう。私たち二人なら、グルニア軍に襲われても車で上手くやっつけられるだろう」
「れ、レオン様!車はそんなに万能ではありませんし、車でグルニア帝国に行ったら目立ちます!」
私は慌てて告げる。彼は車をすごい戦車か何かだと勘違いしているのだろうか。ボタンを押せば、ミサイルでも出ると思っているのだろうか。
こんな私を、レオンは少し不貞腐れたように見る。きっと、今までのように敬語で話したからだろう。だけど私は、リリーの前でイチャつくことなんて出来ない。だいいち、『二人の時だけ』の約束だったから、これでいいんだよね?
わざとらしくため息をついて、レオンは言った。
「まず、彼宛てに手紙を出すとしよう。それで動向を探り、会えるようなら会ってみる。
私はこの国にグルニア帝国の手が入り込んでいるのが非常にまずいと思うし、ローザを危険な目に遭わせたくないのだ」
こうして、レオンはリリーの幼馴染宛てに手紙を出した。リリーによると、幼馴染の名はハンスというらしい。グルニア王国の王宮近くの機械研究所で、機械工をしているとのことだ。
そして手紙は数日後に返ってきたのだが、差出人はハンスではなかった。
『グルニア王国立 機械研究所 シリル』
その手紙には、シリルの綺麗な文字で、びっしりと字が書かれていた。
『拝啓 ロスノック帝国 王太子殿下
ハンスが不在のため、私が代わりに返信させていただいたことをご容赦ください。
ハンスがこの世界を去ってから、六年が経っています。ハンスは今、機械が著しく発展した異世界の国におり、グルニア帝国に帰ってくる予定はないのです。
殿下もご存じの通り、グルニア帝国は混乱しています。国民は貧窮し、どれだけ成果を上げても報われることはありません。そのため、ハンスはこの世界に絶望を抱き、異世界へと旅立っていきました。』
胸がどきりとする。
機械が著しく発展した異世界というのは……まさか……
『異世界へは、私の自宅にある装置から転送することが可能です。
ただ、異世界にいられる時間は、三日間のみです。
殿下がどうしてもハンスに会いたいようでしたら、私は三日間だけ協力することが出来るでしょう。
グルニア帝国から、ハンスと王太子殿下のますますのご活躍を祈って シリル』
予想外の展開だ。リリーの慕う相手ハンスは、この世界にいないだなんて。しかも、異世界……おそらく、私の故郷にいるだなんて。
唖然とする私に、レオンは聞く。
「ローザ、どう思う?」
私は手紙を持ったまま震えていた。
「異世界って……私の故郷のこと……かな?」
「私もそう思う」
レオンは静かに告げた。
「この文面からも、ハンスはグルニア帝国を捨てたことが分かる。シリルも予想外に協力的だ。
私は、ハンスに会いに行こうかと思う」
そう言うのは分かっていた。レオンは危険を省みず、国のために尽くす人だから。私だって、出来ることなら呪われた故郷に戻りたくはない。だけど、あの世界に、あの世界のことを何も知らないレオン一人で行かせるわけにはいかない。
「私も一緒に行きます」
「だが、君を危険な目に遭わせたくない」
そう言われるのも分かっていた。だけど、何もかもをレオンが一人で背負うのはいけない。今までも十分背負ってきたのだから。
「私は王太子妃になるんだよね?私たちは対等な関係なんだよね?
それじゃあ、私にも決定権はあります。
……私は、レオンと異世界に行く!」
レオンは私を見て、泣きそうな顔で笑った。きっと彼も心細かったのだろう。だけど、私を心配するあまり、一人で背負い込むことに決めたのだろう。
「ローザ……ありがとう」
レオンは口元を緩めて私を見る。いつもは凛として弱みを見せないレオンが、こうも私に全てを曝け出してくれている。それがとても嬉しい。
私は一歩また一歩と、レオンと夫婦になる道へと近付いている。
「何があっても必ず君を守るから」
ぎゅっと抱きしめられ、優しいキスが舞い降りる。その体を抱きしめながら、私は幸せを感じていた。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




