5. 遊びはもう、止めにしよう
いつの間にか、部屋の中には数人の黄緑色のローブを着た魔導士が立っていた。そしていきなり、私は後ろから羽交締めにされ、目と口を塞がれた。
「!?」
慌て驚く私の隣で、
「何をしている!? 」
レオン様の声が聞こえた。そして軽い衝撃が走り、私の横にどさっと魔導士が倒れる。
いつのまにか食堂内に第一魔導士団が入り込み、私を連れ去ろうと狙っていたのだと気付いた。レオン様が近くにいたため何事もなくて、本当に良かった。
私の誘拐は失敗に終わったが、部屋の中にいる黄緑色のローブの魔導士は、私目がけて一斉に魔法を唱えた。殺すつもりなのだろうか。
咄嗟の判断で防御魔法をかけると、隣にいたレオン様が攻撃魔法を放った。白い光の縄は魔導士たちを捕らえ、ぎゅっと縛り付ける。
「ローザ!大丈夫か!?」
レオン様が私の体に手を回したが、慌てて振り払った。
「れ、レオナルド、平気だよ!
それにしても、なんでこんな所に第一魔導士団がいるのかな……」
「分からない。だが、君を狙っていた」
「……ねぇ、レオナルド。もしかして、受信機が付いてない?」
私の言葉で、レオン様が倒れた魔導士の首元を探る。すると、耳の下辺りに小さな受信機が埋め込まれていたのだ。
……やっぱり!この人も、誰かに操られていたんだ。
背筋がゾーッとする。呆然と立ち尽くす私の前で、レオン様やリリーが魔法で縛られている魔導士たちの首元も確認する。するとやはり、受信機が埋まっていたのだ。
「やはり、ローザはまだ狙われていたのか……」
レオン様がぽつりと呟いた時だった。
「レオナルド!お前、新入りのくせにすごいじゃないか!!」
第二騎士団の騎士たちが、一斉に騒ぎ始める。
「今まで何をしていたんだ!? 実戦に慣れているとしか思えない!」
「レオン様にも、肩を並べる強さじゃないか!?」
いや……レオン様なんだけど……だけどこの騎士たちは、レオン様だと知るとひっくり返るだろう。だから、彼らのためにもバレてはいけないと強く思う。
だから私は、必死で猿芝居をした。
「レオナルドってすごいんだね!!
そんな魔法使えるんだね!!」
魔導士団のみんなの視線が痛い。まるで、故郷で馬鹿にされていた時のことを思い出してしまった。だが、私はヤケクソで続ける。
「魔法を使っているレオナルド、すごくかっこ良かった!!」
私の猿芝居が終わると、しーんと辺りが静まり返った。魔導士団のみんなは、笑いを堪えているのか、それとも戸惑っているのか、何とも言えない表情で私を見ている。
そして騎士たちは、わざとらしく囃し立てる私をぽかーんと見ている。
私はきっと、大根役者なのだろう。何かを隠していることが、バレバレだったのだろう。
そんな様子を察したのか、レオン様がすっと背を伸ばし、公務をしている時のような冷静な口調で言い放った。
「遊びはもう、止めにしよう」
「はい!? 」
思わず聞き返した私の前で、レオン様はなんと茶色い髪のかつらを投げてしまった。茶色い癖毛の下からは、鮮やかなブロンドヘアが現れる。
うわー……やってしまった!!
これでレオン様は、騎士団からも変人扱い確定だ!!
辺りが騒然とする。レオン様と親しげに、しかも上から目線で話していた騎士なんて、目を白黒させている。そしてすみませんと土下座する勢いだ。
新入りの魔導士レオナルドが、レオン様だったなんて。年に数回しか会わないような、尊敬する王太子だったなんて!!
騎士たちは慌てふためき、魔導士たちは笑いたいのを必死で堪えている。なかなかカオスな絵図だ。そして私は、口をあんぐり開けてレオン様を見ている。
「ローザ。君が私に友達のように話すから、私の心は痺れっぱなしだ」
こ、こんな所で言わないで欲しい!私だって、バレないようにと必死に頑張ったのだから!!
そして、猿芝居を思い出して酷く恥ずかしくなる。
「それよりも、この国は私の想像以上に何者かに侵されているようだ。
楽しんでいるところ申し訳ないが、各々受信機が付いていないか、確認させてもらう」
そう言ってレオン様は、
「マリウス!」
マリウス様を呼ぶ。そしてマリウス様は、変な笑いを浮かべながら調理場から出てくる。マリウス様、見ていたんだ。そしてその笑い、すごく楽しんでいたのだろう!
それから、マリウス様と数人の城の者は、騎士たちと魔導士たちの首元を一人ずつ確認して回った。幸いなことに、第二騎士団と第二魔導士団からは受信機は見つからなかったようだ。
「我ら第二騎士団と魔導士団は無傷で良かったが……ますます謎が深まるな」
レオン様は深く考えながらぼやく。
「どうして、第一魔導士団にだけ付いているのだろう」
そんなレオン様は、かつらこそ脱ぎ捨てているものの、第二魔導士団の隊服を着ている。何だか新鮮でおかしく、そして意外と似合っている。不覚にも、見惚れてしまう。
そんな私の視線にレオン様は気付き、
「ローザ」
私を呼ぶ。
「君の視線が痛いのだが」
えぇ!あなたがめちゃくちゃなことをされるから、私だって色々考えているのです!なんて言葉が口から出かかった。
もはや、誰もレオン様に話しかける人はいなかった。魔導士団の新入りレオナルドがレオン様だと知って、態度が大きかった騎士たちは恐縮しきりだった。こうやって、レオン様はまた私の周りの男性を牽制するのだ。
「ローザ、外はやはり危険だ。今日はもう帰って私と寝よう」
何だか最後の部分だけ、おかしくないだろうか。最近のレオン様の迫り様には、普通ではない気迫を感じる。
「レオン様」
私は無理矢理笑顔で告げた。
「仮にも私は最強魔導士です。
持続魔法で結界を張って、誰一人として私の部屋に入れないようにいたします」
そう、変な気を起こしたレオン様ですら入れないように。
こうやって必死に抵抗するが、いつかはレオン様に抱かれてしまうのだろう。その時私は、どうなってしまうのだろう。
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