4. 王子様は危険
「ローザが来るまでは、殿下とそんなに関わったことがなかったから知らなかったけど……」
「殿下って、ヤバいよね。色んな意味で」
仲間たちがひそひそ噂をしている。
「ただの強いイケメンかと思っていたのだけど……」
私はそんな話を聞いて、自分のことのように恥ずかしくなった。だって、レオン様は、凡人では到底考えもしなかったやり方で、飲み会に強制参加してしまうのだから。
「私は、最近魔導士団に入団した、レオナルドだ。
皆の者、よろしく」
飲み会が開かれる食堂内で、彼が自己紹介をする。茶色のくせ毛のかつらを被り、魔導士団の隊服を着ているレオン様を、第一騎士団は王太子と疑ってはいないようだ。
「あのバレバレの変装、バレバレの態度でよく気付かれないよね」
「普通は、年に数回しかお目にかからない人だからじゃない?」
後ろのテーブルで、ひそひそ話が聞こえる。そのテーブルからは、リリーの声も聞こえるのだ。
「ローザが現れるまでは、真っ当な第二王子だったよ?
ローザと魔力交換をした辺りから、おかしくなってきたんだけど」
リリーもそう思うのか。私だってそう思う。
そして、レオン様が年に数回しかお目にかからないとは、どういうことだろうか。私が魔導士団に入団してからは、頻繁に現れ(邪魔され)ている。
変装していても、レオン様はかっこいい。それにその魔導士団の隊服も、なかなか似合っている。
レオン様をぼーっと見ていると、視線がぶつかった。それで慌てて目を逸らす。私はきっと、真っ赤な顔をしている。
私の前には、奇跡的にアイドル騎士のアイク様が座っているが、私はレオン様が気になって仕方がない。真っ赤になって下を向くと、アイク様に話しかけられた。
「あなたは、第二王子レオン様の婚約者ですね。お話は聞いています。おめでとうございます」
なんと、アイク様はイケメンのうえ、性格だって良さそうだ。私はレオン様を思って頬を染めながらも、アイク様に礼を言う。すると、アイク様は目を輝かせて私に告げるのだ。
「私たち第二騎士団は、いつも殿下に助けられています。王子なのに先頭に立って指揮する殿下を、皆尊敬しています」
その話を聞いてすごく嬉しく思った。レオン様は、こんなにも部下から慕われているのだ。思わずにやけてしまう。
だが……遠くから、刺すような視線を感じる。紛れもなくレオン様だ。レオン様はこうやって、私を見張っているのだ。レオン様を尊敬する第二騎士団の皆さんに、現在のレオン様の行いがバレないようにと祈るばかりだ。
「私たちだって、アイク様を尊敬していますよ!」
いつの間にか、私の周りには人が集まっている。このアイドル騎士アイク様目当てだろう。だけど私は、頭のネジが外れてしまっても、レオン様がいい。レオン様中毒だ。
ふとレオン様を見ると、私を気にしながらも、第二騎士団の男性と仲良さそうに話をしている。第二騎士団の屈強な男性の自慢話を聞き、すごいと言っているのだ。レオン様だってすごいのに。レオン様はなんだかんだ言って、優しくて人当たりがいい。こういうところが好きなのだ。
「レオナルド、どうして魔導士団に入ったんだ?
お前は力もありそうだし、騎士でも通用するだろう」
「そうだな。……でも私は、騎士も魔導士も、同じくらいすごいと思っている」
この騎士は、レオナルドがレオン様だと分かるとひっくり返るだろう。そして、そんなことが起こらないことを祈るばかりだ。
私の周囲は、いつの間にかアイク様狙いの魔導士で溢れていた。アイク様に興味のない私は、そっと立ち上がる。私が立ち上がるのを見たレオン様も立ち上がったため、私はそっと逃げ始める。
そして、立ち上がったレオン様の右手首の痣を、騎士団の男性が目敏く見つけた。
「あっ、レオナルド!それ、魔力交換の痣だろ?」
ビクッとする私。私はもちろん、右手首にはスカーフを巻いている。
レオン様はわざと見せつけるように、それに唇を付ける。
「もうやったのか!?」
「まあね。私には、大切な人がいるから」
また始まった。そして私は聞かないふりを続けるのみだ。だが、気になって仕方がない。
「本当か。恋人か?」
「あぁ、結婚するんだ」
「そうか。殿下も結婚されるようだし、レオナルドもおめでたいな」
とうとう我慢が出来なくなった私は、
「レオナルド!」
レオン様を呼んで、そのテーブルへと近付いていた。
私に呼ばれ、目を輝かせて顔を上げるレオン様。その顔を見るだけで、ぼっと全身が熱くなる。そんなに嬉しそうに、私を見ないで欲しい。
「れ、レオナルド。ハンカチが落ちてるよ」
そう言って床に落ちたものを拾うマネをする。するとレオン様も、慌てて取ろうと身を屈めた。
その瞬間、耳元で囁く。
「レオン様、バレると危険です」
私は警告するはずだった。だが、この行為が火に油を注いでしまったのだ。
「危険?……なにが危険なんだ?」
レオン様は意地悪だ。口角を上げて、甘い瞳で私を見る。
「だっ、だから!!」
「君が男と仲良くしているのを、君の婚約者が知ったら危険だろうな」
「ち、違っ!!そんなんじゃない!!」
咄嗟に否定するが、レオン様はなんだか怒っているようだ。挑むような瞳で私を見る。
「何が違うんだ?
……彼は今、君をすぐにでも抱きたいと思っているだろう。他の男が入る隙もないくらい、彼でいっぱいにしたいと」
「ちょっと……何それ……」
そう言いながらも、顔は真っ赤だ。そして彼も頬を染めている。レオン様……嫉妬しているんだ。
レオン様は頬を染め、口元をきゅっと結び私に近付く。私はじりじりと後退りする。
このままでは、私はレオン様に捕えられてしまう。そして、レオン様もバレてしまう。
騎士団の男性も、レオン様と私のただならぬ様子をポカーンと見ている。魔導士団のみんなも、ハラハラしてこっちを見ている。
どうしよう……
そんななか、不意に近くでパリーンと皿の割れる音がした。みんなの注意は、その音に集まった。
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