3. 冗談はおやめください
翌日、いつものように緑色のローブを着て、魔導士団に出勤する。私は正式にレオン様の婚約者となったが、意外と何も変わっていない。というより、レオン様が私とデキているということは、城内の周知の事実となっていた。レオン様は人目もはばからず私を抱きしめるし、キスだってしようとするからだ。私は、そんなレオン様から逃げながらも絆され続けていた。
私が第二魔導士団の訓練施設の扉を開けると、
「ローザ!おめでとう!!」
仲間が一斉に駆け寄ってくる。
「私たちも婚約式行きたかったなぁ!」
「リリーだけ行けて、ずるい!!」
いや、みんなが来るときっと笑われるから、来なくて良かったとホッとする。だが、こうやって祝ってくれて、本当に嬉しい。
「みんな、これからも変わらずよろしくね」
そう言うと、よろしくと笑顔で言ってくれるみんな。私はこんなみんなが大好きだ。
こんな和やかな雰囲気のなか、
「ローザはローザで幸せだけど、私たちも今日は頑張らなきゃね」
近くにいた仲間が告げる。今日は……何の日だっけ? 婚約式の準備で忙しくしていた私は、魔導士団の行事をすっかり忘れていた。
ぽかーんとする私に、みんなは教えてくれる。
「ほら!今日は第二騎士団との飲み会よ」
「アイドル騎士の、アイク様と飲める、わーい!!」
騒ぎ始める仲間たちを見て、ようやく思い出した。そうだ、今日は第二魔導士団と第二騎士団の打ち上げという名目の、飲み会だった。
そして、アイドル騎士のアイク様は相変わらず人気だ。この飲み会が開かれたのも、アイク様目当てなのは間違いない。私はレオン様に夢中だが、第二魔導士団はアイク様に夢中なのだ。
ほっとため息をつく私に、
「ローザはさすがに行けないよね」
近くにいたカイトが言う。カイトは男性なのに、ちゃっかり騎士団との飲み会にも参加するらしい。
「そうだね。私はちょっと……」
特に夜に出歩くのは良くないだろう。また、私を狙う人だって出てくるかもしれないし……
「ローザが来ないの、寂しいなあ!」
「騎士たちは、殿下の婚約者のローザに興味津々なのに」
「ローザがいたら、アイク様とも話せるかもしれない!」
みんなは口々に言うが、私が行けるはずもない。王太子の婚約者なのに、騎士団との飲み会に参加していたなんて噂がたったら最悪だ。
「ごめんね」
みんなにそう謝った時だった。
「分かった、参加しよう」
聞き慣れた声がした。そしてその声を、今この場で聞くなんて思ってもいなかった。
私は、引き攣った顔で声のするほうを見る。するとそこには、にっこり笑うレオン様が立っている。
な、なんでこんなところにいるの!? 来るだなんて、聞いていないのに!!
私は、ずざざざざとレオン様から遠ざかった。だってレオン様はにっこり笑いこそしているが、明らかにピクついた笑みを浮かべているからだ。このまま見せしめのために、抱きつかれるのかもしれない!
急なレオン様の登場により、魔導士団のみんなもパニックを起こしている。
「で、殿下!申し訳ございません!!」
「私たち、冗談を言っただけです!」
「も、もちろん、ローザを連れていくつもりはありません!!」
必死にレオン様に弁明をしている。そんなみんなに、心底申し訳なく思ってしまう。私は今まで通りのローザだが、王太子の婚約者だ。今まで以上に慎重に行動しなければならないのだろう。
レオン様は首元に怒りが見え隠れする笑顔で、みんなに告げた。
「だから、参加しようと言っている」
……は!?
「私も参加して、ローザを誘惑する男は片っ端から叩き潰してやろう」
ちょっと待って。冗談には聞こえないのですが……!!
レオン様は、甘い猫撫で声で私に告げる。もちろん、首元だけ怒った、満面の笑みで。
「ローザ。私たちは昨夜も愛し合った身だ」
「はい!? 」
そのような事実はございませんが!!
「そのアイクとやらに、私とローザの愛し合った姿を見せつけてやろうではないか」
意味が分からない。そして、飲み会の席ではレオン様から逃げるのが必至だ。
レオン様は、いつものように袖を捲った右手首から覗く痣に、唇を付ける。だからそういうの、やめてよ!!
「れ、レオン様!!」
私は咄嗟に声を上げていた。そして苦し紛れに告げていた。
「王太子のレオン様なんかが、魔導士団と騎士団の飲み会に参加していたら、変な噂が流れることはないですか?」
だから私たちは、飲み会に出席するのはやめましょう。そう言うつもりだった。
だがレオン様は、考えるように口元に手を当て、
「そうだな……」
ぼやく。
「それなら、私にいい考えがあるのだが」
こうして、レオン様は私の思いもよらぬ方法で、飲み会に出席することとなった。レオン様の頭の中には、欠席という言葉は見つからなかったのだろうか。
……ネジが外れてしまっているのだから、普通の対応は求められないのかもしれない。
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